現場レポート

2025/03/17/月

医療・ヘルスケア事業の現場から

地域医療連携のこれまでとこれから

【執筆】コンサルタント正者/【監修】取締役 小松大介

地域医療連携の定義

地域医療連携において、入退院支援や連携パスはあくまでも「手段」であり、詰まるところは「患者様にハッピーになっていただくこと」が重要と考えます。
そもそも地域医療連携とはなんでしょうか。筆者は以下の様に定義できると考えています。

『医療機関同士で患者情報交換や情報共有を進め、適切に「紹介/逆紹介/入退院/転院」等を実施することを目的とするもの』
さらに、広義の地域医療連携で『地域住民との連携(繋がり)もその一つ』と言えるくらい、定義も変わってきています。

そのポイントは、
●連携は常に2施設(もしくはそれ以上)、さらに地域が関わる広義の「チーム医療」である
●連携においては、当事者それぞれに事情や要望があり、必ずしもお互いのニーズが一致するものではない
●紹介状のFAX送信など器械的な連携もあるが、患者に寄り添った医療を実現する上では「顔が見える連携」が重要であること
と言えるでしょうか。

そもそも「顔が見える連携」は、
●顔が見えるから安心して連絡しやすい
●役割を果たせるキーパーソンがわかる
●自分の対応を変えることでやりやすくなる
●同じ事を繰り返して信頼を得ることで効率がよくなる
●責任のある対応をする
ということが積み重なり、連携しやすくなる、と考えられます。

いまでは、どこの医療機関でもあたりまえのように設置されている「地域医療連携室」はどのように発展していったのか、患者様にハッピーになっていただくためにどのような取り組みをしてきたのかを診療報酬の変遷と合わせてご紹介します。

地域医療連携室と診療報酬の変遷

第1フェーズ(2000年〜)
2000年の診療報酬改定で「急性期病院加算(2002年からは急性期入院加算と名称変更)が新設されました。紹介率30%以上、平均在院日数20日以下を達成すれば14日間155点の加算が算定出来るものです。
この算定を目標とし、前方連携(他医療機関からの紹介)重視の連携が開始されました。主に紹介状を介した病病連携/病診連携が発展していき、その管理部門として「地域医療連携室」が新設されました。まだ、点数ありきの連携であり、連携室も事務員のみ配置しているところが多かったと思われます。

第2フェーズ(2006年〜)
2006年の診療報酬改定で、紹介率に関係する加算が全て廃止となりました。いわゆる「紹介率ショック」と呼ばれています。第1フェーズが前方連携重視の施策だったのに対し、後方連携重視のフェーズとなり、新たに「地域連携診療計画管理料」「地域連携診療計画退院時指導料」「地域連携退院時共同指導料」などの退院調整に係る点数が策定されました。また、退院調整を担当する看護師が連携室に配属されるようになったのもこの時期からと考えられ、この頃から連携室の業務が多岐に渡るようになっていきます。

第3フェーズ(2007年頃〜)
2006年の地域医療計画(第5次改正)に基づき、質の高い医療サービスが適切に受けられる体制を構築するため、医療に関する情報提供の推進、医療計画制度の見直し等を通じた医療機能の分化・連携の推進、地域や診療科による医師不足問題への対応等を行ったことに伴い、地域全体を包括した医療連携が進むようになりました。そこで、病病/病診連携のみならず、介護や在宅支援機関(部門)同士のネットワーク作りも盛んとなってきました。各地域に医療連携協議会が出来てきたのもこのころと言えます。

第4フェーズ(2011年頃〜)
2014年の診療報酬改定で「地域連携診療計画管理料」が策定され、地域包括ケア病棟が創設され、さらに2016年の診療報酬改定で「大腿骨頚部骨折(熊本モデル)」の連携パスが評価されたことに伴い、各地で地域包括ケア推進のための取り組みが強化されてきました。地域包括ケア病棟ではMSW専任という施設基準もあり、地域医療連携室と相談室を同一部署にする等の院内組織図の変更もあったところも多いです。もはや病病/病診連携は「出来てあたりまえ」となり、患者様を待っているだけではなく、「地域と繋がる」ことが求め始められました。

