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2026/08/03/月

医療・ヘルスケア事業の現場から

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持続可能なクリニック運営を見据えた「第三者承継」-何を引き継ぎ、何を変えるか-

【執筆】コンサルタント渡部/【監修】取締役 小松大介

はじめに

近年、第三者承継によるクリニック開業のご相談をいただく機会が増えています。院長の高齢化や後継者不足を背景に、地域医療を継続する選択肢として第三者承継への関心が高まっています。患者さんやスタッフ、設備を引き継いで診療を開始できることは、新規開業にはない大きな強みです。

一方で、承継では譲渡価格や契約条件といった「お金・契約」の話に意識が向きがちです。しかし実際には、それ以外に「クリニック名」、「標榜科」、「診療体制」、「内装」、「スタッフの雇用」など、承継後の運営に関する意思決定が次々と求められます。これらは患者さんが安心して通い続けられるか、地域医療を継続できるかを左右する重要な判断です。

 本稿では、第三者承継の契約条件ではなく、「承継後のクリニック運営」を見据えたうえで、承継段階で検討しておきたいポイントを事例を交えてご紹介します。

※本稿で紹介する事例は、複数の支援事例をもとに当社でアレンジしたものです。

第三者承継とは

1.第三者承継の概要

第三者承継とは、親族や院内スタッフ以外の第三者が既存のクリニックを引き継ぐ開業形態です。個人診療所承継と医療法人承継がありますが、行政手続きは異なる一方、承継後のクリニック運営で検討すべき論点は共通しています。

2.第三者承継のメリットと課題

第三者承継は、譲り渡す側・譲り受ける側双方にメリットがあります。

【主なメリット】
譲り渡す側:譲渡対価を得られ、地域医療や雇用を継続できる
譲り受ける側:患者・スタッフ・設備を引き継ぎ、円滑に開業できる

一方で、前院長が築いた診療スタイルや地域との信頼など、「形のないもの」も引き継ぐことになります。そのため、何を引き継ぎ、何を変えるのかを整理し、自身が目指す医療とのバランスを取ることが承継成功の鍵となります。

承継後のクリニック運営で検討すべきポイント

1.クリニック名

クリニック名は、承継後の方向性を象徴する重要な要素です。特に、前院長の苗字がクリニック名になっている場合は、そのまま引き継ぐのか、新たな名称へ変更するのかが、多くの承継案件で論点となります。
前院長の名前を引き継ぐことで、長年地域で築かれた認知や安心感を維持できる一方、次のような課題もあります。

  • 「前院長が引き続き診療している」と患者さんに誤解を与える可能性がある
  • 新しいクリニックとしての理念や診療コンセプトが伝わりにくくなる

【支援先での判断例】
既存のクリニックが専門性の高い診療を通じて地域で築いてきた信頼を大切にしながらも、幅広い世代を支える「ファミリークリニック」という新たな方向性を明確にするため、クリニック名を変更しました。名称は看板ではなく、クリニックの理念や地域へのメッセージでもあることを踏まえて決定しています。

なお、医療法人による第三者承継では、法人名を変更せずに承継するケースもあれば、承継後の運営方針やブランド戦略を踏まえて変更するケースもあります。ただし、患者さんへの認知や安心感という観点では、医療法人名よりもクリニック名の方が影響は大きいと考えられます。

2.標榜科

標榜科や診療内容は、新院長の専門性を活かしながら、地域ニーズとのバランスを考えて検討する必要があります。前院長が担ってきた診療機能を大きく変更すると、既存患者さんの受診継続や地域で期待されてきた役割に影響を与える可能性があるためです。

【現場での主な検討事項】
・患者ニーズの把握:前院長時代の主訴や疾患傾向を分析し、地域に求められる診療機能を整理する
・専門性との両立:自身の専門性を活かしながら、どこまで従来の診療機能を継続するかを検討する
・行政手続きへの配慮:個人診療所の承継では、診療科や診療内容の変更が行政手続きに影響する場合があるため、事前に確認する(※本ページ下部「留意点」参照)

標榜科の選定では、自身の専門性と地域ニーズを踏まえ、「何を引き継ぎ、何を変えるのか」を整理することが重要です。

3.診療体制の見直し(診療時間・予約方法)

