2025/09/03/水
医療・ヘルスケア事業の現場から
【執筆】コンサルタント武内/【監修】取締役 小松大介
目次
子ども、高齢者、障害者など全ての人々が、地域、暮らし、生きがいを共に創り、高め合うことができる社会を「地域共生社会」と言います。これを実現するには、病気や障害、生活困窮等の様々な困難に直面したときに、「支え手」「受け手」の関係性に固定されず、支援を必要としていた方が、支える側にもなり得ることが必要です。
これまでは、直面しうる課題に対して制度ごとに支援制度が整備されてきたほか、制度の隙間を、地縁や血縁等の地域のつながりが支えてきました。
しかし現在、高齢化や人口減少の進行により、老老介護、ヤングケア、8050問題等、医療福祉ニーズは多様化・複雑化しており※、例えば「認知症の母を介護しながら働くシングルマザーが、がんと診断」「引きこもりの子どもと暮らす高齢の母に病気が見つかるが、治療も介護も拒否」のように、1つの家庭に要支援者が複数存在し、単一の支援機関だけでは解決困難な課題が増加しています。また、地域や家庭・職場での支え合い基盤は縮小する一方です。
こうした社会変化の中で、地域共生社会を実現するためには、地域の中での人と人、人と社会の「つながり」の再構築が重要となっています。
※複雑化した課題の現状
地域住民向けの健康講座の開催等に取り組まれている医療機関や介護施設も多いと思いますが、ここでは、弊社関連の施設における、地域とのつながりづくりの取組の一例をご紹介します。
同センターでは、①認知症当事者の活躍 ②交流 ③学び・体験 ④情報発信 を柱に活動しています。認知症の方を保護や支援の対象と決めつけず、「経験専門家」として、認知症の人から学び、未来に活かすことを大切にしており、認知症の方や家族と企業、団体、住民、行政とをつなぐ様々な取組を行っています。
「コミュニティホスピタル※」である同法人は、地域に開かれた医療機関として、地域の医療・介護・福祉機関と協力し、地域包括ケアシステムの構築を目指しています。
同医療機関では地域連携を強化するため「コミュニティ支援室」を設置し、以下のような活動を行っています。パートナーと死別後に家に閉じこもりがちであった高齢者が、生活支援コーディネーターとともにコミュニティスペースを訪れて以降、積極的に利用されるようになり、今では企画会議にも参加されるなど、診察や病院への相談がない方でも、気軽に立ち寄れる場所となっています。
※コミュニティホスピタルとは
総合診療を軸に、外来、入院、在宅医療までをシームレスに提供し、地域住民の健康を「治し、支える」病院。
>>メディヴァのコミュニティ&コミュニティホスピタル事業について
近隣の商店街でイベントが開催される際には施設を開放し、住民の方が自由に見学できるようにするほか、商店街のお祭りでは介護の相談コーナーを設けています。
※ぽじえじ:https://posi-age.jp/
2のような地域共生の取組は、現時点では、直接的には診療報酬や介護報酬での評価はありません。しかしながら以下のように、地域で必要不可欠とされる存在となるために重要な取組であり、また中長期的には、患者や利用者の増加、働き手の増加といった直接的なメリットにもつながり得ます。
患者・利用者やその家族にとどまらず、地域住民の声を直接聞くことで、地域のニーズをより理解し、ニーズに応じた効果的・効率的な医療介護の提供が可能となります。
広く住民を対象とした交流やイベントの実施は、地域住民が施設を知るきっかけとなり、長期的には集客にもつながり得ます。
現在、地域共生に取り組む医療機関等の多くが最も効果を感じているのが、採用面です。地域活動に積極的に取り組んでいることが、スタッフ確保の上でアピールポイントとなっています。
また専門職だけでなく、医療・介護の周辺業務を担う助手やボランティアについても、地域活動を通じて地域住民がスタッフや利用者等と顔見知りになることで、施設で働くことのハードルが下がり、確保につながります。
さらに、従来の医療・介護にとどまらない様々なチャレンジができること、多様な方が施設で働くようになることで、既存スタッフのモチベーションややりがいが向上し、離職率が低下することも期待できます。
施設の活動に地域住民に関わってもらうことで、患者・利用者とのコミュニケーションの活発化や多様なレクリエーション等の実施が可能となります。
この他、予防医療の提供や、また例えば認知症デイサービスでは、地域の民間事業者等と連携することで、新たに若年性認知症の方への社会活動や有償ボランティア参加を事業として実施可能となるなど、新たな事業展開にもつながります。
地域共生社会の実現のため、国は令和3年に「重層的支援体制整備事業」を法定化し、「断らない相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」に一体的に取り組む自治体に交付金を交付することで、自治体の取組を推進しています。
令和5年度は189市町村、令和6年度は346市町村、令和7年度は473市町村(予定)が取り組んでおり、取組は年々広がっています。
(参考)重層的支援体制整備事業について
地域住民の複雑化・複合化した支援ニーズへの支援体制を整備するため、以下に一体的に取り組む。
①相談支援(断らない、たらいまわしにしない相談支援体制の構築)
②参加支援(支援ニーズがある方の社会とのつながり、参加機会の確保)
③地域づくり(多世代交流の場の創出、地域によるゆるやかな見守り体制づくり)
この事業を通じて、「制度・事業中心の支援」から「本人・世帯中心の支援」へ転換することが求められています。具体的には、支援ニーズがある方を既存制度に当てはめることから始めるのではなく、まず本人が望む生活を把握し、その実現に向けて、公的制度やインフォーマルな社会資源を活用する、そして既存の制度・資源では不足している場合には新たな資源を生み出すという過程を通じて、地域で生活し続けられるようにすることを目指します。

この事業は自治体が先頭に立って進めるものですが、医療機関や介護施設が、独自に進められる取組も多くあります。2で主に紹介した、地域住民とのつながりづくりの他、近隣の公的機関や民間事業者(薬局、配達事業者等)とのつながりを構築し、自施設だけでは対応困難な方の紹介や相談、災害時等の物的・人的な協力体制の整備等を行っている施設もあります。
また、「本人・世帯中心の支援」では本人の希望を把握することが重要ですが、時間をかけて信頼関係を構築してからでないと、本心を話してもらえない場合も多くあります。この際に、本人と定期的に接し、困りごとの相談対応やケアを行って医療機関等のスタッフが、信頼関係の構築、本心の把握に重要な役割を果たしていくことも期待されます。
現在はこれらの取組に対して、診療報酬・介護報酬での直接的な評価はありませんが、医療介護連携や多職種連携を評価する流れにあります。重層的支援体制の整備が進み、これまで必要な支援が届きにくかった方に医療や介護が届き、また医療機関や介護事業所が社会的孤立を解消する場となることができれば、これらの取組が報酬の評価対象となることも、十分に期待できると考えています。
住民の生活を支える医療機関や福祉施設には、今後人口減少が進む中で、地域コミュニティの中核として活動していくことが期待されています。ぜひ、自施設ならではの「つながり」を構築していっていただきたいと思います。
監修者
小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他