2024/07/26/金
寄稿:白衣のバックパッカー放浪記
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https://mediva.co.jp/report/backpacker/14654/
目次
マレー半島にはミャンマー、タイ、マレーシアの国境がある。ミャンマーとタイの国境を南西に延長した先に淡路島より少し小さい島があるーそれがプーケット島だ*1。日本からの直行便はなく、バンコクで乗り換えを含めて9時間程度かかる場所だ(ちょうどハワイから日本に戻ってくる時間が9時間)。2020年に9万4000人だった人口は2024年には45万人になると推定されている1)。医療制度として家庭医制度はなく、開業医も病院も自分の希望で行くフリーアクセス。専門医と開業医で値段に差はないらしく、日本と似たような制度で医療が行われているようだ2)。
私が苦手な雨季は6月から10月で、訪れた2月はちょうど乾季。空港に着いた時に暑いが過ごしやすいことが分かった。イミグレーションエリアには無数に欧米人がいて、他のどの空港より入国審査に並ぶ時間が長かった。確かにヨーロッパからのアクセスは沖縄と比べるとタイの方が圧倒的に良い。空港の外に出てからもGrabでタクシーに乗るまでに多くの欧米人が居た。プーケットのソポン・スワンナラート知事は「プーケットは楽園であり、ここを第二の故郷にしようとする全ての人を歓迎する」と言っているそうだ3)。
楽園の名にふさわしく、プーケットにはアマンダン海の綺麗なところを切り取ったビーチがいくつもある。特に歓楽街があるパトンビーチはプーケット観光には外せない場所の1つだ。だから普通は(多分)パトンビーチ周辺に泊まって「ザ・Phuket」なレジャーを楽しむのだと思う。しかし私が宿を取ったのは歓楽街とは山を挟んで反対側にある閑静な旧市街だった。単純に宿が安かったからという理由と、意外に歩いてビーチへ行けるのではないかと淡い期待を持って予約をした訳だったが、地図通りそんな訳もなくセブンイレブンとラーメン屋が並ぶ日本のような道の表通りに2泊(3500円)することになった。
早速旧市街をバイクで散策してみると美味しそうなレストランとお土産街がコロニアル建築のテナントに入っている。タイにしては落ち着いた観光地で、旧正月のシーズンが終わったために龍を模したアーケードが撤去されるのを待っていた。時刻が夕方になり、かなりお腹が空いていたので食事をすることにした。街を彷徨っていると川沿いに続々と人が流れ込んでいるレストランを見つけた。どうやら焼肉屋のようだ。バイキング形式で並べられた肉や海鮮をとって焼いている。久々に目の前に焼肉を見せつけられて、食べたくない訳がない。面白そうなこともあり、ここで食事をすることにした。
タイは当然タイ語なのだが、バンコクは観光客が多く来ることもあってか英語を話せる人が多い。プーケットは今のところバンコク程ではないが、多少は話せる店員さんがいるようだ。最初に対応してくれた店員さんが、英語を話せる店員さんを連れてきてくれた。その店員さんに席まで案内してもらうと、炭火が目の前に敷かれ、その上にジンギスカンで使うような鍋が置かれた。ジンギスカン鍋との違いは鉄でできたドームを縁取るお堀のような構造があり、お湯が張られていることだ。そのお湯で具材を茹でるとのことだった。つまり、焼きと茹でどちらも楽しめるとのことだった。まるで日本のしゃぶしゃぶが間違って伝来してしまったような感じさえするこのタイ風の焼肉は本当に美味しかった。タレは3種類(中華風、パクチーベース、スイートチリ)が用意されていて、どれも具材に合う味だ。肉も複数種類あったが、一番美味しかった豚バラをひたすら焼いて食べた。口に合う食事を久々に食べている感じがあり、食事の良し悪しが旅の良し悪しに影響することを再認識した。
タイの焼肉
ペナンからプーケットに来て、綺麗な海を渇望していた。宿に戻ってから色々調べてみると、どうやらプーケットから船で50分のところにピピ諸島という観光スポットがあるらしい。ツアーがたくさん出てきたがどれも似たり寄ったりの値段だったので、その中から1つ選んで参加することにした。翌朝送迎のバスが来る予定になっていたが、なかなか来ない。タイのSIMの電話番号が繋がらないのか連絡も来ないため不安になる。こちらからツアー会社に電話してみると「もう少し待ってください。今向かっているとのことです。」ということだった。それからさらに15分くらいしたところで、今度は向こうから電話がかかってきて「今、あなたをピックアップしたとのことでしたが合ってますか?」と聞かれ「いや、間違っています」と即答した。マジでこれ大丈夫かなと思いながら5分待っているとようやくバスが迎えに来てくれた。
