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2025/07/28/月

医療・ヘルスケア事業の現場から

看護師の定着と採用の変化 “ここで働き続けたい”と思える職場づくり

【執筆】コンサルタント宮原/【監修】取締役 小松大介

看護師の確保と定着の課題

医療機関における看護師の人材確保は慢性的課題の1つです。看護職員として就業している人の数自体は年々増加していますが、有効求人倍率は一般産業平均1.14に比べて看護師、准看護師では2.12と高く、人手不足の傾向にあると言われています。(下図)
看護師の働く場所が入院・外来を中心とした医療機関から介護施設、在宅医療の領域にも広がり、ここ20年で訪問看護ステーションでの就業者数は約2倍に、介護保険施設等就業者は3倍に増え、病院ではほぼ横ばいで推移しています。特に地方や中小規模の病院では新卒者の応募自体が少ない分、既卒者の採用は医療機関以外との競争が激化しています。

看護職員の需要推計と有効求人倍率

就業場所別看護職員数の推移

また、世間一般で在宅ワーク等働き方の多様性が進む中で、以前は他業界との取り合いの懸念は医療専門職より事務職の方が主体でしたが、看護師についても医療・介護施設以外での就業、例えば健診施設やオンラインでの保健指導や看護師以外の職業に従事するケースも顕在化しており、少子高齢化による労働人口の減少の中でいかに働き続けたいと思える病院をつくるかはますます重要な経営課題になると考えられます。

このような状況のため、自院ホームページやハローワーク等での採用では人材確保が困難となり、100〜400床未満の中小規模病院では約8割が人材紹介会社を利用している実態があります。

看護師1人あたりの紹介手数料は平均で約80〜100万円であり、中には年間の支払い手数料が1億円を超える病院も存在しているということが調査で明らかになっており、財政的負担や医療費が本来と異なる方面に支出されている実態が指摘されています。

さらに、紹介会社経由で採用した看護師の定着にも課題があり、看護師の適性や病院とのマッチングを十分に考慮しないまま斡旋されてしまうケース、短期間で退職してしまうケースなどがあり、採用から研修、現場適応までにかかる内部コストを回収できないことが多いです。

獲得した人材が“ここで働き続けたい”と思える職場をつくり、採用では病院にマッチする人材を自前で採用できるような戦略の見直しが必要といえます。

人材採用のための対策・見直しのポイント

1.共感を重視した情報発信

病院ウェブサイトに看護部ページを設え、理念や業務、職員の様子を文章や写真を掲載している医療機関は多いと思いますが、動画やSNS発信でよりリアルな様子を伝えることも有用です。新卒〜卒後10年前後の世代はInstagram、YouTube、TikTokなど動画・SNSを毎日見る傾向があるので、それらを活用した採用広報や、LINE公式アカウントを活用した見学会配信や個別対応、説明会のLIVE配信などを活用する方法があります。配信の視聴に慣れているZ世代に向けては、LIVE中のチャット等での質問に積極的に対応できたり、配信のアーカイブを閲覧可能にすることで、情報を探している人に時間や場所を問わずリーチする工夫が可能です。

病院の理念・ミッションを言葉や、定型的な表現で伝えるのではなく、リアリティやストーリー性のある話を職員が語ったり、文章化したりする発信の方が、共感や病院の取組みに共鳴する人材の獲得に繋がりやすくなります。

2.教育体制・柔軟な働き方・キャリア設計に関する情報発信

新卒〜卒後5年程度および上位資格の取得を考えたい中堅世代では、教育体制を重視する傾向があります。また、ライフイベント(育児、自分自身の病気、親の介護)に応じた復職支援や柔軟な勤務制度の有無や充実度は、中途入職者や既存職員が「働き続けられる」と思えるかの重要な要素になっています。状況の変化が激しく未来の見通しが立ちにくい・正解がない現代社会を表す“VUCA”時代の人たちは、先が読めないことを前提に「選択肢のある働き方」を求めている、とも言われています。

そういった働き方のニーズがあることを前提に、キャリアパスについて華々しい事例だけでなく、複数の働き方事例を紹介したり、特定行為の資格取得など、成長したいフェーズで受けられるサポート内容を具体的に示すなど、個々人のライフステージや希望に応じて多様な自己実現ができることを広報資料で見える化することが重要です。また、パンフレットやサイト上の記載だけでなく、SNS動画やLIVE機能等でのリアリティある情報発信の両方を実施することがより効果的です 。

昨今は医療機能の再編や地域包括システムの充実に伴い、医療機能が急性期のみから急性期と回復期、慢性期のみから慢性期と在宅と複合機能化している医療機関も少なくないかと思います。看護師が転職せずとも1つの医療機関の中でライフイベントやキャリア志向に応じて色々な経験ができることは魅力の1つと言えます。もし、1つの医療機関内で複数領域の経験提供が困難な場合であっても、地域内の医療機関と連携協定を組み、地域の中で地域で働き続ける看護職を維持・育成しようという試みも増えています。患者の入退院関連の連携だけでなく、人材確保・育成の観点でも地域連携強化が有効なケースもあります。(参考事例はこちら)

