2024/07/26/金
医療業界の基礎解説
【監修】取締役 小松大介
病院におけるマーケティング施策は、新規患者の集患だけでなく、既存患者との継続的な関係づくりに欠かせない取り組みです。
ただやみくもに実施しては、無駄な作業や費用が増えてしまい、適切な効果が見込めません。
そこで本記事では、病院がマーケティングを行う目的や効果的な戦略、さらに導入手順について解説していきます。マーケティング施策実施の際は、ぜひ参考にしてみてください。
目次
病院における「マーケティング」とは一言で説明すると「効率的に集患を行うための一連の取り組み」です。
マーケティングというと企業や店舗が行うイメージが強いですが、近年では病院もマーケティングが必要な時代になっています。これは、経営が赤字に陥る病院が増加傾向にあり、戦略的な集患活動が求められているという背景があります。
また、インターネットの普及により、患者自身が積極的に医療情報を収集し、病院選びを行うようになりました。そのため、他院との差別化を図るためのマーケティングも欠かせなくなっています。
マーケティングは、ただ単に実施するだけでは高い効果は見込めません。目的が明確でなければ、戦略も曖昧なものになり、改善点なども見つけにくくなります。
そこで、まずは病院におけるマーケティングのおもな目的について解説していきます。
病院について知らない地域住人などに向け、病院の認知度を上げることで新規患者の増加を見込めます。
病院の認知度を上げるには、ホームページのリニューアルやSNSでの積極的な情報発信、患者の口コミ促進などの施策が効果的です。また、病院主催のイベントやセミナーの開催も、病院の存在アピールにつながるでしょう。
医療にまつわる正しい情報発信を行うのも、病院でマーケティングを進める目的のひとつです。
インターネットの発展に伴い、医療情報が検索記事やSNSで簡単に見られるようになりました。しかし、それらの中には誤った情報や根拠のない情報も多く存在します。
マーケティングの施策を通じて、病院の信頼性や専門性をアピールできるほか、患者の健康意識を高め、定期健診や適切な受診などの行動も促せるでしょう。
新規患者だけでなく、困ったときに繰り返し頼ってもらえるリピーター患者を増やすのもマーケティングの目的のひとつです。リピーターを増やすことで地域住人との信頼関係が深まり、病院自体のブランドイメージの向上といったメリットも生まれます。
また、マーケティングによって定期的に頼ってもらえる存在となれば、家族や知人への紹介などの効果も見込め、経営も安定します。
効果的なマーケティング戦略を立てるには、順序立てた取り組みが欠かせません。ここからは、病院マーケティングの戦略を立てる際の流れを解説していきます。
はじめに、自院の分析を行います。自院の特性に合わせて、競争力のあるマーケティング戦略を策定するためです。
自院の特徴や来院する患者層、地域医療における立ち位置を明確にしないまま集患活動を進めれば、無駄な取り組みが増えて非効率なほか、コストも無駄になりかねません。
自院の分析では、「SWOT分析」が使われています。SWOT分析とは、内部環境と外部環境に着目し、自院の現状を把握する分析方法です。
内部環境と外部環境の具体的な分析内容は以下のとおりです。
分析項目 | 分析の目的 | 分析内容 |
内部環境 | 自院の強み・弱みの洗い出し | ●患者の来院数・来院ルート・初診/再診比率 ・入院数 ●リピート分析(患者の来院履歴、患者属性、リピート要因など) ●施設・設備・システム の状況 ●医療の実績や専門性 ●デジタルマーケティング分析(ウェブサイトのアクセス解析、SNSのエンゲージメントデータ、オンライン広告の効果測定など) |
外部環境 | 外部の脅威や機会の把握 | ●競合施設の情報(強みや弱み、提供しているサービスの範囲など) ●医療技術の進歩や新しい治療法の登場 ●少子高齢化に伴う人口動態の変化地域ごとの人口動態、診療科別や疾患別の医療需要 ●医療にまつわる法律の新法・改正(医療法、診療報酬、介護報酬など) |
これらの分析結果をもとに、自院ならではのマーケティング戦略を立案していきます。
