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2026/10/05/月

医療・ヘルスケア事業の現場から

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組織改革が進まない理由とその解決策 ―組織変革の8段階プロセスを活用した実践事例―

【執筆】コンサルタント山田/【監修】取締役 小松大介

はじめに

昨今、外部環境の急変や患者数の落ち込みを受け、経営の方針転換を迫られる医療機関が増加しています。しかし、経営改善の計画を立てるまではできても、その実行が途中で停滞し、変わることができずに苦しむ病院は少なくありません。
計画が遂行できない組織に共通してみられる特徴として、以下のような「組織として改善の文化がない」「実行体制が整備されていない」といった状態が挙げられます。

  • これまで組織として本格的な改革を経験したことがない
  • 現場に「どうせ変わらない」という諦めの空気が広がり、職員のモチベーションが低い
  • 変化に対して過剰な反発や拒絶反応が起きる
  • 実行を担当する部署がなく、実質的に特定の個人に依存している

こうした状態のまま「正論」や「計画数値」をトップダウンで伝えても、現場が動くとは限りません。では、病院の「組織改革」が必要な場合、どのようなアプローチが効果的なのでしょうか。よく見かける他院の「成功ノウハウ記事」は、その医療機関特有の事情に依存していることが多く、そのまま自院に当てはめることが難しい場合があります。

そこで本稿では、フレームワークを活用して組織改革に取り組んだ事例をご紹介します。フレームワークを活用する最大のメリットは、個人の感覚や過去の成功体験に頼るのではなく、「変革の全体像と客観的な手順」を組織全体で共有できる点にあります。本稿が、組織変革に悩む経営者や事務長の方々の一助になれば幸いです。

組織改革を実行するフレームワーク

経営改善に関するフレームワークは世の中にたくさんありますが、「組織改革」を進めるうえでは、ジョン・コッター教授が提唱した「組織変革の8段階プロセス」が有名です。これは医療機関に限らず、様々な業界で使用されている標準的なフレームワークで、最大の特徴は、「変化に対する人間の感情や行動心理」に焦点を当て、変革に必要なステップを順序立てて明示している点にあります。同氏は「組織改革の失敗のほとんどは、計画や予算の問題ではなく、関係者の合意形成や意識改革が追いつかない点にある」と指摘し、人を動かすために、8つのステップを順番に進めていくことを推奨しています(下図)。


具体的には、ステップ1~3で改革のための土台を作り、ステップ4~6で改革を実行して周囲を巻き込み、ステップ7~8で更なる変革を広げて改善を組織の「文化」として定着させるというものです。

フレームワークを活用した組織改革の支援事例

以下、本フレームワークを活用して、組織改革を実践した支援事例をご紹介します。

1.病院概要

病院: A病院(100床規模のケアミックス病院)
業況: 慢性的な赤字状態。地域の人口減少により患者が減少し、病床稼働率が低下
組織: 院長による経営への関与が薄く、職員の経営意識も低い状態

2.改革が進まない時期

  • 稼働の伸び悩み: 地域の実情に合わせて病床再編などの構造的な改革は進められたものの、病床稼働率は計画通りには高まりませんでした。
  • 離職の増加: 構造改革による一時的な混乱により、職員の離職が増加し、現場の疲弊感は強まる一方でした。
  • 会議の紛糾: 月1回の管理者会議には院長が参加せず、現場は経営陣への不信感と反発を強め、会議は毎回紛糾する事態に陥っていました。
  • 実行スピードの停滞: 経営改善の実行を実質的に担うのが事務長一人のみであり、院長への相談や調整もしにくく、施策の実行が停滞している状況でした。


3.フレームワークの活用によるアプローチの転換

上記の状態のまま改善が進まず、いよいよ資金ショートの可能性も現実味を帯びてきた段階で、弊社からこれまでのアプローチを抜本的に変えることを提案し、院長・事務長の合意を経て実行に移しました。具体的に進めたのは以下の項目です。

