2025/09/22/月
医療・ヘルスケア事業の現場から
【執筆】コンサルタント石川/【監修】取締役 小松大介
目次
日本透析医学会の「わが国の慢性透析療法の現況」によると、2023年末時点の慢性透析患者数は約34万人と報告されています。この患者数は、2021年をピークに、2022年から減少傾向に転じました。一方で、透析コンソール台数は年々増加を続けています。
つまり、需要が減少局面に入る中で、供給はむしろ拡大しており、今後透析患者の集患はより難しくなってきていくことが予想されます。
また、人工腎臓の点数は、診療報酬改定の度に引き下げられており、今後も見直しは続いていくと考えられます。
以上を踏まえると、透析医療機関の経営は今後厳しくなって行くことが予想されます。そのため、今後集患力を強化し、患者数を維持、増加させていくことは経営上の重要課題と言えます。
その具体的な打ち手の一つが、地域連携室を中心とした紹介元医療機関への営業活動です。しかし、単に顔を見せるだけの形式的な挨拶回りでは成果は期待できません。
本稿では、地域連携室が主体となり、紹介患者を増やしていくための営業の進め方について解説します。
営業活動は、やみくもに訪問を始めても成果には繋がりません。営業活動の成果を最大化させるためには、事前に院内で以下について固めておく必要があります。
初めに「誰に(WHO)」、「何を(WHAT)」伝えるかを整理します。例えば、「入院透析」と「外来透析」では、アプローチすべき相手も響くメッセージも全く異なります。
ターゲット像を「長期療養が必要な合併症を持つ患者さん」、「透析導入直後の比較的ADLが保たれている患者さん」のように具体的に描き、それに対して自院が提供できる価値(強み)は何かを明確に言語化します。この準備が、1回の訪問の質を決定づけます。
まずは以下のように、ターゲットごとに自院の強みを書き出していくと整理しやすくなります。
| 当院の強み(例) | |
| 入院透析 | ・長期療養入院が可能 ・リハビリによるADL改善を目指せる ・シャントトラブルにも柔軟に対応可能 ・他科の医師も在籍しているため、腎疾患以外の合併症についても管理が可能 |
| 外来透析 | ・ADLが低い患者でも柔軟に送迎対応が可能 ・透析患者への栄養指導を毎月実施している ・透析レスパイト入院が可能 ・テレビやフリーWi-Fiなどの設備が充実している |
現状提供できる強みに加え、さらなる強みを育成することも重要です。高齢の透析患者が増加している中で、柔軟な送迎対応は大きな強みとなります。単に車椅子での送迎を可能にするだけでなく、送迎スタッフが乗車介助にも柔軟に対応するといった細やかな配慮が、大きな差別化要因となることもあります。
また、病床数削減が進む中で、将来を見据え腹膜透析へ移行し、在宅医療で対応することも可能にするなど、選ばれる存在となるための戦略的な強みづくりも不可欠です。
営業により紹介が来たとしても、最初に相談を断ってしまうと相手からの印象は悪くなってしまいます。特に営業を始めたタイミングは難しい症例の相談が来るケースも少なくありません。
こうした難しい相談にこそ、いかに柔軟に対応できるかが、その後の安定的な紹介獲得の鍵となります。そのため、営業開始前には、院長などの経営層、医師、看護部長といったキーパーソンと「営業先からの紹介は原則断らない。困難事例こそ、可能な限り前向きに検討する」という戦略的方針を共有しておくことが重要です。
事前にキーパーソンと合意しておけると、現場も「病院としての方針」として前向きに対応しやすくなります。難しい相談に院内一丸となって応えることで、「柔軟に対応してくれる医療機関」という評判が生まれ、徐々に様々な患者さんを紹介してもらえるようになります。
アポイント調整や定期的な訪問といった営業実務は、地域連携室が中心となって進めるのが効率的です。一方で、特に重要な訪問先や、より具体的な連携強化を図りたい場合には、実際に患者さんの相談を受ける医師やMSWに同行してもらうことが極めて有効です。
専門職が同席することで、その場で受け入れ可否に関する踏み込んだ話ができ、具体的に相談可能な患者さんをイメージしてもらうことができます。また、担当者の「顔が見える関係」は、紹介する際の心理的なハードルを大きく下げてくれます。
多忙な専門職の同行予定を確保するためには、経営方針として「営業同行は重要な業務の一つ」と位置づけ、院内での同職種内での業務調整や訪問活動時間の確保など、病院全体で協力する仕組みづくりが不可欠です。
上記準備が整ったら、訪問活動を開始します。訪問の効果を最大化するために、以下を行うことが重要です。
初回の訪問時には、自院の紹介に加えて、紹介元の紹介フローを把握することが重要です。具体的には以下2点を確認します。
①紹介先を決定するまでの具体的なフロー
②紹介先を決定するキーパーソン(意思決定者)
営業の効果を最大化するには、意思決定者に直接アプローチすることが不可欠です。誰がその役割を担っているのかを正確に把握することで、限られたリソースを最も効果的な人物に集中させることができます。
以下は実際に支援先で営業訪問した際に整理した紹介元のフローです。外来透析患者か入院透析患者をターゲットにするのかで、意思決定者は医師かMSWで異なり、医療機関によっても様々です。医師が意思決定者の場合は、どのように主治医が決まるのか、どのように紹介先を提示するのかなど、詳細なフローを把握することで、次に取るべきアクションが明確になります。

上記でキーパーソンが分かれば、その人に個別にアプローチを行います。
組織のトップ(腎臓内科の教授や部長)への挨拶だけでは不十分です。最終的な判断は現場の担当医に委ねられているケースも少なくないため、一人ひとりの担当医と直接関係を築き、自院の強みを伝える地道な活動が成果に繋がります。
支援先の病院では、大学病院からの透析導入直後の患者の紹介を増やすため、キーパーソンが病棟担当医であることを突き止め、教授への挨拶だけでなく、個別担当医へのアプローチを徹底しました。
その結果、各担当医には当院の強みである「 (柔軟な送迎対応や合併症への対応力など」)があまり認知されていないことが分かり、改めて強みを訴求できたことで、その後の紹介件数増加にもつながりました。
透析患者の集患営業で成果を出す鍵は、「戦略的な事前準備」と「キーパーソンへの的確なアプローチ」です。
この活動を成功させるには、実行部隊である地域連携室と、それを後押しする経営層のリーダーシップが不可欠です。
そして、訪問先では一方的に自院を売り込むのではなく、まず紹介フローとキーパーソンを把握し、その上で、キーパーソン一人ひとりと関係を構築していくことが、成果へと繋がります。
集患営業で成果を出していくことは簡単ではありません。厳しい環境の中で、選ばれ続ける医療機関となるために、院内一丸となってこの取り組みを進めていくことが重要です。
監修者
小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他