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2026/10/13/火

医療・ヘルスケア事業の現場から

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「外国人向けクリニック」は言葉だけではない ベトナムで多国籍の患者を受け入れる現場から

【執筆】コンサルタント チャーミー/【監修】代表取締役社長 大石佳能子

はじめに

外国人患者を受け入れる医療機関が増える中、現場に求められるのは、単なる外国語でのコミュニケーションではありません。薬の処方や保険手続き、会計、受診後のフォローなど、患者が医療サービスを利用する一連のプロセスへの対応が求められます。

本記事では、日本の医療現場において外国人患者を受け入れる際に生じやすい課題と、個人のスキルに依存せず組織的な仕組みとして整えるポイントについて、弊社がベトナムで運営支援するクリニックで多国籍の患者を受け入れてきた経験などを交えながら紹介します。

1. 外国人患者を受け入れるために、本当に必要なこととは?

外国人患者の受け入れを検討する際、多くの医療機関がまず思い浮かべるのは「言葉の壁」への対応ではないでしょうか。

外国人患者が初めて医療機関を受診する場面を想像してみてください。

受付スタッフが外国語で対応し、診察室では通訳を介して医師と患者がコミュニケーションを取る。診察そのものは比較的スムーズに進んだとします。しかし、診察が終わりに近づいたとき、患者から次のような質問が投げかけられます。

「この薬は、私の国でも使われているものですか?」

「自分が加入している保険は適用されますか?」

「ここで診てもらった後、次はどこに行けばいいですか?」

このとき、医療機関はある事実に直面します。

それは、外国語でコミュニケーションが取れることと、患者が安心して医療サービスを受けられることは、必ずしもイコールではないということです。

こうした課題は特定の医療機関に限った話ではありません。実際、厚生労働省の令和6年度調査においても、日本の医療現場における体制整備の遅れが浮き彫りになっています。

同調査(対象:5,864医療機関)によると、現状は以下のとおりです。

  • 87.6%が、外国人患者の受け入れ方針を定めていない
  • 87.3%が、対応マニュアルを整備していない
  • 68.6%が、外国人患者数を把握していない

このように、現場での対応以前に、組織としての受け入れ体制そのものが未整備であるケースが少なくないのです。

出典:厚生労働省「令和6年度医療機関における外国人患者の受入に係る実態調査について」より弊社作成

体制が整っていなければ、現場は常にその場しのぎの対応を迫られます。結果として、スタッフの負担増や対応時間の増加、患者の不安やクレームにつながる可能性があります。では、外国人患者が安心して医療サービスを利用でき、かつ医療機関側も無理なく対応するためには、具体的に何が必要なのでしょうか。

2.ベトナムでの実際の経験から、日本の医療機関へのヒントを考える

外国籍の住人が多く暮らすベトナム・ビンズオン省で弊社が運営支援するクリニックでは、日々多国籍の患者を受け入れています。

出典:弊社がベトナムで運営支援しているクリニックの実績データ

言語や文化、医療ニーズ、医療に対する前提知識が患者ごとに異なるため、スタッフの個別対応に依存し続けることは困難です。必要な情報を正確に把握し、適切な案内につなげる仕組みが必要です。

もちろん、ベトナムと日本では医療制度も環境も異なるため、現地のケースをそのまま日本に当てはめることはできません。しかし、基本情報の確実な取得、費用や保険の事前説明、受診後の適切なフォローなど、外国人患者を受け入れる現場が直面する共通の課題もあります。

そのため本記事では、ベトナムでの取り組みを単なる「海外モデル」として紹介するのではなく、多国籍の患者と最前線で向き合ってきた経験から抽出した、日本の医療機関における仕組みづくりのヒントをお伝えします。

3. データから見る:「外国人患者」と一括りにはできない

「外国人患者」と聞くと、急な体調不良で一時的に受診する方をイメージするかもしれません。しかし、実際の受診目的や医療ニーズは多岐に渡ります。単発の受診にとどまらず、慢性疾患の継続的な治療や経過観察、さらには健康管理を目的に受診されるケースも少なくありません。

出典:弊社がベトナムで運営支援するクリニックの実績データ

こうしたニーズの多様性は、医療サービスの利用形態にも表れています。同クリニックの診療実績においても、全体の7割弱が保険診療、約3割が自費診療となっており、外国人患者も保険診療・自費診療の双方のサービスを幅広く利用しています。

出典:弊社がベトナムで運営支援するクリニックの実績データ

すなわち、外国人患者を「通訳が必要な急性期の患者」と一括りにすることはできません。国籍や言語、医療ニーズ、支払い方法(保険の有無など)の掛け合わせによって直面する課題は異なるため、どの患者層に対し、どの場面で、どのような対応が必要なのかを細分化して整理することが、受け入れの体制づくりの第一歩となります。

4. 現場から見る:なぜ「通訳」だけでは十分でないのか?

