2025/04/18/金
医療業界の基礎解説
【監修】取締役 小松大介
目次
病院建替えは、医療機関の将来を左右する重要な経営判断です。 メディヴァでは、医療機関の特性に合わせた最適な計画立案、資金調達支援、運営面での戦略策定など、建替えの成功に必要なあらゆる要素を網羅し、持続的な発展を支えるための包括的なサポートを提供しています。
病院建替えの必要性は、主に以下の理由によって生じます。
建築物の耐久年数が限界を迎えると、安全性の確保が難しくなります。耐震基準の強化により、既存施設のままでは基準を満たしていない場合もあるため、改修や建替えの検討が必要です。老朽化に伴う空調や配管などのインフラ不具合も患者満足度や職員の安全確保に直結するため、早期の対策が求められます。
医療技術の進歩に伴い、より高度な治療設備や快適な入院環境が求められています。特に高齢化社会においては、バリアフリー設計や個室の拡充が重要視されています。また、感染症対策としてのゾーニングや陰圧室の整備なども、今後の施設要件として注目されています。
医療の分業化や専門性の向上に伴い、病院のレイアウトや診療フローの最適化が求められています。効率的な動線を確保することで、医療従事者の負担を軽減し、診療の質を向上させることができます。加えて、救急搬送から診察・検査・入院への一連の流れを滞りなく行える施設設計も求められます。
近年、建築資材の価格上昇や人件費の高騰により、病院建替えのコストが大幅に増加しています。特に医療施設は、特殊な設備や厳格な安全基準が求められるため、一般の建築物と比較してコスト負担が大きくなります。国土交通省の資料によると、建築コストは年々上昇傾向にあり、今後も高止まりが続く可能性があります。そのため、建て替えのタイミングや内容は慎重に検討する必要があります。
病院建替えには多額の資金が必要なため、市中銀行からの融資や独立行政法人福祉医療機構(WAM)などの公的支援を活用することが一般的です。しかし、融資を受けるためには経営の安定性や将来的な収益性を示す必要があり、財務状況が不安定な病院では調達が難航するケースもあります。そのため、慎重な資金計画が不可欠です。また、建て替え前後のキャッシュフロー見通しや返済シミュレーションの作成も、金融機関との交渉には不可欠な要素です。
現状の施設・経営課題を詳細に分析し、老朽化した設備や診療フローの課題を洗い出します。さらに、建替えによって解決したい具体的な目標(診療効率の向上、患者満足度の向上など)を明確化します。この段階で医師や看護師、事務職などの現場意見を取り入れることで、より現実的かつ納得感のある設計方針を導き出すことが可能です。
建築設計事務所や施工業者の選定は、病院のニーズを的確に反映させるために重要です。機能性やコストを比較しながら、最適な業者を選ぶ必要があります。また、建築費の見積もりを踏まえて、融資や補助金の活用を含めた資金計画を策定します。
病院の診療を継続しながら建て替えを行うためには、仮施設の確保やスムーズな移行計画が不可欠です。工事の影響を最小限に抑えるために、患者や医療スタッフへの事前説明や調整を行い、業務の混乱を防ぎます。また、移転前後で医療の質が落ちないように、事前の研修やフロー整備も重要な取り組みとなります。
病院建て替えにおいては、単に古くなった建物を新しくするだけでなく、「どの機能をどれだけ、どのような構造で持つべきか」という視点から計画を練ることが重要です。
例えば、療養環境加算を取得するためには、1床あたりの病室面積が8.0平方メートル以上であることが要件として明示されています(※1)。この要件を満たすことで、患者にとって快適な療養環境を提供できるとともに、診療報酬の上乗せにもつながります。
また、動線設計やナースステーションの配置、トリアージルームや救急処置室のレイアウト、収納スペースや電源の確保なども、医療安全と業務効率の観点から十分に検討する必要があります。
加えて、エレベーターの台数やサイズ、検査部門・手術室・ICUと病棟の距離といった構造面も、医療機関の規模や患者層に応じて最適化する必要があります。これらを総合的に設計初期から検討することで、機能性とコストのバランスがとれた効率的な建て替えが実現できます。
※1 病棟内に6.4㎡未満の病室を有する場合は算定不可。また、特別の療養環境の提供に係る病室または特定入院料を算定している病室については本加算の対象から外れる。
