2021/07/05/月
医療・ヘルスケア事業の現場から
コンサルティング事業部 田中 傑
目次
全ての医療機関において、集患は経営上の重要なテーマです。とくに病院経営では、病床稼働率が重要な指標の一つとなっており、入院患者獲得に向けて各病院が努力を続けています。患者の入院経路は、ご存じの通り、外来、救急、紹介の3つがあります。なかでも紹介は、急性期系の病床を持たない回復期・慢性期の病院では特に重要な役割を果たしています。
近隣の病院から患者を紹介していただくためには、紹介元の病院と良い連携関係を結ぶことが必要です。
もちろん、多くの病院に地域連携室があり、前方後方業務を行っていると思います。ところが、実際の営業活動となると、手土産をもってご挨拶に行っているだけというところもあるのではないかと思います。実際、弊社の支援先でも、年始のご挨拶程度でしか伺っていないという病院もありました。しかし、営業を行うのであれば、きちんと成果と結びつくような営業を行うことが重要です。
今回の記事では、近隣医療機関との関係強化、あるいは今までにあまり交流のなかった医療機関と新たな連携を結ぶための第一歩としての地域連携室の営業活動についてご紹介します。
営業活動と言っても、ただやみくもに病院に行き、挨拶をするだけでは意味がありません。病院を訪問する前に、検討すべき3つのポイントがあります。
まず重要となるのが、自院が連携先からどう見えているのか正確に理解することです。院内にいると、自院について分かったつもりになってしまいがちですが、実際には自院のことを正確に理解できているケースはあまりありません。以前に弊社の記事でもご紹介した通り、例えば、院内では紹介元医療機関への受入れの返答は素早く行っていて営業活動に回れていない点が問題であると認識していたけれど、実際には受入れのレスポンスの遅さと対応できる患者層が明確でない点がネックとなって紹介が来ていなかったというケースがあります。このように自院内での認識と連携先からの見え方が異なってしまっていることもしばしばです。
状況を正確に理解しないままでは本質的な問題の解決にはつながりませんし、営業活動が結局のところ徒労に終わってしまうことにもなりかねません。そのため、自院について改めて分析し、正確に状況を理解することは、とても有用です。
実際の分析にあたっては、相談の件数や内容について見直してみることが大切です。例えば、相談件数に占めるキャンセル率やその理由、入院の相談を受けてから院内で調整を行い先方へ返答するまでの期間、紹介元病院別での件数推移などが考えられます。支援先の分析事例では、入院判定会議まで判断を待っているために、先方への回答に長い時間がかかり、その間に紹介患者が他院へ流れている事例や、特定の診療科の先生の受入れ率が低いという事例もあります。このように相談の内容を分析することで、ボトルネックを明らかにすることができます。
また、自院の強みや弱みについても正確に把握しておく必要があります。自院のターゲットとなる患者層、自院内で対応できる患者と対応できない患者を明確にできると、営業時に自院の特徴を連携先に説明しやすくなり、連携先が自院に患者様を紹介しやすくなりますし、自院がどの病院と連携を深めるべきかも見えやすくなるため、より効果的な営業を行うことができます。
自院の状況・獲得したい患者層が整理できたら、訪問先を選ぶために現在の紹介状況を分析します。メインの紹介元からの問い合わせが減少しているのであれば、既存の連携関係を再構築することが必要となりますし、そうでない場合は、新しく連携先を開拓する方に比重を置いてもよいかもしれません。
新しい連携先へ営業を行う場合には、自院が獲得したい患者層に合致した営業先を選ぶことが大切となります。例えば一般急性期であれば地域の診療所や紹介の少なそうな病院が考えられますし、回復期であればリハビリの内容に合わせて整形外科や脳神経外科を持つ病院など、慢性期であれば急性期病院や往診等を行っているような診療所、介護施設等の連携が考えられます。
アポイントメントを取る際にも一工夫あるとよいでしょう。日々の連携業務も忙しい中で営業を行うためには、できるだけ効率的に訪問先を回れるよう工夫することが大切になります。
たとえば営業先候補を選定した段階でGoogle Mapに訪問先をプロットし、近くにある施設はできる限り同じ日で回れるようにアポイントメントを取るように工夫することが考えられます。Google Mapには車で訪問すると大体どのくらいの時間がかかるのかが目安として表示されるので、タイムスケジュールを組みやすくなるメリットもあります。
支援先のA病院では、院長が交代するタイミングで院内の体制も新たに、より地域に密着した医療を提供できるようにと意気込み、挨拶回りも兼ねて、できるだけ多くの施設へ訪問しようと医療機関と介護施設あわせて約90施設ほどを営業先としてピックアップしました。1日2~3件で回っていたのでは何ヶ月あっても終わらない件数です。そこで、まず院内で営業担当者を2人決め、2列で訪問できるようにしました。これで1人当たりの訪問件数は45件になります。さらにそこから、訪問したい先をGoogle Mapに登録し、同じ位置にある施設は可能な限り同じ日に回れるように調整しました。具体的には、10:00~16:30の間で30分刻みで枠を作り、移動時間も考慮して1日に5~6件ほど回れるように埋めていきました。こうすることで、おおむね2週間ほどで訪問したい先を回りきることができました。