次に、集患のターゲットを決めていきます。ターゲットを絞ることで、効率的なマーケティング活動が可能になるからです。
ターゲットを特定する際は、以下のような項目ごとに分析を行い、自院の病院に合う患者像を絞り込んでいきましょう。
また、競合病院との差別化ポイントを洗い出していく作業も行います。
このときにも先ほどのSWOT分析の結果が役立ちます。内部環境分析による自院の強み・弱み、外部環境分析による競合病院の情報を掛け合わせれば、差別化できるポイントが見えてくるでしょう。
〈差別化ポイントの例〉
差別化できなければ、他院に患者が流れてしまうリスクが高まります。自院ならではの強みを明確にし、新規患者やリピーター患者の獲得につなげていきましょう。
ターゲットを特定し、競合病院との差別化ポイントを明確にしたら、具体的な集患戦略を検討していきます。病院におけるマーケティング戦略には、多くの選択肢があります。
主な例は以下のとおりです。
どの戦略を選ぶかは、ターゲット層との相性や予算を考慮して検討、決定していきます。
「自院で選択するのが難しい…」という場合は、SNSや広告の作成会社や、病院コンサルタントに依頼することも選択肢に入れてみましょう。
病院マーケティング戦略を考える際、
の2つに分けて戦略を立てる必要があります。
まずは、新規患者を獲得するための手法を5つ紹介します。
SNSやメールマガジンといった配信ツールの活用は、病院のブランディングを強化するうえで有効な手段です。配信内容としては、以下のような例が挙げられます。
多くの人が日常的に利用するSNSやメールマガジンを活用すれば、効果的に有益な情報をユーザーに届けられ、新規顧客の獲得につながるでしょう。
Web経由で集患を強化する方法もあります。特に力を入れるべきなのは、自院の公式ホームページです。病院を探す際にホームページはチェックされやすいので、まだ作っていない場合は早めに制作するのが望ましいでしょう。
すでにホームページがある場合は、集患力に優れたサイト設計になっているかを確認してみてください。サイト情報が古いまま更新されていない、表示速度が遅い、デザインが古く見づらいなどの問題点があれば、サイトのリニューアルを検討すべきでしょう。
加えて、コンテンツの充実やWeb予約システムの導入などによりサイトの利便性を高めれば、Web経由の集患をさらに促進できるでしょう。
また、医療ポータルサイトの活用も手段の一つとして挙げられます。医療ポータルサイトとは数多くの病院やクリニックの情報を網羅しているWebサイトであり、地域や駅名、診療科目などの数多くの条件から検索が可能です。多くの医療ポータルサイトでは検索エンジンで上位表示されるSEO対策が施されているため、医療ポータルサイト自体がユーザーの目に留まる機会が多いです。あとはポータルサイト内で病院情報を適切に編集し、口コミへの対応を行うこともマーケティングの策として有効と考えられます。
広告を活用した集患手法もあります。目立つ場所やターゲット層の注目を集めやすいところに広告を掲載すれば、新規患者の獲得につながります。
広告掲載は新聞、看板、フリーペーパーなどのほか、Web広告のバナー広告なども考えられます。媒体やサイズなどによってコストが変動するので、予算を考慮しながら検討していく必要があります。
病院は「地域との密着性」が求められるため、地域メディアを活用し、その地域の住民に対して効果的な情報発信を行うことも有効です。弊社の支援先の中には、ローカルラジオを活用している病院もあります。
地域イベントの実施も、新規患者を獲得する手法のひとつです。イベントを通じて病院の存在感を示せるだけでなく、地域住民との交流を深めることで、新規顧客にとって身近な存在に感じてもらいやすくなります。
たとえば、以下のイベントが想定されるでしょう。
イベントの規模や内容は、予算や人員、ターゲット層に合わせて検討していきましょう。
増患のためには直接来院を増やすだけでなく、他の医療機関からの患者の紹介を増やすことも欠かせません。そのためには医療機関同士の連携強化もマーケティングにおいては重要となります。
