現場レポート

2024/07/15/月

医療・ヘルスケア事業の現場から

診療情報閲覧システムの導入による生産性向上

【執筆】コンサルタント 真鍋/【監修】取締役 小松大介

はじめに

今年度の診療報酬改定において、医療DXを推進する体制を評価する加算が新設されました。令和2年の一般病院の電子カルテ普及率は60%程度(医療施設調査/厚生労働省)ですが、導入する医療機関が年々増えていて、弊社支援先でも検討しているところが散見されます。国の医療DX推進に伴い、医療機関のICT化は進むのではないでしょうか。中には、電子カルテと連携させるシステムを導入し、DXを推進させている医療機関もあります。今回は、電子カルテと並行して診療情報閲覧システムの導入支援をしましたので、事例を交えて紹介します。

診療情報閲覧システムとは?

PACSに格納された画像や検査結果、文書(紹介状や報告書、同意書など)が項目ごとに時系列に並べられ、患者ごとに一画面で見られるシステムです。このシステムは、電子カルテやPACSとデータ連携しています。各項目をクリックすると、PACSや文書作成の画面に遷移します。このシステムを導入すると、①見たい診療情報にアクセスしやすい(アクセスの容易性)、②いつどの検査をしたかが一目でわかる(検査結果の追跡)というメリットがあります。

導入の効果

診療情報閲覧システム導入だけではないのですが、今回支援した医療機関で見られた効果についてご説明します。

印刷物の削減や職員の移動距離の短縮

従来は、臨床検査技師が心電図や超音波検査の結果を紙や写真に印刷して、診療中の医師に渡していました。その後、結果をスキャンして電子カルテに取り込んでいました。特に心電計は横に長いので、スキャンするのに苦労していました。検査が多いときは、1日10件以上あり、臨床検査技師が慌ただしく動き回ったりスキャン業務に手を取られていました。そこで、心電計や超音波装置をPACSと連携させ、医師が結果を診療情報閲覧システムで見る運用に変更しました。その結果、臨床検査技師の移動距離やスキャン業務を減らせたとともに、少ないですが印刷コストを削減できました。他にも紙の管理の負担がなくなったという声も聞かれました。

情報共有が容易に

患者さんが入院するときには、患者情報や入院指示書、他院紹介状、検査結果など、多くの書類があります。職員からは準備のために入院前に情報を一覧で見たいという要望がありました。この病院では、事務職員が入院前書類をとりまとめ、全職員に診療情報閲覧システムに格納したことをチャットツールで周知する運用にしています。患者さんが入院するたびに周知したので、最近は診療情報閲覧システムで確認する流れができています。各書類が網羅的に見やすくなるとともに、情報を得る場所が明確になったことで、職員の患者情報の共有がしやすくなりました。またチャットツールとの併用で入院の受け入れがスムーズになりました。

多職種で作成する文書の管理

リハビリテーション総合実施計画書のように、多職種で作成する文書があります。1、2人が作成する文書より管理が難しい、という声が現場からあがりました。そこで、文書を開かずとも、どの職種が記載したかが一目でわかるようにするために診療情報閲覧システムを活用しました。 記載と未記載で色を変えることで、誰が未記載なのかがすぐわかり、該当する人に記載を促す運用にしています。複数の文書を一画面で管理でき、作成の有無が直感的にわかるので、今後活用シーンが増えると思います。

他にも場所と時間を選ばずに、医師がリモートで検査結果や文書を確認できるようにしたことで、生産性が向上しています。

導入時の課題

ここで導入時に起きた、いくつかの課題について説明します。

UIの調整と決定

このシステムは、検査結果や画像、文書などの配置を個人でカスタマイズできないため、医療機関共通にする必要がありました。職員にヒアリングすると、色々な注文が出てきます。特に、事前に確認していても稼働が始まってからの変更希望があり、対応が難しいケースがありました。院長や看護部長、各部門の責任者に事前確認をしっかりするとともに、どの要望を聞くかの優先順位をつけ、しっかり説明することが大切だと考えています。その際、ベンダーから聞く他院の事例が参考になりました。

導入初期の混乱

ベンダーに依頼し、導入前に操作説明を丁寧にしてもらいましたが、それでも導入初期は操作に関する質問が頻発しました。導入前に入念に準備はしたものの、実際に使ってみて初めてわかることもあります。同じような質問が複数回来るので、全体で見えるところ(例:チャットツールやスプレッドシート)に回答をまとめたり、事前に対処法を周知したりする対策が有効でした。導入初期は、可能な限り現地にてリアルタイムで対応するのがよいと考えています。現地にいないときは、オンラインで画面共有しながら対応する方法も良いでしょう。

システム全体でみると、カルテと文書で同一文言の二重記載が発生したり、文書依頼の通知がわかりやすい形で飛ばなかったりと、生産性向上に向けての課題はまだまだあります。今後、現場とともに検討し、システムと運用で解決したいと思います。

おわりに

診療情報閲覧システムや部門システムを電子カルテと連携させるとできることが増え、便利になりますが、注意も必要です。まず、初期費用や保守料などのコストがかかること。特に、電子カルテと連携するために、カルテベンダーの作業が発生し、ベンダー側にも費用が発生します。また、稼働時にシステム間の連携不具合のリスクが発生することも考えられます。単独システムの不具合より複雑な傾向にあるため、原因の特定に時間がかかります。実際に支援先でも問題解決までに時間を要しました。コストやリスクを把握し、費用対効果を考慮したうえで電子カルテと連携するシステムを導入することが大切です。

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監修者

小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他

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