ここまで見てきたように、外国人患者の医療ニーズは実に多様です。実際の医療現場では、単に言語の壁を解消するだけでは、患者が診療を最後までスムーズに受け、治療を継続することが難しいケースもあります。

弊社がクリニックの運営支援を通じて実感してきたのは、単に医師の言葉を翻訳するだけでなく、患者自身が治療内容を正確に理解し、自ら必要な行動をとり、その後も安心して治療を継続できるようにするためのサポートが必要だということです。

ここでは代表的な3つのケースを紹介します。

【ケース1:この薬は自国でも使われている薬ですか?】

外国人患者の中には、過去に母国で使用していた薬との違いが分からず、不安から処方薬を受け取らないケースがありました。

弊社が運営支援するクリニックでは、患者の過去の服薬情報を事前に確認し、今回の処方内容と照合したうえで診療録に記録しています。母国で使用していた薬と異なる場合は、その理由を明確にして、患者の不安を取り除くとともに、蓄積した情報をその後の診療に活用しています。

単に医師の説明を通訳するのではなく、必要な情報を確認・記録することで、継続的な安心につなげています。

【ケース2:自分の保険は使えますか?】

保険も外国人患者が戸惑いやすいポイントの1つです。保険の種類によって補償範囲や手続きが異なるため、受診前に自己負担額や支払い方法を患者本人が自力で把握することは容易ではありません。

弊社が運営支援するクリニックでは、予約の段階で保険情報を確認し、保険会社への照会や調整を行ったうえで、受診前に概算費用や支払い方法を丁寧に説明しています。条件を満たす場合は、キャッシュレス精算のサポートも行っています。

このように、個別の質問にその場で答えるだけでなく、受診前から一連のプロセスとして保険対応を組み込むことで、患者の心理的・金銭的な負担を減らしています。

【ケース3:ここで診てもらった後、次はどこに行けばいいですか?】

専門的な診療が必要な場合、「専門病院を受診してください」と伝えるだけでは、医療制度が異なる外国において、患者が自ら次の行動を取れないことがあります。

弊社が運営支援するクリニックでは、適切な医療機関の選定や連絡、患者への案内、さらには専門診療後のフォローアップまでを支援し、その後も自院で継続的なフォローを受けられる体制を構築しています。

これら3つのケースに共通するのは、外国人患者への対応を「その場」だけで終わらせず、患者が次のステップで困らないよう、必要な情報や対応をあらかじめ整理し、一連のプロセスとして仕組み化している点です。

業務をプロセスとして整理することで、誰が担当しても質の高い医療サービスを安定して提供できるようになるのです。

5. 外国人患者を受け入れる医療機関への提案

受け入れ体制を整える際、最初から大がかりな新しいシステムを導入する必要はありません。

まずは予約から受診、会計、受診後のフォローアップまでの一連のプロセスを見直し、自院において、現在できていることと不足していること(課題)を棚卸しすることが第一歩となります。

そのうえで、浮き彫りになった課題に合わせて必要なマニュアルやツールを段階的に整えていくことで、スタッフに過度な負担をかけずに、現場の実情に合った受け入れ体制を構築することができるのです。

6. 弊社による支援アプローチ:現場に即した体制づくり

外国人患者への対応フローは、診療科や立地、スタッフ構成や経験、これまでの受け入れ実績などによって医療機関ごとに必要な形が異なります。そのため弊社では、他施設の成功事例をそのまま当てはめるのではなく、各医療機関の現状に寄り添い、運用プロセスの設計から現場への確実な定着までを一貫してご支援いたします。

【弊社が現場とともに取り組む支援ステップのイメージ】

支援内容
取り組みの例
①現状把握・課題の棚卸し
実際の患者の動線や業務フローを確認し、表面化している問題だけでなく、現場に潜む根本的な課題も洗い出します。
②運用プロセスの設計
「予約→受診→会計→受診後のフォロー」までの一連のプロセスを最適化し、実務に即したマニュアルや多言語ツールの整備を行います。
③研修・現場への定着支援
ロールプレイなどを通じて、スタッフが自信を持って実際に対応ができる状態まで継続的に伴走サポートを行います。

外国人患者の受け入れ体制についてお悩みの医療機関様へ

医療機関ごとの課題や実情に合わせた、無理のない持続可能な受け入れ体制づくりをご提案いたします。まずはお気軽にご相談ください。

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監修

大石 佳能子
大阪大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクールMBA、マッキンゼー・アンド・カンパニー(日本、米国)のパートナーを経て、メディヴァを設立。
医療法人社団プラタナス総事務長。江崎グリコ(株)、マルホ(株)など各社の社外取締役、公益社団法人経済同友会幹事、一般社団法人 Medical Excellence JAPAN副理事長。
また、大阪大学運営方針会議委員、福島県立医科大学経営審議会学外委員や慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科委員、ハーバード・ビジネス・スクールの日本諮問委員を務める。
政府関係では、規制改革推進会議専門委員、東京都医療DX推進協議会委員の他、経済産業省、内閣官房等の有識者会合の各委員を歴任。