2024/11/11/月
医療・ヘルスケア事業の現場から
【執筆】コンサルタント 目黒
目次
厚労省の試算では、2035年までに約68万人の介護人材の需給ギャップが生じることが予測されています。限られた社会保障財源と人的資源を有効に活用し、専門性の高い介護サービスを持続的に提供していくために、介護現場での生産性向上が望まれています。
メディヴァでは2018年より、介護現場における生産性向上の取組を支援してきました。日常的な業務をタスクチェンジ、タスクシェア、タスクシフトの視点で見直し、業務改善と介護ロボットやICTの活用、また介護助手の活用を組み合わせながら生産性向上を図り、その効果で介護の質の向上や働き方を変えるところまでを一連の「実践プロセス」として現場の定着を目指しています。
生産性向上に向けた施策のひとつである「介護助手の活用」は、介護現場の著しい人手不足のなか期待が大きく、各地域や施設での導入が進んでいます。今回は、この介護助手に着目し、特徴や効果と課題について考えます。
介護助手とは、介護職のサポートをする人材を指します。その主な役割や特徴は以下です。
多くの場合、介護助手の業務に食事介助や入浴・排泄ケアなどの身体介助は含まれず、資格や専門知識がなくても始められる業務が中心です。食事や入浴、排泄等の準備や片付け、居室の清掃、洗濯、ベッドメイキングなどが挙げられます。中には利用者の見守りやコミュニケーション役を担う人もいます。業務が非常に多岐にわたるため、介護助手の知識や経験、体力や性格など個々の特性に応じて業務内容を設定することが可能です。介護助手を業務内容や範囲によって分類したりレベル分けをする施設もみられます。
介護助手の仕事は、介護助手が勤務可能な時間に合わせて業務を組みたてやすいという利点があります。食事なら朝昼晩に加えお茶やおやつの時間と1日を通して断続的に業務が続くことに加え、ベッドメイキングや清掃などあまり時間に左右されない業務が多いためです。そのため例えば朝や夕方の3時間だけ、といった働き方もあり得ます。
介護助手の担い手となる人材の年齢やバックグラウンドも非常に様々です。学生や留学生から主婦、障がい者やシニア層に至るまで、多様な方が実際に施設で活躍されています。Wワークをしている方も多くみられます。
慣習的に介護職の担当業務とされてきた周辺業務は多岐にわたります。介護職の業務を、専門性を要するものとそうではない業務に切り分け業務分掌を推進することにより、介護職の負担を下げ、より専門的な業務に専念できる時間や余裕を捻出することが可能となります。
実際に介護助手を導入した施設の職員からは、「介護士になって10年で今が一番やりたかった介護の仕事ができていると感じる」「利用者の小さな変化に気付き、必要な対応を早期に取ることができた」といった声が聞かれます。ケアの質の向上だけでなく、介護職として働くことのやりがいや誇りにも繋がっていると言えます。
また業務効率が向上することにより、残業時間が減ったり、休暇が取りやすくなった施設もあります。それには単に介護助手を導入するだけではなく、業務改善を同時並行で進めることが必要となりますが、介護職の働き方を改善し、介護職の離職を防止する効果もまた、期待ができます。
ケアの質があがることで、より安定した生活が送れることが期待されます。介護助手を導入した施設の利用者からは、「前は忙しそうで声をかけられなかったけど、ゆっくり話せるようになって嬉しい」といった声も聞かれます。介護職以外の人材が現場に入ることにより介護職以外の人との会話機会がうまれ、生活上の刺激を獲得することにもつながります。
介護助手は業務内容も比較的容易で家事などの日常生活の延長線上でこなせるものも多いため、就労経験のない主婦や体力に自信のないシニア層等の活躍の場にもなっています。社会接点が少ない人にとっては、介護助手としての就労が自身の成長や新たな学びを得る機会となり、生きがいの醸成にもつながります。
また、これまで介護や介護施設とは縁がなかった層に施設が開かれることにより、介護や介護の仕事に対する理解促進が図れることも期待されます。介護助手から介護士への登用を目指す人材もいるため、施設にとっては将来的な介護人材の獲得機会ともなり得ます。
介護助手の潜在的な人材は多いものの、採用に苦労している施設は多いです。要因のひとつに介護助手の仕事があまり知られていないことが挙げられます。とある自治体の調査では、「介護助手」と聞いてイメージすることとして「高齢者の世話をする」「大変そう」「重労働」「汚い仕事も含まれる」等と回答した人が全体の約4割を占めました。この対策として、各施設が募集をする際に介護助手の役割や業務内容は何かを明瞭簡潔に示すだけでも一定の効果が期待できます。
また施設と人材をつなぐ仕組みの欠如も要因です。介護助手の掘り起しには施設単独ではアプローチが困難な場合も多く、自治体や各種団体等の横の連携促進も欠かせません。ただし介護助手の仕事は特に初任者研修や入門的研修といった研修との相性はとてもよい一方で、両者のマッチング事例は少ないのが実態です。研修に参加しても介護の職に就いていない人は各地に点在しています。人材と施設をつなぐ仕組みができれば、介護業界の人手不足解消の一策としても期待できると考えられます。
介護助手導入による効果の最適化を図るには、事前の準備がとても重要です。いつ、どこに、どんな人材が必要なのか?うまれた時間や余裕を何に充てるのか?単なる人員増にせず、現状を正しく把握したうえで目的や期待される効果を明確化し、施設全体が共通認識をもつことが必要です。また、何よりも主役は現場スタッフです。実践に落とし込むプロセスに初期から現場を巻き込むことで、介護助手の目的や役割を正しく理解し、介護助手の早期定着と効果の最大化が図られることも期待できます。
介護助手の活用は、介護職の負担を軽減する以上の効果が期待できますが、ケアの質向上や職員の働き方改善等を目指すには、業務改善やICT促進なども並行して進めることが必要となります。
介護施設では、古い慣習が施設独自のルールとして定着してしまい、業務の見直しが行われていないことが多く散見されます。「この業務って本当に必要?」「この手順の方が早いかも」そうやって日頃の業務を疑ってみてみることで、業務の効率化をあげ、利用者と向き合う時間が創出できることもあるかもしれません。
1月公開予定の記事では、実際に介護助手の導入を契機として業務改善に取り組んだ施設の事例を紹介します。
執筆者
H.Meguro
宮城県出身。中央大学総合政策学部卒業。医療や社会福祉事業を展開する法人にて8年間、企画広報や現場運営に携わるほか、高度急性期病院で医療連携や災害救護に従事。国内外問わずヘルスケアの発展に貢献したく、2019年6月よりメディヴァに参画。現在は、医療・介護の海外展開や調査事業、介護の生産性向上支援などを中心に担当。