2024/09/25/水
大石佳能子の「ヘルスケアの明日を語る」
タイに行ってきました。MEJ(Medical Excellence Japan)の仕事です。MEJは日本の産・官・学が連携して日本のインバウンド、アウトバウンドを促進するための団体で、私は副理事長です。
タイは前職マッキンゼーの時にはよく行きましたが、それは25年も前。久しぶりに訪れると凄まじく発展し、高いビル(オフィス、マンション)が立ち並びます。道路の混雑ぶりは相変わらずで、トゥクトゥク(オート三輪)が立派な自動車に換わっていましたが、歩いた方が早く、変わらずカオスでした。一方で、微笑みの国タイらしい人の優しさも変わっていませんでした。
Bumrungrad Hospital(バムルンラード病院)をにこやかな日本人コンセルジュに案内してもらって、見学しました。
バムルンラード | 病院バンコクタイ (bumrungrad.com)
1980年に設立された580床の病院です。バンコク銀行のグループ会社で、1989年には上場しています。2002年にJCI、2017年にはGHAと国際的な病院認証を取得。今まではバンコク内の一か所に集中し複数病棟展開をしてきましたが、今度プーケットに180床の分院を開きます。
内装は華美ではないものの、美しくまとまっていました。1階にはボストン留学時代にお世話になったAu Bon Painというカフェが入っていて、「こんなところに生き残ってたんだ」と、同じくハーバード生活が長いMEJの渋谷健司理事長と囁きあいました。
患者さんは、パッと見たところ、タイ人らしき人もいますが、全身黒ずくめのアラブ系の人、腕にタトゥーが入ったイケている欧州系の高齢者等々が歩いていました。年間110万人の患者が訪れて、うち50万人が外国人で180ヵ国から受け入れています。
東南アジアが一番多く71万人、中東が10万人、北米から17000人。日本人は1万人で、殆どがタイに在住の人(駐在員・家族、タイでリタイアしている人)
最近は中国人が激増し、昨年対比で70%増えているとのこと。インバウンドの集客のためには、自分達で駐在を置くのはコスト効率が悪いので、各国に代理店を設けています。保険会社や病院の中に相談コーナーを運営している事業者等です。
治療の系統は大きく分けて2つ。一つはCritical Complicated Cutting Edge(標準治療と先進治療)。もう一つはCollaboration Wellness(予防、代替医療、ウエルネス)です。病棟は完全に分かれています。
Critical Complicated Cutting Edgeの殆どは標準治療ですが、治験レベルのがん治療など、やや実験的な先進治療も医師の責任の下で行います。どちらを選ぶかは患者で、正直支払い能力にも左右されます。心臓移植も過去に7例成功させました。タイの場合、国内在住であれば、心臓移植の対象患者となれるそうです。
Collaboration Wellnessでは、アンチエイジングや美容外科・皮膚科に加え、がん患者の抗がん剤副作用に対する腸内洗浄など、日本ではあまりやられていないことも行っているそう。
Webサイトによると症例が多い上位20は、冠動脈疾患、心房細動、心不全、先天性心疾患、不整脈、ストローク、膀胱がん、卵巣がん、子宮頸がん、前立腺がん、脊椎損傷、パーキンソン病、肺炎、腎臓結石、膀胱結石、膀胱炎、ハイリスク妊娠、母乳育児です。
疾患名だけ見ると、日本のちゃんとした病院なら治療できそうなものですが、圧倒的にインバウンドの誘員力を誇っています。「売りは何?」と聞くと「医師の層の厚さ」とのこと。
常勤医師数は実に1300人。そのうちアメリカの医師資格を持っているのが300人。その他の国の免許を持っている医師も多数とのこと。日本人は1人でした。
タイの場合は、タイ語で医師国家試験を通らないと国内で医療は出来ないので、タイ人以外にはハードルが高いです。アメリカの医師免許を持っている人の殆どはタイ人で、留学し、そのままアメリアで臨床・研究をつづけた人。それがある一定年齢になると年を取った親が心配になり、帰国するのを積極的に受け入れているとのこと。
アメリカで先端的な治療を行っていた医師もいて、例えばロサンジェルスで臨床を行っていた不整脈の世界的な第一人者は、ロスの治療環境と同じものを院内に作りました。薬剤師、看護師などのスタッフをロスに送って教育し、治療室も同じ設え、同じ色に。タイでも臨床研究は進めていて、最近は不整脈を起こす原因を事前に把握するベストを開発し、患者に着用してもらっているとのこと。
アメリカの医師免許を持って、かつアメリカでも高名な医師であった、というのは強力なアピールになると言っていました。同病院がベンチマークしているのはアメリカのトップ病院クリーブランドクリニックだそうです。「心臓関係ではすでに勝っているかもしれない」と言っていました。
1300人の医師を支えているのが、5000人の医師以外の医療スタッフと事務です。医療スタッフのなかにはアメリカの資格を持っている人もいます。医師1に対して、スタッフ4という比率の中で、医師は医療に専念できる仕組みが出来ているのだろう、と推測します。当直は当然、主治医ではなく別動隊が行います。コンセルジュの日本人も「豊富な人材による優れた医療とホスピタリティが特徴」と言っていましたが、「マンパワーがあると余裕が生まれる」と言っていました。それがホスピタリティに繋がっているんでしょうね。
患者を受け入れるフロアには、各国別のコーナーが設けられています。そこでは保険の相談、家族の暇つぶし用の旅行代理店、大使館の出先などもあります。全体で言うといわゆる民間保険を使うのは患者の30%です。中東の患者は公務員や軍人が多く、国が払うので大使館が支払い相談窓口の役割を果たしているとのこと。
さて、、、気になるお値段ですが、アメリカ型の仕組みを取っていて、ドクターフィートホスピタルフィーが分かれています。中東の王族に好評で予約が取れないプレミアロイヤルスイートは一泊30万バーツ(140万円くらい)。普通の個室だと15000バーツ(7万円くらい)。ドクターターフィーは別で、それは各医師が自由に決めます。そういう意味では、医師は常勤であっても病院に雇われている訳ではなく、いわゆるテナントみたいな感じです。
それなりに高額なフィーになるので、手術が終わったら転院する先も確保されていました。車で3~40分行った場所にラクサというメディカルリゾートがあり、そこで療養、リハビリと共に希望すればスパや美容皮膚科も受けられます。一泊は2万バーツ(9万円くらい)で、美容も全てパッケージにすると1週間30万バーツ(140万円くらい)です。
渋滞の中をラクサの前まで行ってみました。残念ながらプライバシーの問題で中には入れてもらえませんでしたが、外から見る分にはそんなに豪華ではなく、普通の東南アジアの郊外リゾートという感じです。やはり大事なのはソフトなのでしょう。次回タイを訪問するときには見学してみたいです。
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オマケの話ですが、健康診断も25000バーツ(11万5000円くらい)で行っていて、日本からもゴルフついでに受診者がくるそうです。ただ、健診内容は遺伝子検査はやりますが、MRI、CT、PETは無く、日本で言えば健保組合の標準的な人間ドック程度。これで全世界からくるのか、、、と考えさせられました。日本の人間ドックの方がよほど充実しているのに、、、。
最後にこの病院全体の運営ですが、薬剤師の女性がCEO、副CEOにインド人の経営のプロが担っています。やはり経営は、経営のプロに任せたほうがいいのかもしれません。規制改革でも「テーマとして取り上げる?」と話題に出ますが、医療法人のトップが必ず医師でないといけない、という縛りを外して、医師であっても医師以外でも経営のプロを据える方が、病院も、患者も、働く医師・スタッフの幸せになるかもしれません。