2026/06/01/月
地域医療の未来に飛び込む、ファーストペンギンたち
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ファーストペンギンとは、群れの中から天敵がいるかもしれない海へ、魚を求めて最初に飛び込むペンギンのこと。
時には自らファーストペンギンとなって新しい取り組みを推進し、時にはファーストペンギンのパートナーとして伴走しながら支援する。メディヴァには、そのように地域医療の課題に挑むコンサルタントが多数います。
医療・介護現場での視点、企業・行政支援からの視点、地域の実情やデータに基づいた視点―。
本連載では、地域医療の未来を切り開くメディヴァのコンサルタントの視点や取り組みに迫ります。
急速な高齢化や病床不足、そして「自宅で最期を迎えたい」という多くの方の思いに応えるため、国をあげて推進される「在宅医療」。一方で、在宅医療を拡充するうえでの課題は、地域ごとに異なり、その課題を見極めたうえでの実践が重要です。
今回は、メディヴァの在宅医療コンサルティングチーム・マネージャーの椎野に、ある自治体で実施している「在宅医療アドバイザリー事業」について聞きました。支援先の街を歩くことで、データ分析だけでは見えない「地域特性」に触れ、関係者との信頼関係を築いていく。その先にある「本質的な課題」を捉えた支援の実践に迫ります。
■話し手

マネージャー 椎野 優樹(在宅医療コンサルティングチーム)
在宅医療をはじめとして、より良い地域医療の形を志向するコンサルティングを目指し、医療機関の現場支援から行政の医療政策に関する支援まで幅広く対応。
聖路加国際病院 事業管理部からキャリアをスタートし、研究職、コンサルティング企業、機能強化型在宅療養支援診療所の事務長を経て、2018年12月よりメディヴァ勤務。慶應義塾大学大学院健康マネジメント研究科修士課程修了。
目次
―今椎野さんが取り組まれている「在宅医療アドバイザリー事業」とは、どのような事業なのでしょうか?
地域における在宅医療のリソースを増やしていくための取り組みで、ある自治体(以下、自治体A)からの依頼で令和3年度から現在(令和8年度)まで継続支援している事業です。
具体的な内容としては、「座学研修」と「コンサルタント派遣」の2軸あります。
まず座学研修は、地域の医療従事者を対象に、診療報酬や在宅医療の進め方等の実践に役立つ知識習得を目指すもので、現地・オンライン含めて開催してきました。
コンサルタント派遣では、その名の通り、応募のあった医療機関へ、直接メディヴァのコンサルタントを派遣するものです。在宅医療を始めるにあたっての書類や必要物品、診療報酬の算定方法などの準備一式を支援したり、既に在宅医療を始めている診療所に関しては「機能強化型在宅療養支援診療所」になるためのサポートや、夜間の往診の持ち回りなど他院との連携調整等をメインに行います。

支援の目標としては、機能強化の底上げを行なっていくことです。以下の図でいうと現状からひとつずつ右側の施設へとシフトしていくことですね。一番左下がまだ在宅医療を開始していない施設。一番右上にある「機能強化型在宅療養支援診療所(在支診)」は、自宅看取り・時間外等の往診の実績があり、在宅医療の医師3人以上の体制が構築された施設です。右に行くほど診療報酬の加算も高くなるので、そこを目指していこうというところです。我々の支援が入る前の令和2年から比較すると、在支診の数は増えており、一定の支援効果があったように考えています(下図:赤文字参照)。

―5年間で着実に在宅医療が拡充されていっていることがうかがえますね。
ただ、最初は取り組みの認知度が低く、我々から地域の医療機関へアプローチをするにもチラシ配付しか方法がないこともあり、細々と進めていました。そこから最初のターニングポイントになったのは、在宅医療に意欲的に取り組んでいらっしゃる先生が、本事業に興味を持ってくださったことでした。医師会でも本事業の活用を推薦してくださり、一気に認知度が高まったことでコンサルタント派遣を実施できる病院・医療機関数が増えていきました。

―地域の先生とのつながりというのが重要なのですね。
そうですね、地域の先生方や行政の担当者をはじめ関係者との信頼関係の構築はとても大切です。
最初の認知のところでいうと、メディヴァが医療法人社団プラタナスを通じて在宅医療クリニックの運営をしている影響は大きいと思います。運営先の一つである、桜新町アーバンクリニックの遠矢純一郎院長は、20年以上前から在宅医療に取り組んでおられ、医療関係者からの信頼が厚い方です。先ほどの先生も遠矢先生からのご紹介でした。
また、私自身が外来と訪問診療を行うクリニックで事務長をしている経験から、先生方のお困り事をある程度リアルにイメージできる点でも、提案内容等に共感をいただけるところもあるかもしれません。こうした現場理解に加え、先生によって大事にされていることの優先順位が異なる点も意識しており、目の前の先生がどのようなお考えをお持ちかに思いを巡らせながらお話しするようにしています。
ただ、そこからより深い信頼関係を築いていくには、「仕事の場」だけの関わりでは難しいところもあると思っています。たとえば、会話の中で地域のおすすめスポットを教えていただいたら、実際に行ってみる。それだけでも距離が縮まりますし、私自身、そうして地域のことを知っていくことが楽しくもあるんです。街のお祭りに参加したり、土地のものを食べたり。そうして自分の足で歩くことで、地域の見え方は変わります。