第5フェーズ(2018年頃〜)
2018年の診療報酬改定では、「入退院支援加算」が策定され、外来部門と入院部門の連携がより重要となりました。入院前(外来)から「切れ目のない連携」を行い、退院後も外来通院、在宅診療のチームとの連携が評価されることになっています。地域医療連携室でもそれを受けて、入退院支援センターを設立するなど、一気通貫での支援体制を構築してくこととなりました。

第6フェーズ(2020年頃〜)
このころから、地域に向けたイベントの企画等も増えてきており、地域医療連携室で企画、広報を担うところが増えてきました。組織図的にも院長(または副院長)直轄の部門となっています。それだけ入院意思決定のスピードや広報への取り組みを医療機関が重要視し始めたことに他なりません。診療報酬がついているわけでもなく、自主的な取り組みが増えている印象です。


これからの地域医療連携

地域包括ケアシステムの構築が進む中、医療機関も「地域と繋がる」必要がありますし、もっと「外に意識を向ける」必要があります。自ら気づき行動し「街へ出て」、お祭りや住民会議への参加、セミナー等で「改めて知ってもらう」ことが肝要です。患者様にいい医療を提供して「あの病院(診療所)と連携してよかった。地域の人に相談してよかった」と思われる関係作りを目指して、「患者よし、(医療)機関よし、地域よし」の三方よし(NPO法人近江三方よし研究会 )を心がけていきたいものです。

また、地域を交えた動きを意識した取り組み事例を最後にご紹介いたします。

地域医療連携取り組み事例

1.地域の家庭医として、商店街の方々と連携した事例
 弊社が運営支援をしている用賀アーバンクリニック は、開院20年以上経つ駅前のクリニックです。生活習慣病の診療を始め、コロナ黎明期に区内でもいち早く発熱外来を立ち上げるなど、地域に根ざした診療を行っています。そのクリニックの運営メンバーのひとりが商店街振興組合理事長と大学が同窓で副理事長も高校の関連大学卒というひょんなご縁から、夏祭りなどのイベントに呼んでいただけるようになりました。コロナ禍のイベントでは入口での体温計測等で参加をしておりましたが、いまではYouTube配信の司会を依頼されるなど深い関わりが出来ています。商店街の中にも地域に興味がある看護師さんがいることもあり、今後、商店街の組合員の方々も、医療に関する動画配信、健康啓発セミナー、会員向けのインフルエンザ予防接種などを企画されており、医療資源マップを作ろうという話題でも盛り上がっています。

2.住民を巻き込み、地域医療を盛り上げた事例
岡山県倉敷市に「わが街健康プロジェクト」という地域住民を巻き込んだ会があります。倉敷市内の23の医療機関に勤務する地域医療連携室有志が中心となり、「市民の皆様と医療従事者とが地域医療についてともに考える双方向のコミュニティデザインの場」として企画されました。
①医療機関と上手につきあう
②病気の予防と健康維持
③倉敷をもっと好きになる
の3つのテーマを掲げ、倉敷市民に対し年数回の講演会を実施。継続して参加していただけるように「ランクアップ制度」を導入し、スタンプカードに参加のたびに押印し一定数貯まると記念品と交換できます。10回参加だとゴールド会員特別賞(ロゴ入りのタオルや記念バッチ)も貰える仕組みになっています。倉敷市商工会議所の後援も得ており、地域医療を地域全体で盛り上げています。

まずは相談する


執筆者

T.Shoja
東京都出身。駒澤大学経済学部経済学科卒業。在学時に二次救急病院での事務当直の勤務に従事。その際に、将来的に医療に関わることを決め、卒業後も同病院で雇用して頂く。受付・総務・医療相談等、多岐に渡り経験させて頂き、法人内異動で介護老人保健施設での相談員業務にも従事。他病院での地域連携室・総務業務を経て、2006年7月にメディヴァに参画。現在は、家庭医クリニックの経営支援・精神病院の現場支援等に従事。今までの経験を活かし、患者満足度のみならず職員満足度の高い職場作りと、医療機関も間に入った人が繋がる仕組み作りを基本とした「まちづくり」が目標。日本医療マネジメント学会認定医療福祉連携士(5期生)


監修者

小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他

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