2023/02/15/水

事例紹介

診療報酬改定を受け、職種の壁を越えたチーム立ち上げへ

コンサルタント 樋口 久仁子

今回の事例のポイント

課題
精神科病院での訪問診療について、診療報酬改定を受けて「精神科在宅患者支援管理料」の算定を企画。算定要件には、多職種チームでの連携活動が必須であったが、 消極的な声が多く上がった。

解決策
各職種の反応から、そもそもの目的・意義の共有不足のため、動機付けに至っていないと判断。詳細な運用フローを作成し、企画提案書として整理。各部門長への説明を通して、経営側と現場側の認識の隔たりを無くす取り組みを実施。

結果
医師:訪問診療の必要性を理解でき、参画へ
看護師:何を誰とどう実施すればよいか明確になった
PSW/OT:業務を想定でき、実施に向けての学習意欲が高まった

多職種でのチーム連携にネガティヴな反応

昨今、診療報酬改定や働き方改革等で多職種チームの連携が推進されています。
令和4年度診療報酬改定でも、多職種での取り組みを評価するチーム加算が新設されました。今回の支援先の精神科病院では、患者様の地域移行・地域定着に対する取組みとしてアウトリーチ活動強化の方針を打ち出しており、精神科訪問診療について「精神科在宅患者支援管理料」の算定を企画していました。
その算定要件には、多職種チームでの訪問、チームの合同カンファレンスといった連携活動が必須であったため、まず各部門長に内容を深くご理解いただく必要がありました。

関連部署の担当者との初回打ち合わせにて各職種の実施内容やフローの案をご説明すると、そもそも「忙しいから無理」「〇〇先生は協力してくれないからやりようがない」「算定するための、形だけの取組みではないか」とそれぞれにネガティヴな反応が返ってくる状態でした。 各職種の反応から見えた課題は、下記の通りです。

【課題】
共通:なぜ新たな算定を行っていくのかについて、目的・意義が認識されていない
医師:訪問診療自体に抵抗感がある(なぜ病棟ではなく訪問に力をいれる必要があるのかが不明瞭、未経験のことに対する忌避)
看護師:算定要件が複雑で業務内容・業務量がイメージしにくい、多職種連携が出来るか不安(訪問、カンファレンス、文書作成)
PSW/OT:全面的に賛同、協力したい一方で人員不足により業務量において実現不可

詳細な企画書で、目的・業務内容を見える化

上記のように、そもそもの目的・意義の共有不足によって医療従事者の動機付けに至っていないこと、業務内容・業務量が見えないことによる不安感が大きいということが分かりました。そこで今回は、解決策の1つとして詳細な運用フローを作成し、下記のような企画提案書として整理、各部門長への説明を通して、経営側と現場側の認識の隔たりを無くす取り組みを実施しました。 

【企画提案書の内容(例) 】
目的
① 訪問診療施設と連携を図り、精神科診療を要する患者への治療介入と貢献
② 精神科在宅患者支援管理料の算定開始、収益向上 

運用フロー 
※フロー図を準備し、数値にしてできるだけ見える化
① 全員:カンファレンス参加(1-2時間/回×月1回)
② 医師・看護補助者:訪問診療(3-5時間/回×週1回)合計20時間/月
③ 看護師:訪問看護(3-5時間/回×週1回)合計20時間/月
④ 精神保健福祉士:訪問(3-5時間/回×月1回)、保健所等相談・文書作成業務等(1時間/回×月1-2回)合計7時間/月
⑤ 作業療法士:訪問(3-5時間/回×月1回)合計5時間/月

算定した場合に見込める収益(20名/月、135万円/月)
●算定するために必要な費用(車両、PSW採用費用)
●目標値の設定(20名/月として、2022年度内の増収+800万円)

各職種が実現に向けて前向きな反応へ

企画書をもとに再度説明すると、「何をしたいか理解できた。これで部下への説明もしやすく、業務調整のイメージもわいた。今は人員不足で難しいが、PSWを1名採用できれば、体制を整えようと思う」と、対応策が明確になり、前向きなお返事が返ってくるようになりました。

【説明後の反応】
医師:訪問診療で、地域の精神科診療を要する患者様へ出向いて治療を届けることは重要だ。これからの新しい事業として大事なことなので参画する
看護師:何を誰とどう実施すればよいか明確になった
PSW/OT:人材確保(採用)が最優先事項だが、業務を想定して何をすれば良いか勉強しておきたい

振り返ると、反応が変わった理由は下記3点ではないかと思っています。
① 目的が肚落ちする内容だった(患者貢献+経営)
② 業務量が分かり、部下に説明がしやすい(数値化することで業務調整しやすい)
③ 収益数値を見たことで、部門長として成果に繋がるイメージが湧いた(人を採用してもなおプラスになる、病院に貢献できる)

また、完璧な準備をしてからスタートできればベストですが、「始めてみて、改善できるところは皆で改善していきましょう」ということ共通認識にすると、「じゃあどうしたら実現できるだろうか」と当事者意識が生まれるようになります。

さいごに

多職種チームで1つのことに取り組むために一番重要なのは、「なぜこの取り組みを行うか、目的・意義の共有化」と、それをいかに「動機付け」に結び付けるか、だと考えています。国家資格や免許を持つスペシャリスト達だからこそ、各職種の目線からみても納得のいくような目的の共有化を図り、各職種が同じ方向を向いて動いていける体制を整えることが重要です。今回は企画提案書を用いての目的共有の一例を紹介させていただきましたが、何か取り組みを行う際には、明確なデータの根拠も添えると、納得して動いてくれるように思います。
日頃の病院経営業務のご参考になれば幸いです。 

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