2023/05/12/金
事例紹介
コンサルタント 宮﨑響太郎
課題:
精神科病院の経営状況は、入院稼働率の低下と人件費の高騰が重なり、芳しくない傾向にある。
解決策:
1.精神科医療においてはブルーオーシャンと言える「訪問診療」を導入し、早期に地域でのアドバンテージを取る。
2.精神科病院の精神科医が、一般科病院で、患者の精神症状に関する見立てや医師からのコンサルタント対応を行い、看護師には認知症患者等への対応をレクチャーする。
1の解決策を実施した結果:
●収益の増加
●入院紹介による稼働率上昇
●訪問看護導入件数の増加
2の解決策を実施した結果:
●精神科病院では患者数を確保ができた
●一般科病院では患者の精神症状への適切な対応ができ、看護師の負担も減った
精神科病院の経営状況は、地域移行促進及び入院患者の高齢化による退院患者数増加に伴い、入院稼働率は低下し、さらに職員の高齢化による人件費の高騰も重なり、芳しくない傾向にあります。
そんな中で経営を維持していくためには、既存の統合失調症患者を中心とした長期入院患者だけに依存した経営から脱却し、国の地域移行促進の方針に沿った取り組みが必要となります。 それには、精神科救急の強化や身体合併症患者への対応、認知症などの患者高齢化への対応など様々な方向性がありますが、今回は、弊社支援先で取り組んだアウトリーチ促進への取り組みの事例をご紹介したいと思います。
これほど地域移行が推奨されている中にあっても、精神科医療において訪問診療はそこまで広がりを見せてはいません。いくつかある課題の中でも、
①そもそも算定できる診療報酬が少ないこと及びその点数の低さ
②複数医療機関で訪問診療を行うことの難しさ(診療報酬の競合や情報連携)
③患者の高齢化に伴い、精神科医にもある程度の内科的知見が必要となってくる
といった課題が大きいです。
こうした様々な課題が見られ、新規参入するにはハードルが高そうな精神科訪問診療ですが、それでも参入した方が良い理由は、経営的観点から言えば、まだまだブルーオーシャンと言えるこの分野で、早期に地域内でのアドバンテージを取っておくことが非常に重要と言えるからです。
以下、これらのハードルを越えるために支援先で行ったことをご紹介します。
先に述べた①の理由から、精神科訪問診療において単価を上げていくことは非常に難しいのが現状です。となると、決まった時間内で可能な限り多くの患者に対応することが重要となってきます。そこで、支援先病院では施設の患者を対象にする方針を立てました。
これにより、患家を回るのに比べて移動の時間が減り、同じ時間でより多くの患者を診ることができるためです。
施設の患者たちはすでに内科訪問診療を導入しているケースが多いため、近隣の内科訪問診療クリニックと提携し、当該クリニックの訪問先施設の患者の中で精神科対応が必要な患者のところに訪問することにしました。営業を行ったところ、内科の訪問診療医も精神症状を抱えた患者の対応に苦慮していることが非常に多いそうで、内科からも精神科の参入は歓迎ムードでした。
これにより、②の情報連携と③の精神科医の内科知見の必要性の問題を解決することができました。
訪問診療導入の結果、直接的な収益に加え、訪問先施設からの入院紹介による稼働率上昇、精神科訪問診療に関わる診療報酬で訪問看護を必須とするものがあるため、院内での訪問看護導入件数の増加といった効果がみられています。
先に述べた通り、患者の高齢化に伴い、精神科での身体合併症への対応を求める声は大きいですが、一般科でも精神科症状を伴う患者への対応が急務となってきている現状があります。
そうした、身体疾患で入院中の患者が何らかの精神心理的問題を抱えた場合に精神医療と身体医療をつなぐ医療をリエゾンといいます。大きな総合病院では精神科リエゾンチームを設けているところもあり、すぐに一般科と精神科間での連携が取れる状況になっています。しかし、多くの中小規模の病院は単科であり、患者の精神症状に困りながらも自院で対応せざるをえず、それでも難しい場合は精神科への転院を検討するものの、身体合併症の受入れに拒否的な精神科も多く転院先を探せないという問題をよく耳にします。
そこで支援先病院では、院内でのリエゾンチームではなく、地域内の中小規模病院同士でリエゾンチームを組もうという取り組みを行いました。つまり、精神科病院の精神科医が、一般科病院で、患者の精神症状に関する見立てや医師からのコンサルタント対応を行い、看護師には認知症患者等への対応をレクチャーするというものです。
支援先病院での狙い通り、精神科医のいない一般科病院では上記のような課題を抱えている病院がほとんどでした。具体的には、
①術後せん妄が長引いている患者への治療や認知症患者への治療
②緩和ケアに伴う抑うつ症状の治療
③精神科症状を伴う患者への対応がわからず看護師の負担が大きい
という声が多く聞かれ、多くの病院でリエゾン精神科医療へ賛同していただきました。
一方で、壁となったのが収益の問題でした。リエゾン関連で得られる可能性のある診療報酬では“精神科リエゾンチーム加算”がありますが、一般科ではチームメンバーの算定要件クリアが難しく、また点数の面でもとても採算の合うような診療報酬ではありません。結果、この地域リエゾンによって新たに算定可能な診療報酬はほぼない状況です。
また、精神科病院の方も診療による収益は全くないという状況で、双方が目に見えて収益面で得るメリットは少ないように見えました。
そこで本事業での収益構造としては、病院間の委受託契約という形にしました。
最終的な構図としては、精神科病院では一般科病院との連携強化による患者確保、精神科のいない一般科病院では上記①~③の課題解消というメリットが双方に成立しました。
今回の2つの取り組みは、すぐに収益が見込めるものというよりは、先行投資に近いケースです。
それでも、医療の地域移行促進は先進国の大きな課題であり、この状況が改善されていく可能性は高いと考えられます。現時点で病院が取り組むべきことは、病院での急性期治療と地域での慢性期治療の両方に対応できる医療機関の体制を整えていくことであると考えられます。