いずれの場合でも、職員の希望を聞く体制があり、希望に応じて検討できる職場風土・組織文化があることが選ばれる病院の基本要素と言えます。新卒の入職者に対してはプリセプター制度やメンター制度で年齢や経験年数の比較的近い先輩に相談ができる体制は整備できている病院が多いと思われますが、働き方の調整検討が必要な場合は、主任や師長と連携したり、中途入職者に対してもメンター制度を導入し、希望を誰かしかに聞いてもらえる環境を整えていくことも求められます。

ライフイベントなどで離職がやむを得ない場合もありますが、その後また復職したいと思える職場かは働いていたときに相談しやすかったか、話を聞いてもらえたかが影響していることが少なくありません。よりよい職場風土づくりのため、管理者によるフィードバック面談の機会づくり、職員の話を聞く場の整備に着手することも重要といえます。

人材定着のための対策・見直しのポイント

1.制度の見直し

経営企画や看護部マネジメントでできる対策として、働き方のルール見直し、多様性の検討があります。例えば、子どもが3歳になったら夜勤免除終了 、時短は9時~16時の1種のみなど、組織の統制を重視した一律のルール設計を運用し、見直しが図られていないことはないでしょうか。働く人の生活や希望も多様化している中で、組織の独自ルールそのものを見直しアップデートが必要です。あるいは、リファラル採用は定着度が比較的高く採用コストも安価で済むため、自院の職員への積極的な声かけや設定金額の増額検討も効果的と考えられます。

また、こういった時代や職員の声に応じた変革を実行した事実自体が、魅力的な職場づくりをPRできるコンテンツになります。院内でのリアルな改善を外部に伝わる形で発信することが求職者の心を動かすことにも繋がるでしょう。

2.業務の見直し

看護師のやりがいや職務満足度の向上のためには、「看護師でなくても良い業務」や「記録・書類業務」などを減らし、その病院のビジョンや実践したい看護を実現できる余裕をつくる業務改善も必要不可欠です。本年度は「生産性向上・職場環境整備等支援事業」の補助金について各都道府県での案内が始まり、ICT導入やAI活用を具体的に検討されている医療機関も多いのではないでしょうか。ICT等導入のみで十分な時間を捻出することは難しく、不要な業務の廃止やタスクシェア 、タスクシフトなど部署の垣根も超えた複合的な取組みによって、実践したい看護をする時間が生まれます。病棟や外来で生成AI等を活用できるツールが出てきていますが、システム導入とセットで関連業務の再設計・業務削減を進められるかどうかが、現場の負担感軽減と人材の定着に影響するでしょう。

3.組織文化の改善

業務改善と併せて重要なのが、中長期的な組織文化の改善です。制度や業務の改善を一時的な取組みでなく当たり前の営みになるには、日々困りごとや効率化できる業務があれば相談し合える関係性、より良い医療を提供しよう・よりよい職場をづくりをしようという組織風土が醸成されることが重要です。

業務改善・効率化によって生まれる時間を何に使うかについて、残業低減や休憩時間の適正確保のニーズが以前は多かったですが、昨今はスタッフの定着に資する取組みに時間を使いたいとの要望もお聞きします。組織文化の改善は一朝一夕にできるものではないので、日々のコミュニケーション改善やフィードバック面談・評価のあり方の見直し、リーダー職へのリーダーシップ研修などを通じて継続的に変革を図っていくことがポイントです。

1つ事例を挙げると、200~400床規模の支援先病院の病棟カンファレンスでは、インシデントの振り返り等問題解決のための議論に使っていた時間を、よかったケアの振り返り等、ポジティブなフィードバックの時間に転換したケースがあります。日々業務を共にする仲間から日常業務の中でフィードバックが得られることは、心理的安全性の向上ややりがい向上にも繋がったと考えられます。その支援先においては、業務量調査と職員へのヒアリング調査を実施し、ICT等で効率化・タスクチェンジし減らすべき業務と、生まれた時間で増やせる業務を可視化し、業務改善の実行への伴走をお手伝いしています。職員の声も尊重しながら生まれた時間の使い方を建設的に考え、意思決定していける組織が職員に選ばれる組織になるのではと感じています。

おわりに

看護師の人材確保と定着の課題は、単なる採用戦略の見直しだけで解決できるものではありません。時代や価値観の変化に応じて、制度・文化・業務全体を見直し、「働きたい」「働き続けたい」と思える職場づくりを進めていくことが求められています。単なる一時的な施策ではなく、継続的な組織づくりの一環として捉え、自院の魅力を再発見・再構築し、それを内外に向けて「伝わる形」で発信していくことが、今後の病院経営における競争力の鍵となるでしょう。

組織改善、ICT、AI等を活用した業務の効率化、離職防止に繋がる業務改善についてご相談があればお気軽にお問合せください。

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監修者

小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他

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