2025/03/24/月
医療・ヘルスケア事業の現場から
【執筆】マネージャー 青木、コンサルタント 目黒
以前の記事では、介護助手の導入メリットや課題について解説しました。今回は、介護助手の導入をきっかけに、業務改善と生産性向上に成功した施設事例をご紹介します。
目次
介護老人保健施設(入所定員100名)対象エリア42床
職員の負担軽減や入所者へのサービスの質向上を目的として介護助手の導入やICTの活用など業務改善の取組みを行いました。
最初に介護助手の導入の事前準備の流れを紹介します。
まずは現状の業務を洗い出し業務課題を抽出しました。間接業務や周辺業務にどれくらいの時間を要しているか、介護助手に移行できる業務は何か、どれくらいの時間を移行できるか、そもそも不要な業務はないか等、タイムトライアルやワークショップを通して業務の見える化を行いました。
次に、洗い出した業務の中から非専門職業務を切り出し、介護助手に移行可能な業務の時間、人数を試算し、介護助手の業務スケジュールを作成しました。本施設では、「準備・片付け業務」に1日約8時間費やしていたため、週5日8時間勤務の介護助手を採用し、取組みを実践していきました。
取組みを実践するにあたり、職員アンケートを実施し、業務改善で生まれた時間を何に活用するのか、現場職員で検討し、目標を設定しました。
また、介護助手以外の取組みも同時に進めました。ICTの活用として、既存の記録や事務書類を見直し、不要な記録や書類の撤廃やフォーマットの見直しなどを行いました。
さらに、既存業務の見直しとして、エプロンの洗濯業務をなくすために使い捨てアイテムを導入したほか、今後はBOX型のシーツに変更し、ベッドメイキングの時間を削減することも検討しています。
本施設では、介護助手導入と業務改善の結果、1週間あたり約24時間、3人工分の業務効率化を達成しました。
主な改善施策は以下の通りです。
生まれた時間の活用としては、コミュニケーション・レクリエーションの時間が約5時間増え、利用者の要望を聞く時間や個別リハビリを行う時間を作ることができ、掲げていた目標を達成することができました。
質的な効果としても、以下のような効果が得られています。
✔94%の職員が「身体的・精神的負担が減った」と回答
✔ 87%の職員が「ゆとりをもって業務に当たれるようになった」と回答
✔ 86%の職員が「利用者の状態や個別性に応じたケアを以前よりおこなえるようになった」と回答
さらに、職員からは、「利用者とのコミュニケーションの時間が確保された結果、利用者の生活上の課題をより正確に把握できるようになった」や、「介護助手が周辺業務を担うことで、職員が専門知識を要する業務に専念できるようになった」という声も聞かれ、介護職員の専門性向上やケアの質の向上、そしてやりがいの創出にも寄与していることが確認されました。
この施設で活躍されている介護助手Aさん(40代男性)をご紹介します。
Aさんは、過去に介護や医療の勤務や学習経験はありませんが、仕事を探す中でたまたま地元の新聞で介護に関する入門的研修の募集を知り、受講されていました。その研修中に、同介護施設での介護助手募集を知り、「研修修了後にいきなり介護士として働くことは不安が大きかったが、直接的な介助業務はないと聞いて安心した。介護助手なら施設や介護の仕事について理解が深まりそう」と考え、応募されたようです。
主な担当業務は、ベッドメイキングや食事の準備・片付け、浴室清掃などです。前述のとおり、介護経験は過去にありませんでしたが、働く様子をみるうちに利用者対応も可能であると担当職員が判断し、入職後3か月目頃からは入浴後のドライヤーかけの業務も任せられています。
Aさん自身も、初めの頃は利用者とのコミュニケーションに戸惑うこともあったようですが、働くうちに介護の仕事の楽しさに気づき、もっと利用者に直接関わる仕事もしたいと、今では介護職を目指して勉強をされています。
職員からは、「介護助手のおかげで業務に追われる状況が改善され、フロアの雰囲気が朗らかになった」「介護職が利用者と関わる時間が増え、フロアでは笑い声もよく聞かれるようになった」との声が聞かれています。
また、他の施設では、学生や主婦、仕事を引退されたシニアなど幅広い方が活躍されています。また、本業が終わった夕方の時間や土日など休みの日にWワークとして介護助手の仕事をされている方も多くいらっしゃいます。
Aさんのように、これまで介護を仕事として考えてこなかった人が、介護助手の仕事をとおして介護職を目指すケースは複数みられます。介護助手の導入が、介護人材不足が深刻化するなか、介護の仕事に対する理解促進や新たな人材獲得の施策としても期待されます。
ここまで見てきたように、介護助手の導入により、介護職員の負担が軽減され、利用者と関わる時間が増えることで、介護の質の向上が期待されます。
今回ご紹介した施設では、単に介護助手を導入するだけでなく、業務改善も同時に実施したことで、業務効率化と介護職員の負担軽減を加速させ、大きな効果を生み出しました。
介護施設では、古い慣習や独自ルールが残っていることが多く、単にスタッフを増やすだけでは根本的な解決にはなりません。介護助手の導入を契機に業務の見直しを進め、介護職員が専門性を発揮できる環境を整えることが重要です。
メディヴァはこれまで、業務改善を目指す施設や、地域全体の介護環境向上に取り組む自治体を支援してきました。今後も、持続可能で質の高い介護の実現を目指し、仕組みづくりの一翼を担っていきます。
執筆者
T.Aoki
愛媛県出身。北里大学看護学部卒業。保健師、看護師。北里大学病院神経内科にて勤務。健康運動指導士取得後、介護事業運営会社にて、デイサービスの開設・運営支援、教育に携わる。予防・医療・介護の分野を学べる環境に惹かれ、2011年9月からメディヴァに参画。
H.Meguro
宮城県出身。中央大学総合政策学部卒業。医療や社会福祉事業を展開する法人にて8年間、企画広報や現場運営に携わるほか、高度急性期病院で医療連携や災害救護に従事。国内外問わずヘルスケアの発展に貢献したく、2019年6月よりメディヴァに参画。現在は、医療・介護の海外展開や調査事業、介護の生産性向上支援などを中心に担当。