補足ですが、自院から遠い訪問先の予定を早めに聞いておくことで、営業の日にちやルートを決めやすくなるため、アポ取りはまず遠い施設から始めるとよいのではないでしょうか。
営業前の準備が終われば、実際に訪問して広報営業をすることになります。限られた訪問時間を最大限に活用するためには以下の2つのポイントを意識する必要があります。
まずは自院の概要に加えて、どういった症状には対応できるのか、あるいはどういった患者さんであればご入院いただけるのかを伝えます。
概要を伝える際は、パンフレットや写真付きの資料があれば、ビジュアル的に理解してもらいやすくなります。先にも述べた通り、連携先は意外と自院のことを理解していないため、理解してもらうための工夫は不可欠です。
当然自院のアピールを行うことも必要ですが、自院と連携先の認識のギャップを埋めることも営業の役割の一つです。そのためには、連携先が自院のことをどの程度理解してくれているかを頭の片隅に置きつつ説明するように心がけるとよいかもしれません。
こちらも弊社支援先の例となりますが、支援先B病院では建物が古く狭いために対応できる患者の状態にも限りがありました。連携先と面談した際に、そのことを写真付きで伝えたところ、「実はこれまで、なぜこんな状態にも対応していただけないのかと不思議に思っていたのですが、設備的な面で課題があるのだと知って納得できました。」と、自院の状況をご理解頂きました。
連携先病院の状況確認も営業の目的の一つです。連携先病院が自院に対してどういう印象を持っているのか、今の連携関係で何を課題と感じているのか、そのほか困っていることはないのかをヒアリングします。ヒアリングによって見えてきた自院や他院の抱えている課題にきちんと対処することが、連携関係構築の足がかりとなります。
新たな連携先を開拓する場合には、まずは自院について知ってもらうことが大切ですが、相手の状況をヒアリングした上で自院と連携を結ぶことで双方にメリットが生まれることを説明し、理解して頂くことも、同じくらい重要になります。
実際の営業でのヒアリングでは、「リハビリの必要な透析患者を積極的に受け入れていただけるので大変ありがたい」といった感謝の声や、「実は内科の医師が少ないため紹介しづらいと思っていたんです」という率直な声、「圧迫骨折を当日受入れていただけるような病院さんが少ないため少し困っています」という悩み相談を受けることもありました。普段伺えないような話や、先方にとって少し言いづらいような話をするのには、営業は絶好のチャンスです。うまく話を聞きだしてみましょう。
ヒアリングした結果を院内で分析し課題の改善や新たな対応を検討していく必要があります。ヒアリングしただけでは何の役にも立ちません。ヒアリング結果を整理した上で、すぐに対応できそうなものと対応するまでに時間がかかりそうなもので課題を分け、他/多職種と連携しながら解決していくことが必要となります。
例えば、先のヒアリングの例では、内科の医師がいないことについては、採用の必要があるため、もちろん積極的に募集はかけていくことは必要であるものの、すぐに必ず対応できるようになるものではありません。
それに対して圧迫骨折の受入れであれば、院内の体制が整えば、すぐに対応することも可能になるかもしれません。そこで支援先病院では、整形外科医である院長にすぐに確認を取り、圧迫骨折の患者を当日、どうしても難しい場合には保存的治療ののち翌日に診察して受入れを行うように決定しました。
新型コロナウイルスの流行が収束していない現状では、積極的に訪問して営業するのは難しいかもしれません。実際、特に営業等での訪問は禁止とし、本当に必要な業者や関係者しか院内に入れないようにしているところがほとんどではないでしょうか。営業に伺う側としても、アポイントメントを取ることに足踏みしてしまうような状況です。
しかし、対面でなくともデジタルツールを活用することで、営業活動を行うことはできます。例えば、zoomやskype、google meetといったビデオ通話アプリを使用することで、通常の営業活動と同じく、顔を合わせての会話が可能です。また、画面共有といった機能もあるため、Power Pointで簡単な資料を作成しておけば、説明もスムーズに行うことができます。また、ビデオ通話アプリを使うことで営業先まで訪問する必要もなくなるため、時間もより使いやすくなります。
当然ながら、営業活動を行ったからといってすぐに患者数が増えるということあまりありません。しかし、これまでの連携関係を見直し、新しい繋がりを少しずつ作り地道に連携強化していくことが、長期的な紹介患者増そして入院患者増につながっていくことは間違いありません。