病院建て替えは、単に建物を新しくするという建設事業にとどまらず、「将来的に安定した収益を上げて投資を回収できるかどうか」という経営上の大きな意思決定でもあります。したがって、建替えの構想段階から、資金調達の可否だけでなく、完成後の収支シミュレーションまで見据えた計画を立てる必要があります。
まず大前提として、建て替えにかかる多額の初期投資を返済していくには、病院としての収益力を安定的に確保しなければなりません。そのためには、医療機能の選択と集中、医療提供体制の再整備、スタッフ体制の最適化、在宅医療との連携など、様々な観点から「稼ぐ力」を高めることが求められます。
また、病床稼働率や在院日数、平均単価といったKPIを意識した経営マネジメントを導入することも重要です。建替えをきっかけに、病院の事業モデルそのものを見直し、地域ニーズに合致した診療科の拡充や新たな医療サービスの立ち上げなどにより、収益機会を広げる工夫が求められます。
さらに、光熱費や人件費などのランニングコストの見直しと抑制も、健全な財務体質を築くうえで欠かせません。省エネルギー設備の導入やBEMS(ビルエネルギーマネジメントシステム)の活用などにより、運営効率の最大化を図ることが、結果的に収益性向上にも寄与します。
このように、建替えは経営課題の延長線上にあるものであり、単なる建築計画ではなく「経営改善計画の一環」として捉えることが、持続可能な病院運営を実現するための鍵となります。
建替えを通じて、老朽化した施設では困難であった〝時代のニーズに即した医療〟の提供を実現できるようになります。
新築の病院では、快適な診療環境と最新設備を提供できるため、患者の満足度が向上します。特に、待ち時間の短縮やプライバシー確保の面でも、利便性が高まります。また、療養環境の整備やナースコールの配置改善、案内サインの視認性向上など、細部にわたる配慮も患者の安心感につながります。
効率的な動線設計や最新の医療機器の導入により、スタッフの業務負担が軽減されます。また、休憩スペースの充実など、働きやすい環境整備も重要なポイントです。
ここまでは建替えにおけるメリットを説明しましたが、最近は資材や人件費等の上昇により建築事業費が大幅に高騰していることもあり、病院建て替え計画が凍結される事例も見られます。
各専門家の見立てでは、物価上昇は落ち着きつつあるが、事業費は当面下がらないだろうとの意見が多く聞かれます。物価高の中で、病院はどのような施設戦略を持つべきでしょうか?
大規模改修や建物の延命を行うことで、建替えを避けながら施設機能を維持する方法です。耐震補強や設備の更新を計画的に行うことで、安全性や利便性を向上させることが可能ですが、自院施設管理者だけではなく、外部専門家の第三者評価を受けながら進めることが理想的です。
自法人が所有する未利用地を活用し、土地や街を開発する事業者(ディベロッパー)と共同で医療施設を開発する方法もあるかもしれません。土地を最大限に活かしながら、新しい病院の建設や関連施設の整備を共同で行うことで、病院施設整備費の負担削減も見込めることもあります。
過疎地や医療資源の不足が懸念される地域では、自治体との協力により施設整備を進める選択肢も検討が必要かもしれません。地域公的医療機関との統合を視野に入れ、効率的な医療提供体制を構築する動きは今後も続くでしょう。
支援の現場でよく聞かれるのが、以下のようなトラブルです。
建替えのために設計をしているにもかかわらず、新病院の機能や規模が十分検討されておらず、「今の機能そのまま」で計画を立てているケース。
せっかく新しく建てるのだからと、今までやったこともないような新しい医療機能・施設・設備を入れ、てんこ盛り状態の計画を立てているケース。
どちらも建替えを「思い立った」際、懇意にしている設計会社、施設管理を委託している会社の知り合いの設計者、または今の病院を建てた建築会社に、新病院の図面作成を丸投げし、肝心の医療機能や収益性の評価、施設に関する要件定義が不十分なまま進めてしまうことが原因です。
病院建て替えは、医療機関の将来を左右する重要な決断です。実は建替えや改修以前に既存の事業モデルを見直し収益性の改善を先に実施、というケースが多々あります。
メディヴァでは、建替えに関する総合的な支援を提供し、医療機関が持続的に成長できるようサポートしています。資金計画や設計選定、移行スケジュールの策定など、専門的なアドバイスを提供しますので、建替えを検討されている方はぜひ一度ご相談ください。
監修者
小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。
主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他