バスに乗って降ろされた集合場所は思ったよりも大きくて、建物前の芝生に大勢の観光客が屯していた。てっきり同じバスの人と行くのかと思いきや、それぞれに違う色のリストバンドが配られた。色ごとに再度チーム編成を行うらしい。私の色は紫。自分の色が呼ばれるから、呼ばれた方に集合してとのことだった。しばらくして色が呼ばれ始め、色ごと10名ほどのグループが作られていく。芝生には日本人専用グループが形成され、日本語でツアー内容や注意点が説明されている。ツアー料金ひとつを取っても英語の方が安いから、価格勾配に従えば英語ツアーに参加することになる。とは言え英語が完全に聞き取れる訳ではないから私は日本人グループの傍で聞き耳を立てながらその説明を聞いていた。正直せこい、いや倹約家と言っておこう。日本語の説明が終わったくらいのところで「PURPLE!」と叫ばれる。そちらに向かうと紙に記載された名前の横にチェックをされる。ここで待ってろと言われ建物に入ると、さっきの日本人グループと違って100人以上がまとまって説明を受けることとなった。当然、全員が英語のネイティブではないだろう。ジョークっぽいところでは笑いが起きていたが、私はどこが面白いのか捉えられずにいた。こういう場面を目の当たりにすると英語が世界の共通言語として扱われていることが身に染みる。何度か医療系の国際学会に参加したことがあるが、当然使用言語は英語だ。学会ともなるとそれなりの専門職が集まっているから英会話がされていることをある程度は受け入れられる。しかし観光するというレベルにおいても英語が共通言語として使用されていることが目の前で繰り広げられると、なんだか少しショッキングな気持ちになる。「みんな英語聞いてる、英語使える人が多い」ということが学会よりも分かってしまうのだ。もちろん、この会場に集まっている人は英語のツアーを選択している人ばかりでバイアスはかかっているとは思う。ただ日本人グループに比べて圧倒的に人数が集まっていて、急に世界の中の日本人になってしまった。よく言えば日本代表であり、同時に言葉が国境を超えている瞬間に立ち会っていたと思う。説明を受け終わると船まで案内され、エンジンが掛けられた。
同じツアーグループ。アジア、アラビア、ヨーロッパからの混成。2月の日本人ツアー客は若者が多かったが、英語グループは家族連れが多い印象
「今日は風が出ていて、波が高いから揺れる」とツアーガイドは船内の先頭に立ち、説明した。波に船体が当たるたびに体が浮き上がり、波しぶきが体にかかり、着ていた服はびちゃびちゃだ。船内で何人も船酔いになり、目的地に着くときにはみんなヘロヘロだった。私が船酔いしそうな時にすることと言えばひたすら遠くを眺めて、揺れを感じていないと体に言い聞かすことだ。経験上、大抵は船酔いを避けることができている。人々がそんな思い(こんなに揺れるとは誰も思っていなかっただろうけど)をしてまで観光しにいくピピ島は珊瑚礁に囲まれ、青く透き通った海が広がっている。『The Beach』という映画のロケ地にも使われ、プーケットからいくアイランドホッピングでの知名度は一番だろう。ピピ島について海を見た時にこれは来た甲斐があったと思うビーチが広がっていた。東南アジアで求めているビーチが目の間に広がっていた。
ピピ島の景色
水温はそこまで高くない。日差しが暑いから海に入ってちょうどいいくらいだ。ペナンにも確かに良さはあったが、頭の中に描いていたリゾートはプーケットに近い。夏休みに東南アジアのどこに行くべきかと聞かれれば、私はおそらくプーケットかダナンをオススメするだろう。夏休みと聞いて思い浮かべる綺麗な海がそこに広がっている。ただ雨季の影響がどれほどあるかは分からないから、私ができることは旅行日が晴れて、風が弱い日であることを祈ることだけかもしれないが。
更新は毎月第2、4(金)12時、次回は8月9日、内容はプーケット編になります。次回もお楽しみに!
執筆:溝江 篤
編集:神野真実、半澤仁美
【参考文献】
1)Phuket Population 2024. (n.d.). Retrieved July 21, 2024, from https://worldpopulationreview.com/world-cities/phuket-population
2)海外勤務健康センター 研究情報部|国名タイ都市名プーケット. (n.d.). Retrieved July 23, 2024, from https://www.forth.go.jp/johac/toshibetsu/asia/phuket.html
3)ロシア富裕層、タイに移住 自国経済低迷で楽園プーケットに2万7000人 – 日本経済新聞. (2024, January 24). https://www.nikkei.com/article/DGKKZO77832540Q4A120C2TM5000/
【注釈】
*1 プーケットの面積は543km2で淡路島より少し小さい島に淡路島の4倍の人数が住んでいます。
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