現場レポート

2024/05/10/金

医療業界の基礎解説

経営戦略や組織の改善点を可視化する「病院経営分析」

【監修】取締役 小松大介

病院経営を安定させるには、定期的な経営状況の分析が必要です。病院経営分析を行うことで自院の現状を正しく把握することにつながり、施策の成果や改善点を洗い出すことができます。
今回は、病院経営分析で可視化できることや分析する際のポイントについて解説していきます。

病院経営分析はなぜ必要なのか?

そもそも、安定的な病院経営を行ううえでは、PDCAサイクルを回していくことが重要です。PDCAサイクルとは、「Plan=計画」「Do=実行」「Check=評価」「Action=改善」の4ステップを繰り返して業務改善やサービスの質向上をめざすフレームワークです。その際、自院の状況を理解し、改善点を洗い出すための「病院経営分析」が役立ちます。
病院経営分析を行うと、経営計画・戦略や生産性に関する現状と改善点が可視化されます。 これらのデータを次の施策に活かすことでPDCAサイクルを回すことができるのです。

また、近年では「OODA」という概念が定着しつつあります。「Observe=観察」「Orient=状況判断、方向づけ」「Decide=意思決定」「Act=行動」の4ステップで構成され、PDCAサイクルに比べ状況への即応性や汎用性が高いことから、変化の激しい現代によりフィットするフレームワークです。
病院経営分析の結果を活かしながら、年間計画などの長期的視点についてはPDCA、柔軟な対応が必要な内容はOODAという使い分けをすることが経営を安定させるためには重要となります。

病院経営分析において重視すべき指標

病院経営分析で用いる代表的な資料はおもに財務諸表(決算書)の数値、外来患者数、入院患者数等が集計されたデータです。
財務諸表では、貸借対照表(病院の資産や負債、資本がわかる資料)や損益計算書(病院の収益や費用、利益が記載されている資料)について確認できます。それらのデータをもとに見えてくるのが以下3つの指標です。

  • 機能性
  • 収益性
  • 安全性

病院の経営状態を知るうえで重要な指標となるので、それぞれしっかり確認していきましょう。

機能性

機能性とは、保有している経営資源を最大限に活かせているかを判断するための指標です。ここでいう経営資源とは、病床(物的資源)や人材・患者のリソース(人的資源)のことを指します。
機能性を分析する際に用いる主なデータはこちらです。

  • 1床あたりの1日平均入院患者数
  • 患者1人1日あたりの入院収益
  • 医師1人あたりの入院患者数
  • 医師1人あたりの外来患者数 
  • 外来/入院比(外来患者数と入院患者数の比率)
  • 平均在院日数(患者が入院して退院するまでの平均日数)

例えば、1床あたりの1日平均入院患者数をみれば、病床稼働率がわかります。数値が低ければ、病床を十分に活用できていないと判断できるので病床率をあげるための対策が必要です。
また、医師1人あたりの入院患者数や外来患者数などは、一般的には多ければ多いほど生産性が高いと判断される指標ですが、病院の「機能性」という面から見ると少ないほうが安全性が高いと言えるため、判断指標が一般企業と異なる点にも留意しておく必要があります。

収益性

収益性とは、経営で発生した収益と費用を割り出して経営成績を明らかにするための指標です。
収益性を分析する際に用いる主な数値は以下のとおりです。

  • 病床利用率
  • 固定費比率
  • 職員1人あたり医業収益 
  • 医業利益率(収益から費用を差し引いた残りの利益)
  • 経常利益率(売上に対するに対する事業を行って得た利益の割合)

上記のデータをもとに、どれくらい収益・損益が出ているのかを調べます。損益が出ている箇所がある場合、経営の安定性を保つための施策を打つ必要があります。

安全性

安全性とは、お金を支払う能力や借入金の返済能力に安全性があるかを示す指標のことです。安全性を分析する際に用いる主なデータは以下のとおりです。

  • 自己資本比率(総資本のうち自己資本が占める割合)
  • 借入金比率(借入金残高に対しての現金預金の残高)
  • 固定長期適合率(自己資本と固定負債の総額に占める固定資産の割合)
  • 流動比率(短期間で現金化できる資産と短期間で支払いが必要な負債の割合)

