2026/04/13/月
医療・ヘルスケア事業の現場から
【執筆】コンサルタント源間/【監修】取締役 小松大介
目次
近年、医療業界全体で深刻な人材不足が叫ばれており、病院経営における最大の懸念事項の一つとなっています。医師や看護師の確保はもちろんのこと、チーム医療の要となるコメディカル部門においても、採用難による運営への影響は無視できない規模に達しています。
厚生労働省の「医療計画等に関する検討会」では、薬剤師自体は供給過剰であるものの、地域偏在等により特に病院を中心として薬剤師の不足感が生じているとしています¹。また、同資料のうち実際に薬剤師数の充足状況に対する認識(充足感)についての調査では、不足している(「全く足りない」及び「足りない」)と回答した割合は、病院全体では64.8%となっており、病院において薬剤師の採用・確保に苦戦している状況を見て取ることができます²。
そこで本稿では、弊社支援先における薬剤師採用実績を通じ、現場実態を深く知ることによる採用の改善方法について解説します。
本事例は急性期にも対応している精神科単科の病院であり、薬剤部は薬剤師が定員8名、薬剤事務が定員1名で運営していました。しかしながら、薬剤師3名の退職により生じた欠員に対し半年間ほど補充が叶わない状況かつ、現場が疲弊していたにもかかわらず直接応募や求人サイトには応募がない状況で、人材紹介業者との繋がりも希薄な状態にありました。また、欠員が続いたことでシフトを組むのがギリギリであり、来月はシフトが組めないかもしれないとの声も現場から上がっていました。
実際に支援を開始したところ、いくつかの課題が浮かび上がってきました。実際に現場の管理職からは、精神科単科病院における薬剤師採用の難しさとして、薬剤師の若手~中堅層においてスキル・キャリアアップを求める層は大学病院や総合病院へ、給料等の待遇面を求める層は薬局や調剤併設ドラッグストアへ流れてしまうため、支援先のような単科病院には人材が集まらないとの声が上がっていました。
統計データから見ると、実際に厚生労働省の検討資料では20,30代の病院薬剤師の年収が同世代の薬局等薬剤師に劣ることを示していました。さらに、精神科病院であることから一般科の病院と比較して給与単価が低い状況であったため、一般病院以上に薬剤師の確保に苦戦しているという課題が浮き彫りになりました。
支援当初に行っていた採用手法は、病院HP・求人サイトの求人掲載、人材紹介会社数社との取引のみでした。また必要な人材像が固められておらず、求人を出して応募を待っている受け身の状態でした。そこで、まずは現場に入り込んで業務実態を把握するところから始めました。
まず、薬剤部の朝礼から閉局まで丸一日同行し、一連の業務フローを観察しました。形式的な面談だけでなく、休憩時間の雑談にも加わることで、調剤薬局に比べて一人ひとりの患者への服薬指導を長く行っていることや医師とのコミュニケーションを重視し、疑義照会を含め積極的に臨床の意思決定に関わる雰囲気があるといった当院の強みを把握することができました。それらの情報を踏まえ、現場の雰囲気に合う性格や実際に必要なスキル、自院の強み・弱みを整理しました。
その結果、ターゲットを「単なる病院・精神科経験者」から、「薬局での流れ作業に疑問を感じ、もっと臨床の意思決定に関わりたい3年目以上の層」や、「ワークライフバランスを保ちつつ、腰を据えて服薬指導スキルを磨きたい若手 」と設定し、病院や精神科の経験よりも新しいことを積極的に学ぶ姿勢を重視する方針を固めました。
次に取り組んだのが、求人原稿の作り直しです。これまでは概要のみの簡素な記載でしたが、ヒアリングで得た当院ならではの魅力をワークライフバランスの実現を中心に具体的に盛り込みました。給与額面では薬局などに見劣りするものの、年間休日125日以上や残業がほぼない点、さらに基本給の比率が高いため、年収ベースでは大きく見劣りするわけではないことをワークライフバランスの軸として整理しました。また管理栄養士のもと給食を完全院内で調理しており、職員は250円で食べられることも求人に記載しました。
その上で、求人タイトルなど目につくところに【年休125日以上!】といった記載を含めて目を引くようにすることや職員の働いている写真や社食の写真などを載せることによって、入職後の自分が働くイメージを持ちやすくしました。
採用ターゲット・訴求内容を再定義した一方で、求職者との接点の不足も深刻な課題でした。これまでは過去にやりとりのあった人材紹介会社にのみ薬剤師の求人依頼を出していたため、新たに薬剤師の採用に定評がある人材紹介業者7社程度に依頼をしました。
それと同時に、人材紹介会社との関係性も改善しました。薬剤部の情報を細かく把握し、エージェントからの質問に即座に回答できる体制を作ったことで、紹介しやすい病院としての信頼を得ることができました。
中でも効果的だったのは、エージェントを現場見学に招待したことです。実際の雰囲気を見てもらうことで、求める人材のズレがなくなっただけでなく、エージェント自身が自信を持って求職者に薦めてくれるようになりました。また紹介する側の心理的側面を考慮しても、見学や質問への丁寧な回答によって、似たような条件の病院が複数ある場合、よく知っていて自信を持って薦められる病院から先に紹介する効果も期待できます。
結果として約2ヶ月で薬剤師2名の採用に成功し、残り1名については、管理職候補を採用したいことから、時間をかけて採用を進めていくということになりました。本支援によって、現場の実態や欲しい人物像を言語化することで、確度の高い母集団の形成が可能になりました。
採用難を打破するためには、単なる条件提示に留まらず、現場のニーズと自院の強み・職種の働きがいを明確に言語化することが不可欠です。その上で、ターゲットの心に響く独自の採用戦略を構築・実行していくことが、確度の高い人材確保へと繋がります。
出典
1.厚生労働省 「医師以外の医療従事者の確保について」 第13回第8次医療計画等に関する検討会 令和4年8月25日 000979702.pdf
2.前掲書(厚生労働省)
監修者
小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他