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2026/05/22/金

寄稿:白衣のバックパッカー放浪記

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白衣のバックパッカー放浪記 vol.56/コペンハーゲン編

再び北へ

デンマークはヨーロッパ北側にあるユトランド半島にある小さな国で人口は602万人。行くまでは知らなかったけど、デンマークの人がいうにはスカンディナビアという場合にはデンマーク、スウェーデン、ノルウェーを指すらしい。言葉もその3つの国は似ているがフィンランドは全く違うため理解できないらしい。スカンディナビア半島にある国ではなく、なんとなく歴史や民族的なもので枠組みを作っているらしい。そんな「らしい」だらけの国には何があるのだろうか。

空港から電車に乗ってコペンハーゲンに向かうが、看板の指示に従ってきたはずなのに反対のホームに来てしまったらしい。反対側のホームに停まった電車の行き先をみてそのことに気が付く。反対側まで走ってその電車に乗り込んだ。なんとか乗った電車が着いた中央駅は野晒しな場所で、特に改札もないまま階段を登って一般道に出る。23時頃に到着したが、幸い宿は駅から近く、歩いていけそうな距離だった。

それにしてもなんだか道幅が広い。リスボンの坂だらけの小道の後だからかもしれないが、とても広く感じる。自転車と自動車の道が完全にセパレートされていて、自転車用の信号もある。電動スクーターも自転車用で歩行者とは完全に分けられていた。こういう道作りがあれば歩行者にとっては安全そうだ。

ようやく到着した宿は今まで泊まったどのドミトリーよりも清潔感があり、整っていた。バスタオルなんかも1人1枚宿泊費に含まれていて、ちょっと日本っぽさを感じる。値段は普段の倍以上するのが、北欧に来たことを教えてくれる。だけど、それと同時に幸福度ってこういうことだよね?と目の前の白いバスタオルが教えてくれた。

安くて幸福さも与えてくれる日本ってどうやってその豊かさを保っているのだろう。ともかくなんだか豊かさについて興味が湧いてくる。豊かさとは何かをこの国から感じることができるのだろうか。

コペンハーゲンの道路、青いレーンが自転車用

豊かさ

翌朝、コペンハーゲンを散策する。日数が余ったからと言っても残りの国全てをゆっくり回ることはできず、日数を圧縮した2泊3日の旅が増える。前後2日は移動日になるので、観光できるのは中日の今日だけだ。早速目ぼしいところをいくつかピックアップしてみる。

やはり有名どころはニューハウンという運河沿いのカラフルな場所。ここは写真で何回かみたことがある。コペンハーゲンに来たからには絶対に行かないといけないと思う。あとはどこだろう。地図上で街を突っ切った先に国立美術館なるものを見つけた。日本にいるときに習慣的に美術館に行っていた訳ではないが、ヨーロッパに来てからは度々行っている。コペンハーゲンの美術館も行っておいた方が良さそうだなということで、歩いて向かう。

館内に入って、いきなり日本との違いを感じさせるものに出会う。中で音楽が鳴り響いている。しかも生演奏だ。なんでそんなことをしているのかと見てみると小学生らしき集団の遠足の歓迎をしているようだった。なんというウェルカムさなのだろうか。日本だったら館内は静かにしてねと先生に入る前に言われて、私語をしようものなら注意されそうな場所だけど、館内スタッフも声を出して自己紹介やら館内の説明をしていた。

なんとなく興味を持ってこの見学会について行ってみる。美術作品の前で立ち止まり、絵の説明をするのかと思いきや、生徒達に何やら質問をしている。生徒達も積極的に手を挙げて答えている。というか手を挙げていない子がいない。空気的にこの絵をみてどう感じるか?を聞いていそうだ。

絵の説明を聞くという知識的なものではなく、自分がどう感じるかや、その絵の楽しみ方を伝えることで、絵画を通した内面的な教育がされていそうだ。確かにこのやり方なら、大人になった時にも美術館の楽しみ方が分かるようになる気がする。何せウェルカムな場所だし、自分自身と絵との対話のやり方を知っているという印象を持ち続けられる。

北欧の豊かさの根源はこういうところから来るのかもしれない。自分の内面の磨き方を教えてくれる教育が生き方をも磨き上げていく。日本育ちの私は美術館の楽しみ方が分からない。なんとなく「いい絵だな」くらいにしか鑑賞できないが、きっとあの子達はここでの経験を通してものごとを鑑賞する視点を手に入れていて、それが人生のどの点に位置するのか考える習慣を身につけているのだろう。

