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2026/10/09/金

寄稿:白衣のバックパッカー放浪記

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白衣のバックパッカー放浪記 vol.65/ベリーズ編

「カリブ海の宝石」と呼ばれる国

メキシコからセスナ機に乗ってベリーズにやってきた。ベリーズはユカタン半島東側に縦長に広がる国だ。東岸はカリブ海に面していて、グレートバリアリーフに次ぐ規模を誇る珊瑚礁がある。空から見る海の色は透き通っていて、到着前から「さぞ綺麗な観光地なんだろう」と胸が高鳴っていた。

空からみたベリーズ周辺

空港に到着してみると、「ESTAを持っていないのか」と聞かれ、なかなか入国審査は進まず、やっとこさ入国しても移動手段としてUberはなく、見慣れない空港タクシーを利用して移動しなくてはならず、挙句、降りた場所は街とは思えないような集落の一角だった。一応、同国最大の都市であるベリーズシティにいるはずなのだが、ビルはなく、でこぼこした路面が目立つ場所だった。

今までに来たことのないタイプの国という第一印象は間違っておらず、宿では「夜は危ないから出歩かないで」と注意を受けた。荷物を置いて少しばかり散策してみるが、コンビニはなく、商店がまばらに並んでいた。水を買おうにも商店の中に入ることはできず、鉄格子越しに「水をください」と伝えて、お金を払う。きっとこうでもしないと盗まれてしまうんだろうと素人ながらに思う。

さらに歩いてみると商店街らしきところに出たけれど、鶏が焼かれるいい匂いがする以外に、魅力的なものはなかった。メキシコとの違いは英語が通じること、通貨ベリーズドルの計算がしやすいこと(2ベリーズドル=1USドルで完全に連動している)だ。また、アジア系の住民や旅行者をあまり見かけなかったこともあり、自分が地元民でないことを強く意識した。

「夜出歩けないなら、食事はどうしよう」と悩やんだ末、柵越しに見つけたマルちゃん正麺のインスタントラーメンを購入し、宿でお湯を注いで食べて凌ぐことにした。思い描いていた「綺麗な海の横でカクテルを飲んでゆっくりする」という自分の理想とは、ほど遠い旅の始まりだった。

鉄格子付きの商店

朝、街中をランニングしてみる。中心部から離れると舗装されていない道が広がり、民家があった。オアハカからさらに標高が下がったことが、息苦しくならないことからも分かった。

宿に帰ってきて、何をしようかと考えて地図を見ながらぼーっとしていると、「キーカーカー島」という島が目に止まった。調べてみると、日帰りの高速船で行けることが分かった。観光名所の一つのようなので、早速船着場に向かってみることにした。

「頼むからいい場所であってくれ!」

キーカーカー島

中米に来てから初めて船に乗る。最初の便は、購入したチケットのチェックインができていないと言われて乗れず、結局1時間待って次の船に乗ることになった。チケットを買ったあとに受付に行かなくてはならなかったらしい。「そんなこと知らないよ」と、同じ状況になった前に並んでいた観光客と愚痴りあって、時間を潰した。

船に乗って最初に驚いたのは、乗客の多くが黒人だったことだ。ベリーズがカリブ海の国であることが少し実感できた。空はだんだん雲が厚くなってきて、波も心なしか高くなってきたような気がする。島に着く頃には雨がパラついてきて、昼を食べる頃には土砂降りになっていた。ランチをしていた場所には犬がいて、多分飼い犬なんだろうけど、残飯を狙ってウロウロしていて怖い。ワクチンを打っていたとしても、もし噛まれたらと思うとゾッとする。

キーカーカー島自体は観光地として整備されているようで、おしゃれなコテージに宿泊できるようになっていて、ホテルの看板も目立つ。きっとここなら、夜に出歩くことをためらうほど治安が悪いということもないのではないか。

しかし、夜に出歩けないというのは不便だなと思う。特に夜ご飯は旅人にとってかけがえのない楽しみの一つ。それが奪われたとあっては、何のために訪れたのか分からなくなってしまう。夜に活動できなければ、それだけ産業の数が減るんじゃないかとさえ思う。社会人は夜どうやって運動するんだろうか。治安は国の収益や人々の健康にも影響しているのかもしれない。日本がどれほど治安がいいかを思い知ることができた。

外国人が夜も含め日本の治安の良さに驚いているのをテレビで見たことがあるが、確かに国によっては驚くべきことなのだろうと思う。雨降りになってしまって、またしても綺麗な海を拝むことは叶わなかった。何だか人にも馴染めず、ただ宿で夜の時間を過ごす。こんな時間は日本ではあまり経験してこなかった。何となく窮屈で、自分にはコントロールができない耐え忍ばなくてはならない時間。夜ご飯だけが旅ではない。そう、ベリーズの夜が問いかけてくるようだった。