実際、本事業とは別で、行政が主催するあるイベントを見学したときに「新たな地域特性」を知ったということがありました。そのイベントは、住民が抱える困り事を知るために、行政の各課の担当者がオンライン診療車とともに各地を回る「相談会」のような形式だったのですが、「それだけでは地域の人は集まらないだろう」という考えから、キッチンカーも一緒に回るという面白い取り組みで。
食を通すことで会話が弾み、食事の困り事を拾い上げることも考えてのことだったようです。
ただ、午前中に訪問した市場では、全く人が集まらず…。それもそのはずで、イベントを開催した時期が「農繁期」で、市場のみなさんは農作業で忙しかったんですよね。一方、午後に訪れた団地では、子ども連れのご家族が多く集まりました。
もちろん公表データから、自治体Aの高齢化率や病院数・地域格差等を分析することは欠かせません。ただ、それだけでは見えてこない、「人の流れ」というものが、実際に自分自身が街に出ることで見えてくることがあるんですよね。
―先生方との関係性は、実際の支援にも影響しますか?
信頼関係ができると、雑談の中でも「実はこんな課題があって…」と別の支援につながることがあったり、思いもよらないアイデアにつながることもあります。
たとえば先ほどお話しした「相談会」の運営に携わっていた先生とは、打ち合わせのみならず、食事をしながら情報交換をしたりもするのですが、その際、メディヴァには保健事業部があり管理栄養士も在籍していることをお伝えすると、「キッチンカーを自由に使っていいよ」と言ってくださって。今はまだ、管理栄養士が地域を回ることで、何ができるだろうかと考えを巡らせている段階なのですが、こうしてお題を気軽に投げていただけるような関係性はとても大事だなと思います。
また、県庁のご担当者との関係性も重要ですが、どうしても定期的な異動があるんですよね。そうしたときに、継続支援している我々が、在宅医療や地域医療に関しては常に一歩先の提案ができるようにということは意識しています。
自治体Aの支援は今年で6年目になります。長く続けているからこそ、支援内容も幅広くなっており、たとえば、精神科病院による在宅医療や、重症心身障害児・医療的ケア児向けの病院による訪問看護の立ち上げ支援という珍しい事例にも対応してきました。
ほかには、特別養護老人ホームは数的には充足してそうなのですが、看取りを行っていない施設が多いんです。そこで、在宅医療を担う病院との連携枠組みの構築や、特養で看取れるようにするための教育支援なども進めているところです。

―今後、自治体Aでは地域医療を守るために何をしていくべきでしょうか?
この地域は山間部が多いこともあり、在宅医療だけでは受診難民を支えていくことは難しいと思っています。そこで、一つ考え得るのは「オンライン診療の活用」です。診療アクセスの改善という目的もありますが、遠隔での診療が可能になることで「病院の経営改善」にもつながります。
また自治体Aの特徴として、総合診療医が少ないこともあげられます。メディヴァが連携するC&CH協会(一般社団法人コミュニティ&コミュニティホスピタル協会)と協力し、総合診療医を育成していくことも目指したいですね。
その他にも本事業をきっかけに様々な地域課題が見えてきているのですが、たとえば市町村側では「医療機関や介護施設、ケアマネ等との連携拠点」の役割をどう担うかの課題があります。ひとつ、アイデアとしてはメディヴァのコンサルタント神野が開発した「おじくじ」という人生会議ツールを用いて、ACPについて考え、体験するきっかけをつくるなど「場づくり」の支援ができないかと思っているところです。
つい先日は、人口3,000人規模の村で唯一のクリニックの先生からも相談がありました。同村では、まずは企業行政チームの大類らと協力しながら「地域分析」をし、本質的な課題を捉える必要があると思っています。そこから地域ならではの魅力と繋がるような事業ができないかなと考えているんですよね。
今期はメディヴァならではの知見・実績を生かすことでさらに支援の幅を広げ、地域全体の医療・介護の課題と向き合っていけたらと思っています。
ーこうした支援を他の自治体へ展開していくことは可能なのでしょうか?
もちろん可能だと思っていますし、実際、自治体Aの支援のきっかけも、メディヴァの他の自治体での事例を見てのお声掛けでした。
ただ、自治体Aでは先生とのつながりから医師会の後押しをもらえたことで、事業が広がっていった面がありますが、他の地域で同じアプローチをしても同様の成果が得られるとは限りません。その地域の構造や文化を理解することは不可欠です。
そのうえで、〝依頼されたことだけをする〟のではなく、根本的な課題を捉えていくようにしています。本事業の場合は「在宅医療」の支援事業ではあるのですが、「この地域でなぜ在宅医療が足りていないのか」「自治体としてこの方向性でいいのか」といった背景まで踏み込むようにしています。そのためにも先に話したように、地域医療に携わる方々との関係性づくりはとても大切なんですよね。
在宅医療は、あくまで地域医療の一部にすぎません。高齢化が進む中で特定の医師だけが頑張る構造では続かない。だからこそ自治体Aのように、行政や医師会の単位での仕組み導入がとても重要だと思っています。
ほかの自治体へ支援を展開していく場合には、「医療機関」「行政」そして「地域住民」の橋渡しとなり、ギャップを埋めていくことが我々の重要な役割になると思っています。
もちろん地域ごとにやるべきことは違うはずです。在宅医療に留まらず、地域医療全般の継続性を考える上での困り事について、関係者とともに悩みながら最適解を見つけていくというような支援を提供していきたいと思っています。