現場レポート

2025/06/10/火

医療・ヘルスケア事業の現場から

認知症AR「Dementia Eyes」体験研修:共感から生まれる新しいケアのかたち

【執筆】マネージャー 青木

認知症当事者の「視界」を体験する

私たちが普段当たり前に見ている世界が、認知症の方々にはどのように映っているのでしょうか? この疑問に答えるべく開発した認知症AR「Dementia Eyes」は、認知症当事者が経験する視覚情報の理解への影響を、特殊な空間フィルターを組み合わせたAR(拡張現実)技術により再現する画期的なツールです。この認知症AR「Dementia Eyes」を活用した研修プログラムは、病棟や施設で認知症当事者が日々感じているであろう見え方を疑似体験することで、認知症当事者への対応のあり方や、より適切な環境整備の重要性について、体感し深く考えるきっかけとなります。

認知症AR

今回、ある病院で実施した「認知症AR体験研修」についてご紹介します。本研修では、医療従事者がこの認知症ARを通して認知症当事者の体験を肌で感じ、認知症当事者への共感と理解を深めることを目的としています。これまでの対応を再考し、新たな視点を取り入れるための貴重な機会となりました。

研修で掲げた目標:共感と改善、そして共通理解へ

この研修の掲げた目標として、まず、体験を通して認知症当事者の困難や不安を理解すること。そして、その理解を基に、職員一人ひとりがこれまでの自身の対応を振り返り、改善へと繋げることでした。

次に、具体的なケアと環境の改善。病棟や外来における動線、家具や備品の配置といった物理的な環境から、介助や声かけといった日々のコミュニケーションまで、認知症当事者にとってより良い環境と対応を追求することを目指しました。

そして最も重要なのは、病院全体で認知症への共通理解を醸成すること。個々の理解を深めるだけでなく、組織全体として認知症ケアに対する意識を高め、統一されたアプローチを確立することを目指しました。

認知症ARが映し出す世界:視覚の変容を体験する

研修プログラムでは、参加者がARグラスを装着し、認知症AR「Dementia Eyes」を通して以下のような認知症当事者の視覚的な変容を体験することができます。

  • コントラスト感度の変化:色の明度差が区別しにくくなる感覚
  • 光の知覚や眩しさへの反応の変化:光の明暗の変化にうまく対応できなかったり、眩しさが不快に感じられたりする感覚
  • 奥行き感覚の変容:自分と物との距離感がうまく掴めなくなったり、立体空間の認識が難しくなる感覚
  • 視野欠:視野に入らないものに気づけなくなる体験
  • 誤認:見えているものを誤って別のものと認識する体験

研修はグループ形式で進行し、体験するだけでなく、その後にディスカッションをすることで学びを深め、お互いの共通理解を促す内容となります。

  • アイスブレイクでは、参加者同士で認知症当事者のイメージや、これまでの対応で困ったことなどを自由に話し合います。
  • 認知症AR体験では、ARグラスを装着し、実際に認知症の視覚世界へ。声の主の姿が見えない、予期せず人に触れられて驚く、簡単な誘導にも恐怖を覚える、歩行や着座動作に強い不安を感じるといった、日常の何気ない対応や動作が全く違った感覚である体験をします。
認知症AR体験の様子
  • グループディスカッションでは、認知症AR体験を通して得られた新たな気づきを共有。体験前の認知症当事者のイメージとの比較や、今後の対応やケアにどのように活かしていくかについて意見交換を行います。

グループディスカッションの様子



研修の効果:共感から生まれるポジティブな変化

今回の研修には、医師、看護師、セラピスト、薬剤師、栄養士、事務職といった多職種の病院職員250名が参加しました。研修後のアンケート結果より、ほとんどの職員がその効果を実感し、今後の認知症ケアに活かしていきたいというポジティブな意見が多数寄せられました。

具体的なアンケート結果は以下の通りです。

  • 認知症の理解、共感が深まった: 98%
  • 今までのケアの振り返りに繋がった: 95%
  • 今後のケアに活かしたい気づきがあった: 98%
  • AR体験研修について満足した: 95%

まとめ:認知症ARが生み出す意識変化のきっかけと共通理解の醸成

本研修は、認知症ARの活用が、医療従事者が認知症当事者の視覚的な体験をより深く、そして具体的に理解するための非常に有効な手段であることを示しました。また、参加者それぞれのこれまでのケアを振り返り、より質の高いケアや環境の改善に繋がるきっかけにもなりました。
認知症AR体験研修についてご興味のある方は、ぜひ以下よりお気軽にお問い合わせください。

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※認知症AR「Dementia Eyes」は、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科との共同開発であり、現在特許出願中です。


執筆者

T.Aoki
愛媛県出身。北里大学看護学部卒業。保健師、看護師。北里大学病院神経内科にて勤務。健康運動指導士取得後、介護事業運営会社にて、デイサービスの開設・運営支援、教育に携わる。予防・医療・介護の分野を学べる環境に惹かれ、2011年9月からメディヴァに参画。


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