ところがある夜、素敵なことがあった。宿の下の庭が騒がしいと思って覗いてみたら、パーティーをしていた。宿のスタッフが主催しているようだ。そろりそろりと近づいて行って、「何をしているの?」と聞くと「おばあちゃんの誕生日会をしてるんだよ」と教えてくれた。パーティーの主役であるおばあちゃんに「友達が多いんだね、おばあちゃんは」と声をかけると、「いやいや、ここにいるのは全員家族だよ。私には孫が20人いるんだ」と教えてくれた。

どうやら見渡す限り、このおばあちゃんの血縁らしい。なぜかおばあちゃんは私に家族を一人ひとり紹介してくれて、その度「Hi, Bro(brotherを略したスラング)」とラッパーのような言葉遣いで握手をしてくれた。なんだかみんな優しい雰囲気で、日本人のことを温かく迎え入れてくれた。ここで初めて、この土地に受け入れられたような気がした。

知らず知らずのうちに心に鉄格子を作っていたのは私の方だった。話しているとランニングしたエリアは本当に危ない場所だったことも分かって、油断ならないのもまた事実だった。うまく危険と安全を察知して動かないといけない。「自分の感覚が間違っていることもある」と、この国は自分に問いかけているようだった。

ベリーズの医療

人口約42万人のベリーズは医師不足に悩まされている。日本の医師数が人口1万あたり26人なのに対して11人と半分以下の水準だという。特に田舎にいけば行くほど医療へのアクセスが悪くなる。そこで2026年5月に、ベリーズ保健福祉省とUNICEFが共同でNational Community Health Strategy(全国地域医療戦略)を発表したた1)。

この戦略のコアは、医師ではない「コミュニティーヘルスワーカー(CHW)」を地域医療の担い手に位置付けたことだ。農村部における医療の担い手を作りだし、医療アクセスの改善を試みている。CHWは国家資格ではないようだが、慢性疾患、感染症、母子保健などを中心とした健康教育とフォローアップを担い、は、血圧測定と血糖測定の訓練を受けている2)。患者の自宅を訪問し、必要な場合には病院との架け橋になることもあるそうだ。処方箋の発行や診断といった医療行為はできないが、地域の健康課題を抽出し、農村部を適切な医療とつなぐ。人口数や文化的な価値観の違いはあれど、日本でも真似できることが多いと思う。

CHWに選ばれるには、その地域に5年以上住んでいることや、地域から信頼されていることが条件となっている。学力に関しては小学校卒業が必要だ。まずは地域で候補者を募り、その後、投票によって地域のCHWが決まる3)。地域の健康を任せたいと思える人を、住民が自分たちで決める仕組みになっている。資格のある医療職だけに頼らない医療の実践が、ベリーズにはあるようだ。

自分に引き寄せて考えてみると、「この地域の健康を任せたい」と思えるような人は、すぐには浮かんでこない。そこに暮らしているだけでは、地域の中には溶け込めないのかもしれない。ふと、宿の庭で会ったおばあちゃんを思い出す。実は不便さの中にこそ、人と人とのつながりを支える優しさが生まれるのかもしれない。「都市の代わりに人との繋がりが発展している場所だったのかもな」そんなことを思いながら名物のロブスターを食べると何だか美味しく感じた。


次回は10月23日(金)、グアテマラ編となります。

【参考文献】
1)Ministry of Health & Wellness and UNICEF Launch Belize’s National Community Health Strategy 2026–2030. (n.d.). Retrieved October 5, 2026, from https://www.unicef.org/belize/press-releases/ministry-health-wellness-and-unicef-launch-belizes-national-community-health?utm_source=chatgpt.com
https://www.paho.org/en/news/26-10-2020-eu-pahowho-and-moh-expand-covid-19-laboratory-testing-and-support-community-health?utm_source=chatgpt.com
2)The EU, PAHO/WHO and MoH expand COVID-19 laboratory testing and support Community Health Workers – PAHO/WHO | Pan American Health Organization. (n.d.). Retrieved October 5, 2026, from https://www.paho.org/en/news/26-10-2020-eu-pahowho-and-moh-expand-covid-19-laboratory-testing-and-support-community-health?utm_source=chatgpt.com
3)Community Health Workers’ Training Manual Abbreviations. (n.d.). Retrieved October 5, 2026, from https://www.unicef.org/belize/media/3936/file/CHW%20Training%20Manual%20Final.pdf.pdf


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