他の医療機関の関係性構築の方法として「営業訪問」がよく挙げられますが、ただ挨拶に行っただけで終わる例もよく耳にします。成果に結びつけるためには、獲得したい患者の明確化およびそれに合わせた訪問先の選定、効率的な回り方の検討、双方にとってのメリットが分かるような情報提供、ヒアリングによる相手方の課題抽出など、意識しなければならない点はいくつかあります。
詳しくは以下の記事にて解説しておりますので、ぜひご参考ください。
紹介患者獲得に向けた地域連携室の営業活動について
次に、既存患者の継続的な関係づくりにつながる4つの方法について紹介します。
患者の満足度や要望を把握するアンケートを実施し、その結果をもとに施策を考えていくのも、既存患者と継続的な関係づくりに有効な手段です。
アンケートでは以下のような項目を設定すると、施策の検討に役立つ情報が得られるでしょう。
さらに、対象者の年齢や性別、「この病院をどこで知ったか」「リピートする理由は何か」といった情報を収集すれば、年代ごとの評価の違いや患者の流入経路もリサーチできます。
院内広報を利用するのも、既存患者との関係を維持する有効な手法です。院内広報は、患者の待ち時間や診察の合間に情報を届けられる利点があります。
患者が参加できる院内イベントや健康セミナーなどの情報も院内広告で告知すれば、患者との継続的な関わりを保てるでしょう。
既存患者との関係性を維持するためには、クローズドなSNSを活用する方法もあります。もっとも広く活用されているのは、LINE公式アカウントです。LINEは直接患者とコミュニケーションを図れるだけでなく、利便性の高い機能の実装により患者の定着率向上に役立てられます。
〈LINE公式アカウントで実装できる機能例〉
また、セグメント機能を使って属性ごとに配信内容を振り分ければ、その人に合った情報が届けられます。一人ひとりのニーズに寄り添った情報提供は、患者との信頼関係をより深められるでしょう。
スタッフの接遇を強化するのも、既存患者との関係を維持していくうえで大切な取り組みです。スタッフの接遇が悪いと、患者離れの原因になるためです。
たとえば患者対応マニュアルの作成を行う・優れた接遇を行ったスタッフを表彰するなどの施策により、接遇の質を一定に保ち、モチベーション向上を図るなどの施策を行いましょう。
利用者の満足度が高まれば、口コミや評判で病院の良い情報が拡散され、新規顧客の獲得につながる可能性もあります。
マーケティングというとノウハウの部分に目がいきがちですが、病院の人的・物的環境の強化や改善も、集患に欠かせない要素です。
足を運ぶ患者が満足できるサービスや環境を提供できなければ、他院に流れてしまう可能性があるからです。また、悪い口コミや評判が広まれば、新規顧客の獲得も難しいでしょう。
そのため、マーケティング施策と同時に医療サービスの品質向上は欠かせません。
加えて、スタッフのスキルアップやサービス向上のための院内整備、待ち時間の短縮化、衛生管理の徹底などを継続的に改善していけば、患者の満足度向上と集患力の強化につながるでしょう。
そして病院はサービス業である以上、顧客を増やすためにはスタッフが大事です。今回は「対患者」についてのマーケティングを中心に解説しましたが、「対スタッフ」のマーケティングの存在も抑えておくべきポイントです 。
新規患者、リピーター患者の獲得、既存患者との関係性の維持には、戦略的なマーケティングが欠かせません。自院の分析を行ったうえで、ターゲット層との相性の良い手法や予算に見合った手法を選択して実践していきましょう。
「自院にマーケティングに詳しい人材がいない…」「マーケティングにリソースを割けられない…」という場合は病院コンサルタントに依頼する手もあります。
病院のマーケティングでお困りごとがあれば、弊社メディヴァのコンサルタントにお気軽にご相談ください。
監修者
小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。
主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他