  • 経営幹部の交代と経営戦略部の発足(ステップ②)
    病床稼働の増加が進まない状況を踏まえ、より経営改善に積極的だった看護師長を看護部長に据えました。また、管理者会議のなかで発言力(影響力)の大きかった職員を経営戦略部長に抜擢し、事務長と新看護部長を加えた3名による経営戦略チームを発足させることとなりました。これにより、これまで事務長一人に任せていた部分を補い、少数精鋭で、小回りの利く体制を作ることができました。
  • 経営戦略チームへの危機の共有(ステップ①)
    これまで職員への業況開示については、地域への影響や離職リスクを踏まえて消極的な姿勢でしたが、危機感を共有することが実行の動機づけとして重要であることを院長に説明し、経営戦略チームにのみ部分的な業況を開示する条件で承諾を得ました。チームに開示した際は、厳しい経営状況に驚きもありましたが、一方で、戦略チームのメンバー間で使命感が高まり、チームに一体感が生まれる契機となりました。
  • 短期的な経営改善計画(フェーズ別目標)の提示(ステップ③)
    資金ショートの危機を乗り越えるために、従来の3か年という中期的な計画は一度わきに置き、今後6か月間の超短期的な改善計画を事務長とともに策定し、集中して資金ショートの危機を乗り切るためのビジョンを戦略部へ提示しました。
  • 週次ミーティングの実施と改善計画の共有・定着(ステップ④)
    従来の月1回の管理者ミーティングでは、人数が多く議論が発散してしまうこと、また課題の管理も大まかになってしまい、改善の習慣が定着しないという問題がありました。そこで経営戦略チームでの週次ミーティングを設定し、スモールステップで、施策を早く回すことを実践しました。また、最初の1か月間で繰り返し計画を説明し、改善のための全体像をメンバー全員で共有することを徹底しました。
  • チームでの改善施策の共同策定(ステップ③,⑤)
    これまで、施策の検討は院長・事務長と当社によるトップダウンのものが主体でしたが、転換以降、大まかな改善計画に対して、チーム主体で施策を発案し、当社はファシリテーションの役割に留まる運用に変換しました。これにより、チームメンバーの経営参画意識と主体性が生まれ、チームの活気が目に見えて高まっていくことが感じられました。
  • 施策による稼働の向上と会議での共有(ステップ⑥)
    当院の課題は、病棟業務のひっ迫により、意図的に患者を早期に退院させようとする雰囲気があることでした。これにより一時的に稼働が高まったとしても、すぐに下がってしまう状況にありました。看護部長の交代により、退院については必ず地域連携室による退院支援を挟むスキームへと変更。現場主導での早期退院を防ぐことで、適切な退院支援を行いながら、稼働率を引き上げることができました。この短期的な成果をチームだけでなく管理者会議でも共有し、新たな体制によって成果が出始めていることを管理者全員で共有することができました。
  • 新たな改善策の自発的な創出、「Web目安箱」による改善案の募集(ステップ⑦)
    週次のミーティングにて改善施策をチーム主体で打ち続けるとともに、職員全体に向けて、経営改善のための案を募るWeb上の「目安箱」を設置し、更なる追加施策を募集しました。実効性や改善効果の高い施策案は、起案者を巻き込み、実行にも参画してもらうようにしました。
  • 改革に参画してくれる仲間の巻き込み、昇進(ステップ⑧)
    当院の評価制度の問題として、「頑張っても評価されない」組織という諦めが、職員の向上心を阻害する要因となっていました。そこで、上記のWeb目安箱や、管理者との面談により、改善に積極的に参画してくれた職員については、役職に登用する人事を積極的に行いました。これにより、組織全体として改善意識が高まっていく雰囲気が生まれつつある状況です。


4.改革の結果

上記のようなアプローチの転換を行った結果、改善計画は大きく好転しました。

  • 目標稼働の達成: これまで停滞していた改善スピードは急速に回復し、わずか2か月で病棟の稼働は目標値を達成、さらに2か月後には目標を上回る稼働率を達成しました。
  • 職員離職の防止: 稼働増加によって現場の負担は増えたものの、チームや管理者の働きかけによって職員のモチベーションは維持でき、懸念された離職も抑制することができました。
  • 計画にない利益改善策の推進: チーム内の発案で、これまでの悪い業務習慣の見直しを行ったことにより、常態化していた同じ部署の残業時間を2割近く削減することができました。これは従来の計画にないものであり、経営改善のインパクトとしても大きいものでした。

本事例が奏功した要因

今回のアプローチが奏功した最大の要因は、やはり「職員の意識変容」にあったと考えられます。組織改革が停滞する要因の多くは、改革に対する現場の不安や反発です。人は誰しも、急な変化や上からの指示に対して不安や反発を抱くものです。本フレームワークは、そうした心理的な抵抗をできるだけ抑え、組織が能動的に回るためのステップを作り出す機能を持っています。

その上で、本フレームワークを活用し、本質的に重要だったアプローチは以下の3点です。

  1. 少人数で始めること
    管理者会議のように10人以上の規模で改革を進めると、意思統一が難しくなり、異なる意見が推進を妨げる要因となってしまいます。まずは小さな集団で始めることが重要でした。
  2. メンバー選定の重要性
    少人数だからこそ、メンバー選定が極めて重要になります。従来の役職順ではなく、「改革の意思を持つ人」「行動力がある人」「周りを巻き込み、調整できる人」を登用したことが、今回の成功の大きな要因であったと言えます。
  3. 「小さく、早く」回すこと
    月1回の会議ではなく、週次でミーティングを実施しました。小さな改善を早く回すことで、成功が積み重なり、結果的に周りを巻き込んだ大きな波となりました。

おわりに

本稿では、変革のフレームワークを活用した病院の組織改革事例をご紹介しました。
医療機関の経営改善において、綿密な財務分析に基づく計画書が必要なことは言うまでもありません。一方で、もし実行フェーズに困難が生じている場合、本質的に重要なのは「どのようなメンバーで、どのように回すか」という実行体制に焦点を当てることです。

今回の支援で実行に移した項目は、同院独自の背景を踏まえた施策ではありますが、フレームワークを活用することで、組織の背景や状況が異なる場合にも応用することが可能です。
また、その実行プロセスにおいては、経営危機が深刻であればあるほど、改革を「小さく・早く」回すこと。反対に、その推進力となる人材の登用については「大胆に」行うこと。これらが改革を成功させる上で極めて重要なポイントだと言えるでしょう。

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監修者

小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他

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