目の前の出来事が、人生という長い線のどこに位置しているのかを考える視点は、生きる上で役にたつ。人生で何かがうまく行かなかったとしても、立ち直る力を養ってくれたり、ポジティブな気持ちにしてくれる。「私ってどんな人間だったっけ?」と立ち止まりながら生きる意味を考えることでまた先に進むことができる。そうやって人生の豊かさが形成されていくのだろうとこの見学会を通して学んだ気がした。デンマーク語は全く分からないから、本当にそんなやりとりだったかは分からないけれど。

豊かさを感じるためには食事もみた方がいいだろう。ということで市場に向かう。市場といえばどこか小汚さがあり、活気がある場所。そんなイメージがあるが、コペンハーゲンの市場は少し違う。清潔感が溢れる場所なのだ。市場で売られているものは整頓して並べてある。なんとなく鮮度をダイレクトに感じづらい気もするけど、静かなデパ地下のような場所だった。さらに場内は区画が整理されていて、道が広い。歩く場所がしっかり確保されていることは、もしかしたら豊かさなのかもしれない。

そういえば街の道も歩行者とちゃんと分けられていた。歩くことは人が生きるうえでの基本動作だ。その動きが生活にしっかり落としこまれて、1人ひとりが動くことを尊重されているような気さえする。食べるということもまた生きる上では欠かせない動作。それを清潔に保つことは生きることを大切にしていることに繋がる。少し大袈裟に言えばこの街から生きることの基本を丁寧にすることが伝わってくる。案外、豊かさとは身近な毎日を丁寧に意味づけしながら過ごすことなのかもしれない。

コペンハーゲンの市場

デンマークの医療

街の様子からデンマークが豊かさを感じるきっかけを掴んだ。では医療はどうなっているのだろうか。調べてみると、デンマークの公的医療は、登録住民に対してかなり広く税財源で提供されている。家庭医、公立病院、救急医療などは、原則として無料で利用できる仕組みだ1)

医療アクセスは無料で保障されている一方で、誰もが自由にどの専門医にも直接かかるというよりは、家庭医を入口として医療資源を調整しているようだ2)。この仕組みは、日本の医療とはかなり違う。

日本では比較的自由に医療機関を選ぶことができる。患者側からすれば便利だが、その分、医療機関側には集患や経営の問題がつきまとう。一方、国や自治体が病院運営を行うデンマークでは集患などの経営よりも地域全体で「限られた医療資源をどう配分するか」という発想がより前面に出ているように感じる。

デンマークは現在、高齢化、慢性疾患患者の増加、医療・介護人材の確保といった課題に直面している。これは日本ともよく似ている。こうした状況の中で、デンマークでは医療のデジタル化が国の重要な方針の1つになっている。

その大きな実装例の1つが、2027年1月1日に設立予定の「Digital Health Denmark」である。この新組織は、sundhed.dk(国民健康ポータル)、デンマーク健康データ庁、MedCom(医療IT標準化推進団体)、地域が担ってきた共通の国家的ITソリューションなど、これまで分散していたデジタルヘルス関連機能を一体的に扱う組織として構想されている3)

国、地域、自治体が共同で所有し、医療分野のデジタル開発を強化し、共通のデジタルソリューションやインフラを全国に広げていくことを目的としている。これに先立ち、2026年1月1日からは準備組織であるPreparatory Digital Health Denmarkが立ち上がり、移行プロセスが始まっている。

デンマークの医療DXで特徴的なのは、新しいアプリを個別に乱立させるのではなく、すでに有効なデジタルソリューションや共通基盤を全国に広げようとしている点である。患者の入口をデジタル化し、受診の流れを整理し、限られた医療資源をより効果的に使おうとしている。窓口負担が少なく、医療機関の収益構造も日本とは異なるため、国全体で「どのように医療システムを持続可能にするか」を考えやすいのかもしれない。

現場の努力だけではなく、制度そのものをどう設計するか。デンマークの医療を調べながら、そんなことを考えた。

コペンハーゲンの街で感じた豊かさは、ただ物価が高いから生まれているわけではない。清潔な宿、美術館で歓迎される子どもたち、そして国全体で医療システムを整えようとする姿勢。その1つひとつが、豊かさを支える仕組みになっているのかもしれない。デンマークは行く前には何があるのかよく分からない国だった。でも来てみると、豊かさとは何かを考えさせてくれるきっかけをくれる場所になった。

ニューハウンの街並み

次回は6月12日(金)、アムステルダム編となります。

【参考文献】
1)Health insurance card. (n.d.). Retrieved May 19, 2026, from https://lifeindenmark.borger.dk/healthcare/health-insurance/health-insurance-card
2)General Practitioners | Healthcare Denmark. (n.d.). Retrieved May 19, 2026, from https://healthcaredenmark.dk/national-strongholds/population-health/general-practitioners
3)Digital Health Denmark – The Danish Health Data Authority. (n.d.). Retrieved May 19, 2026, from https://english.sundhedsdatastyrelsen.dk/about-us/digital-health-denmark


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