上記のデータをもとに、病院の資本や資産の調達・運用状況を調査します。リスクを最小限にした健全な経営を図るためにも、安全性の担保は必要です。

なお、「病院経営管理指標」では病院の種別、規模別などでこれら3つの指標の平均値を確認できます。自院と同じ規模感や特徴をもつ病院をベンチマークしておけば、具体的な対策のヒントが見つかるでしょう。

病院経営分析によってわかる改善点

病院経営分析によって、主に以下の3つの改善点が見えてきます。

  • 経営計画・戦略の改善点
  • 生産性の現状把握と改善点
  • 組織・人材育成の改善点

それぞれについて、詳しく解説していきます。

経営計画・戦略の改善点(経営計画や戦略の立案)

病院経営分析を行うことで、データに基づき経営状況を正しく把握できます。経営上の課題を特定できたら、課題をクリアするための新たな経営計画を立て直せます。
例えば、利益に対して人件費や設備代が圧迫している場合、人件費の見直しや経費の削減などを検討できるでしょう。また、病床の稼働率が前年に比べて低下している場合、集患活動に力を入れたり全体の病床数を見直したりなどの施策を検討できます。
病院経営分析によって、具体的な経営計画作成に落とし込むことができるでしょう。

生産性の現状把握と改善点(生産性向上の対策)

病院分析では、医療従事者一人あたりの患者対応数のデータをもとに生産性を可視化できます。
生産性は利益に直結する指標のひとつです。そのため、生産性が思ったように上がっていない場合、データをもとに原因の分析を行い、施策を検討する必要があります。

生産性が下がる要因としては、例えば人材育成が不足していることによる医療従事者の対応力不足、患者数に対する従業員不足、連携ミスによる作業時間の長時間化、などが挙げられます。数字だけでなく従業員へのヒアリングなども併せて行いながら、効果的に生産性向上をめざすための施策を検討するとよいでしょう。

組織・人材育成の改善点(組織の強化)

病院経営分析で見えるのは数値データですが、それらから組織の現状についても読み解くことができます。

例えば、 従業員が十分足りているにもかかわらず見込んでいたような生産性が上がっていない場合、従業員同士の連携が不足していて作業時間が長くなっている、というような原因があるかもしれません。
組織の状況を数値データだけで判断するのは難しい面もありますが、数値という根拠をもとに議論を行うことで、何をどこまでどのようにするかといった具体的な施策に落とし込みやすいメリットがあります。組織の一体感を醸成するためにも、病院経営分析に基づく具体的な数値目標の策定が必要と言えるでしょう。

病院経営分析を行う際のポイント

最後に病院経営分析を行う際のポイントを2つ紹介します。

  • 国や都道府県の政策動向を把握しておく
  • 院内の経営分析体制を整える

国や都道府県などの政策変更は医療組織の経営にあたえる影響が大きいため、法律や条例改正に関する情報は積極的に収集しましょう。
また、組織内に分析や施策実装まで設計できる部署、人材を設置して、結果にコミットできる体制を整えておくことが大切です。

まとめ

定期的な病院経営分析は健全な病院経営を行ううえで欠かせない工程です。数値をもとに課題を洗い出すことができ、適切な施策を検討する際に必要な情報を得られますし、病院の現状についても把握できます。

しかし、自院で細かな数値を算出し、施策を立案し、実施にうつすのは簡単なことではありません。こまめな情報収集なども、多忙を極める医療従事者にとってはなかなかハードルの高い業務です。もし、データの読み解き方がわからない等お困りの際は、メディヴァのコンサルタントにお気軽にご相談ください。


監修者

小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。
主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他

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