現場レポート

2024/09/24/火

医療・ヘルスケア事業の現場から

精神科クリニックの開業支援 ー地域のニーズに寄り添うー

【執筆】コンサルタント 宮原/【監修】取締役 小松大介

精神科医療 “外来”需要増加の背景

精神科領域では、統合失調症など旧来の長期入院が減少し、入院患者数は減少傾向にあります。その一方で、外来での診療を必要とする患者さんが増えています。特に近年増加の伸びが著しく、うつ病等の気分障害、そしてアルツハイマー病等高齢化に伴う認知症患者の増加がその背景にあります。

また、児童発達支援や職場・学校等でのメンタルヘルス対策の充実が進んできている背景もあり、就学前後の幼児・児童から思春期世代、現役世代、高齢者まで幅広い世代で診療ニーズが高まっているのが現状です。その結果、市中のクリニックでは初診を受診したくても予約がいっぱいで受診できない“初診待機”が生じています。

精神疾患を有する外来患者数の推移

*令和6年第4回新たな地域医療構想等に関する検討会 資料7より転載

初診待機の期間は、約1ヶ月~2ヶ月待ちが一般的だと言われており、PTSDや幼児・児童の症例など多職種による介入や一定の専門性が求められる場合は、さらに長い実態もあると言われています※1。受診ニーズの増加を背景に精神科を標榜する診療所の数は増加傾向にあり、特に人口の多い都市部では競合医療機関が多いため、経営戦略が安定した経営のカギになります。

※1中医協令和5年12月資料 精神科医療について(その2)
https://www.mhlw.go.jp/content/12404000/001182537.pdf

メディヴァの精神科開業支援

開業を志す精神科の医師は、精神科病院で外来および入院患者の診療に従事されてきた方がほとんどです。しかし、クリニックでは病院で診療していた患者層と異なる層への対応も必要になりますし、地域のニーズに応じた診療内容やサービス設計が重要になります。 

弊社の開業支援では、先生のご経験・専門性を活かしながら、開業されたい地域のニーズ・特性に合ったクリニック運営をご提案しています。用地・物件選定や事業継承、事業計画・融資相談・設計者選定・設計アドバイス・工事業者選定・工事アドバイス・マーケティング・オペレーション・事務長代行等、今までの実績から培った具体的なノウハウに基づき、企画から実行まで支援しております。

🔳開業場所の選び方については以下の記事で詳細をお読みいただけます。
>>「開業場所の選び方について」執筆/コンサルタント酒井

精神科クリニック開業支援の事例

精神科病院で長く診療に従事され、コロナ禍で内科合併症の対応の修練もされたのち、地元での開業を志された先生への支援例をご紹介します。

1.開業地・診療方針の選定

もともと自宅から片道1時間以上かかる市町村にある病院で勤務されていた医師で、クリニックを開業し通勤負担を減らしたいとお考えでした。ただ、開業地の候補は自宅周辺から少し離れるも人口が伸びている都市部、あるいは自宅の最寄り駅周辺のエリアなど幅広く迷っている状況でした。

ヒアリングや面談を進めていく中で、希望の優先順位をつけていく作業をしていきました。診療対象としたい患者層、提供できる診療内容(内科合併症)、新しく始めてみたい訪問医療の需給状況、さらに自費診療、協働したいと思っている医師やコメディカルの方の通勤距離などを軸に検討を進めました。

勤務医時代、特にコロナ禍以降は内科のコモンな症状に対し転院受診が難しい中で内科診療の修練を積まれたご経験もあり、精神科疾患だけでなくこころとからだをサポートできるクリニックを設立することに決められました。レントゲンや心電図計、超音波診断装置など医療機器の導入も悩まれましたが、新しいエリアで近隣の病院との連携を高め後方ベッドの確保にも繋げたいとの思いがあり、自院で何でも揃える形ではなく、高度医療での診断は地域連携を活用する方針にしました。

医療機器の他、クラウド版の電子カルテや予約システム、医療材料の卸など、開業時は様々な業者から魅力的なツールやサービスの活用を提案いただきます。どれを導入すべきか、費用対効果は問題ないか、先生おひとりでは判断に迷いがちですが、第三者として他院での導入事例・効果、導入してみてわかったデメリットなど、具体的な情報をご提供し、一緒に検討していきました。担当コンサルタントの知識・経験だけでなく、弊社が運営する医療法人社団プラタナスや経営コンサルティング先での実際の使用感など、リアルな情報を提供できることは弊社の強みの1つだと思っています。

また今回開業を決められた地域は、高齢化と現役世代の人口減少が著しいエリアで在宅医療の需要が高く、その反面在宅医療供給医療機関が少ないことから、訪問診療での精神科・一般内科医療の提供にチャレンジすることにしました。

