2023/10/31/火
医療・ヘルスケア事業の現場から
コンサルタント 酒井拓実
目次
クリニックを開業する際、コンセプトの設計から開業にたどりつくまで多くの検討事項がありますが、その中でも集客の観点から「どの場所で開業するか」はとても重要です。
しかし、場所にこだわりがなく、どのように場所選定をしていけばよいか見当がつかないと医師から相談されるケースも少なくありません。今回は、開業場所をどのような視点で選択したか、実際の事例を交えて紹介いたします。
開業するにあたり、選定する物件の施設形態は大きく3パターンあります。
【テナント】
既存ビルのテナントとして入居するケースがコストのバランスをとりやすく、まずは検討すべきパターンと言えます。ビルの形態やテナントの状態・状況によって、条件が複雑に異なるため、内見時などに綿密な情報確認が必要となります。
【戸建て】
設計の自由度が高く、条件に適した物件を自ら設計することが可能です。質はおのずと高い施設となりますが、その分コストが高くなるため注意が必要です。過去に郊外エリアのテナントでの開業を希望する医師の支援をさせていただきましたが、要求を満たすテナントが郊外エリアで見つからず、結果として戸建てを新築した上で開業をしました。建築コストは高くなりましたが、設計にご自身の希望をしっかりと入れ込んで開業をすることができ、結果として満足のいく開業に繋がっています。
【モール】
医療モールやショッピングモールの場合、他診療科や他テナントとのシナジーにより、認知されやすいというメリットがあります。モール内のルールに縛りがあったり、工事業者の指定がある場合があったりするため、自分の診療スタイルに影響が無いか確認が必要です。
モール内の制約等に従う必要がありますが、集患のためのプロモーション費用を抑えることができるメリットを重視して、医療モールでの開業を決める医師も多くいらっしゃいます。
ある糖尿病内科の医師は、地域住民の慢性疾患を治療したいという思いから郊外型エリアで開業しました。一方で別の糖尿病内科の医師は交通利便性を重視し、家賃が高くなるリスクを負いながらも都市型のエリアで開業することを選びました。このように、同じ診療科であっても、重視する点の違いによっておのずと選ぶエリアも変わってきます。
また都市型か郊外型かという視点の他、現在勤務している病院との連携を前提とした開業という点を重視し、病院と近くの駅からのアクセスの良さという視点でエリア選びを行った医師もいらっしゃいますし、自宅付近のエリアを選定する医師もいらっしゃいます。開業にあたり何を重視するのかを整理したうえで選定することが非常に重要です。
【都市型】
近隣の居住エリアから流入する層をターゲットとしたタイプです。
駅近のテナントビルなど、基本的にはアクセスが良い立地が該当します。 学生や労働者などが郊外から流入してくるため、ベースとなる人口が多くなることから、大きく患者数を伸ばすことが期待できます。
その反面、競合が増えることから、駅からの距離や視認性など、詳細な物件選びが重要になってくる他、マーケティングにも注力する必要があります。
また、良い物件の場合は家賃が高くなるため、固定費が経営を圧迫しないようする必要があります。
【郊外型】
そのエリアに住んでいる地域住民がターゲットとなるタイプです。
競合が少ないケースも多いため、安定した集患を見込むことが可能です。
前述の都市型と比べ家賃相場が低く、固定費を抑えやすいという特徴があります。
しかし、地方では募集のある物件の母数が少ないため、適切な物件 がすぐには見つからず、物件選びには時間を要する可能性が高いです。また、スタッフの雇用についても難航することが多いため、余裕を持ったスケジュール設定が必要になります。
施設形態やエリアの方向性がきまってきたら、そのエリアで開業した場合に1日あたりの患者数がどの程度見込めるか確認し、具体的に物件を選定していきます。
開業するクリニックの診療圏を、0.5km・1.0km・2.0kmなどと設定し、その診療圏内の人口に受療率を乗じた人数を(競合のクリニック数+自院)で割ることで、推定患者数は算出されます。
商圏内人口×受療率÷(競合医院数+1(自院))=推定患者数
商圏内人口は郊外型の場合、そのエリアに住んでいる人口(夜間人口)をベースに推定患者数を出せばよいですが、都市型のエリアの場合昼間は流入人口が多いため、昼間活動している人口(昼間人口)をベースに推定患者数を出す必要があるので注意が必要です。
上記の式で求めた推定患者数は、あくまで人口をもとにした市場規模としての数となりますが、まずはこの数値で経営が成立するか事業計画書に反映させながら確認し、より条件の良い物件を選定すると良いかと思います。
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診療圏調査の結果のほか、周辺環境も確認する必要があります。
➀視認性
基本的に1階への入居をお勧めしています。婦人科や精神科などプライバシーに配慮する必要のある診療科以外であれば、基本的には認知度を高めるために目につきやすい物件であることが重要です。都市型の中でもより都心部で開業する場合は条件を満たす1階物件はなかなか見つからないケースが多いです。2階以上の物件とした場合、外看板が目立つ位置に設置できるかどうかなど、視認性確保のための工夫の余地があるかを確認する必要があります。
②駐車場
駅からアクセスが良いことが基本的には求められますが、郊外型の場合は車での通院をされる方も多いため、駐車台数を確保する必要があります。都市型の場合も車の利用も一定数あるため、近隣にコインパーキングがあるかなどを確認しておく必要があります。
③薬局
近隣に処方箋を受け付けてくれる調剤薬局があるかもしっかり確認したいところです。患者さんが診療を受けた後、近くに薬局がないとスムーズに薬を受け取ることができません。院内処方も検討できますが、スペースが限られている中で薬の確保をすることや、薬剤師を雇用するなど、コストが膨大になってくることが懸念されます。
場所選びは今後の集患と安定経営のためにはとても重要な検討事項です。
いざ開業と考えると、膨大な検討事項に混乱してしまうことも多々あるかと思いますが、まずは自身が重視している点の明確化(コンセプトの明確化)を行い、その診療をするために適切なエリア選定や物件選定を心掛けると、筋道の通った開業場所の決定につながると思います。