診療時間や予約方法は、患者さんの利便性だけでなく、スタッフが無理なく働き続けられる環境づくりにも直結します。

  • 患者さん:診療時間が変わることで通院のしやすさに影響する
  • スタッフ:勤務時間の変更が働きやすさや定着に影響する

【支援先での判断例】
平日午後の診療時間を30分後ろへ変更し、仕事帰りにも受診しやすい体制としました。また、土曜診療を設ける一方で平日に休診日を設定し、スタッフの勤務環境にも配慮しました。
予約方法はWeb予約を導入しながら予約外受診にも対応し、高齢患者さんへの配慮と急患対応を両立しています。

4.内装工事(どこを残し、どこを改修するか)

第三者承継では、既存の建物や設備を活用できることが大きなメリットですが、すべてをそのまま引き継ぐことが最適とは限りません。

  • 全面改修:新しい印象を与えられる一方、費用・工期が増える
  • 既存設備の活用:初期投資を抑えられる一方、現在の診療スタイルに合わない設備が残る場合がある

【現場でよく検討される改修箇所】
・トイレ:高齢者や子育て世代が利用しやすいよう、スペースの拡張や設備を見直す
・受付:キャッシュレス決済や自動釣銭機に対応できるよう、受付・会計スペースや作業動線を見直す
・バリアフリー:入口や待合室の段差解消、手すりの設置など

重要なのは、「古いから直す」のではなく、今後の運営方針を踏まえて投資する箇所を見極めることです。

5.スタッフ

既存スタッフは、日々のクリニック運営を熟知しているだけでなく、患者さんや地域との信頼関係を長年築いてきた、クリニックにとって重要な存在です。
そのため、「誰を残すか」ではなく、「どうすれば安心して働き続けてもらえるか」という視点で承継を進めることが重要になります。

  • 既存スタッフを引き継ぐ強み:患者さんに安心感を与えられるほか、これまで培われてきた現場の運営ノウハウを継承できる
  • 承継時の課題:診療方針や業務ルールの変更に対する不安から、離職につながる可能性がある

【現場での主な取り組み・検討事項】
・承継前の個別面談:スタッフ一人ひとりの不安や希望を把握する
・雇用条件の整理:給与や勤務時間などの条件を明確にする
・理念・方針の共有:新院長が目指すクリニック像や診療方針を丁寧に説明する

スタッフの承継は、雇用契約を引き継ぐだけでは終わりません。新院長と既存スタッフが互いに理解を深め、新しいクリニックをともにつくる関係を築くことが、円滑な承継につながります。

留意点:個人診療所承継では行政手続きにも注意

――「遡及指定」が受けられるかどうかで経営への影響も――
個人診療所の第三者承継では、前院長による「診療所の廃止」と、新院長による「新規開設」という手続きを行うため、保険医療機関の指定も改めて受ける必要があります。一定の要件を満たす場合には、開設日に遡って指定を受けられる「遡及指定」が認められ、承継初日から切れ目なく保険診療を継続できます。

【主なポイント】
・遡及指定が認められる場合:承継初日から保険診療を継続できる
・遡及指定が認められない場合:保険医療機関として指定を受けるまで保険診療を開始できず、1~2か月程度の診療報酬の空白期間が生じる可能性がある
・事前相談が重要:個人診療所では、承継内容や診療科・診療内容の変更などにより、従前の診療所との継続性について確認が必要となる場合があるため、保健所や地方厚生局へ早い段階で相談しておくことが望ましい

第三者承継では、譲渡価格や契約条件だけでなく、行政手続きの進め方も経営に大きく影響します。特に個人診療所承継では、「保険診療を止めない」という視点も踏まえながら、承継計画を検討することが重要です。

おわりに

第三者承継では、譲渡価格や契約条件など「承継まで」の準備に目が向きがちです。しかし実際には、承継後のクリニック運営に関する一つひとつの意思決定が、その後の経営や地域医療の継続を大きく左右します。
クリニック名、標榜科、診療体制、内装、スタッフ。いずれも正解が決まっているものではありません。大切なのは、前院長が築いてきた価値を尊重しながら、「何を引き継ぎ、何を変えるのか」を整理し、ご自身が目指す医療とのバランスを考えることです。

第三者承継は、建物や設備だけでなく、患者さんとの信頼や地域で果たしてきた役割を受け継ぐ営みでもあります。契約や行政手続きだけでなく、その先のクリニック運営まで見据えて準備を進めることが、地域に長く愛されるクリニックづくりにつながるのではないでしょうか。

本稿が、第三者承継を検討されている先生方の一助となれば幸いです。

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監修者

小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他

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