そういった背景もあり最終的には、訪問診療や時間外対応におけるフレキシビリティを重要視し、ご自宅から遠く離れた大都市エリアではなく地元の町で、バス・電車・車でもアクセス良好な物件に決めました。

支援先クリニック

なお、精神科の物件選定では、特に下記の点を重視しています。

  1.  立地は明るくオープンな場所よりも、多少出入りが見られない場所がよい
    例:複数フロアのあるビルの上階など。むしろ1F路面店舗より賃料が安い)
  2. 診察室は、患者さんからの暴力等を想定して裏手側に外への出入口がある方がよい
  3. 精神科デイケアやリワークプログラム(復職支援)といった付帯サービスを提供したい場合は、そのスペースが確保できる面積またはテナントが近くにあるか

今回のケースではスモールスタートとし「3」は地域の事業所と連携する方針とし、「1」「2」の要件を満たすビルの2F以上を中心に候補をご提示しました。一緒に内覧しながら協議を行ない、2つの条件を満たす物件で契約されました。

クリニックの待合室

精神科・心療内科では、待合席が対面にならないように、個別性に配慮したデザインが多くなっています。

 

2.はじめての訪問診療の同行支援

前述の通り、在宅医療のニーズ増加が見込めるエリアであり、先生ご自身が認知症の進行予防や成人の健康管理に関心をもたれており、さらに非常に人当たりよく他職種とのコミュニケーションが円滑にできる先生でしたので、訪問診療の実施をご提案しました。

 弊社は訪問診療を担う診療所や在宅医療専門のクリニック支援の経験が豊富にあり、届出の書式や診療体制の整備、介護施設との調整、処方箋を患者やご家族・施設の方がどう扱えばよいかなど、細かい部分までサポートが可能です     。

たとえば、患家に訪問か、集合住宅・高齢者施設に訪問かで運用や診療報酬が異なる部分があり、初めての場合は混乱することが多いです。今回は、小規模多機能型に併設されたグループホームへの初回訪問に、コンサルタントも同席し     、ケアマネジャーの方との認識齟齬がないかの確認、患者さんの診察、施設・患者さんから受領する書類や提供いただく情報に漏れがないかなどサポートいたしました     。他での支援経験に基づき、間違えやすいポイントや注意点を、先生、同行される看護師や事務職の方とも協力しながら、チームで安定的に在宅医療が提供できるようになるまでご支援しています。

また、はじめての診療エリアで開業し在宅医療を展開していくためには、地域へのプロモーション活動が重要です。病院勤務医時代に医師同士の紹介状のやり取り、ご挨拶は慣れていらっしゃるものの、介護事業所や病院の地域連携室への挨拶周り、訪問営業についてはイメージがつかない先生も少なくありません。地域の中で実際に足を運ぶべき医療機関、事業所のリストアップや、お話される際のポイント等アドバイスいたしました。営業で使用するチラシ・パンフレット作成はもちろん、ウェブサイトの構成へのアドバイスや、ネット検索で上位に表示されるようにするSEO対策など、網羅的に集患対応をサポートしています。

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さいごに ー変わりゆく患者ニーズに応じたクリニック戦略

精神科医の先生が開業される際、病院から地域のクリニックへフィールドを移すだけでなく、外来に来られる患者さんはもちろん、ニーズに応じて訪問診療やオンライン診療など様々な場所にいる患者への新しいアプローチが求められるようになります。

令和6年度の診療報酬改定では、「情報通信機器を用いた場合」の通院精神療法が新設され、早期介入・トラウマ支援、多職種介入による質の高い診療に対する評価も見直されました。そして引き続き、介護・障害福祉サービス施設との連携を積極的に推進していくことが求められています。今回の開業ご支援では、診療をスタートしてから、在宅医療のニーズ、若年層の外来診療、自費サービスへのニーズが想像以上に多いことを実感しました。いずれのニーズも、院長先生やスタート時のスタッフにとってあまり経験のない領域のものでしたが、患者のニーズに応えてやってみようというマインドで、前向きに対応していくことが経営上非常に重要だと感じます。クリニックで雇用できる     スタッフの人数は限られますが、心理士やPSW、訪問看護経験のある看護師などの専門職が在籍することで、自費カウンセリングなどの要望に応えたり、はじめての在宅医療でも軌道にのせて事業を拡大することが可能になっています。

診療環境、外部環境の変化、多様性に適応しながら、患者・家族に選ばれるクリニック運営ができるように、弊社では、先生やチームスタッフの専門性と地域・マーケットの特性を踏まえ、開業されたい先生の想いの実現と患者視点での戦略の検討・実行を支援していきます。

今回ご支援させていただいたクリニックの皆様

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監修者

小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他

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