現場レポート

2025/07/11/金

寄稿:白衣のバックパッカー放浪記

白衣のバックパッカー放浪記 vol.35/ストックホルム編


北欧のスタン

フィンランドから次の目的地であるスウェーデンに向かう。スウェーデンもまた幸福度ランキング4位と幸福度が高い国として知られている。1位のフィンランドとの数値差はわずか0.391(フィンランド:7.736、スウェーデン:7.345、日本:6.147で55位)で、一番差がある項目はディストピア+残余値*(参照:ヘルシンキ編)になっている1)。生成AIにその理由を聞いてみると福祉サービスは充実しているが同調圧力が高いことがその理由とのことだった。実際に暮らしている訳ではないからどこまで感じ取れるか分からないが、このあたりを探ってみようと思う。

スウェーデンで滞在するのは首都のストックホルム。名前を聞いたことはあってもどんな場所かのイメージが全くついていなかった。ヘルシンキから船(フィンランドに行く時に乗った船よりもさらに豪華でカジノもあった)で行ける場所とのことだったから、きっと海に面しているのだろうとただ想像していた。

地図でみると確かにストックホルムは海と繋がっていた。しかし都市は島や陸地に守られるように海から奥まった場所にある。地図をみる限りでは本当に船が通過できるのだろうかと思わせる場所にあるのだ。フィヨルドではないらしいが氷河期の氷が作用してできている土地のようだ。

ストックホルムは14の島々からなる世界一美しい首都と呼ばれる場所で、北のベネチアと呼ばれることがある。水が好きな私は「〇〇のベネチア」なる土地に弱い。本家には行ったことがないが、ベネチアが付く場所があれば行くことにしている。ここもまた北欧のベネチアならば、どうしても旅程から外せないだろうと考えていた。いろいろ見ているとガムラスタンという単語が目立つ。

〇〇スタンと聞くと中央アジアが頭に浮かぶ。アフガニスタン、カザフスタンなどスタン系と呼ばれることもある。ペルシャ語でスタンは「土地」を意味するらしい。だが今回訪れるのはスウェーデンにあるスタン系「ガムラスタン」である。

ここでのスタンはスウェーデン語で「街」を意味する。ガムラは「古い」という意味なので旧市街という意味になるそうだ。ヨーロッパに来てから旧市街が一番栄えている場所というイメージがあったため、ガムラスタンに行くことを決めた。

陸地の合間を縫うように船は進んでいき、港に到着した。この日は雨降りで日本から持ってきていた折りたたみ傘を取り出して、地下鉄で宿のあるスカンストゥール駅へ向かった。車両に乗り込むと所々に犬を連れた人たちが乗っている。車体をよくみると「犬連れ込みOK」のマークがついている。私は動物と一緒に暮らしたことはないが、一緒に暮らしている人にとって家族の一員であると思う。だからこのように電車に乗っていても不思議なことではないかもしれないが違和感はある。

東京都23区の人口密度が15,000人/km2であるのに対してストックホルム市街地は5,200人/km2だから満員電車にはなりにくいのかもしれない。夏の朝の半蔵門線に犬がいたら、少しイラっとしてしまうかもしれない。感情とは自分の価値観をものさしにして生まれるもので、その価値観形成には文化が関わっている。きっとこの街で生まれたのなら自分も犬と暮らしていて、何も気にせず電車に乗れるのだろうと思う。

店内も犬が出入り自由になっている様子


動線がきっちりしていること

地下鉄から外に出ると街並みが目に入る。全ての建物が高く見える。高さは7階程度で20mほどのものが標準的なようだ。高い建物と言ってもキラキラ光る近代的なビルとは違い、石壁でできた滑らかな壁にオレンジやクリーム色の塗料がコーティングされて、窓は必要最低限といったところで部屋に1つずつ配置されているように見えた。道端には露天などはなく、決められた位置にゴミ箱があり綺麗な街並みが保たれていた。

宿にチェックインして荷物をロッカーに詰めるのだが、このロッカーもまた大きい。明らかに今までのドミトリーとはサイズが違う。スウェーデンにいる人を見ても、ラトビアほど背の高さは感じない。まるで1つひとつのものに対して1人ひとりのスペースが充分に確保されるように作られているようだった。確かに文句のつけようがない。逆にいうと文句が出ないように作られている感じさえした。

早速ガムラスタンに出かけてみる。地下鉄が地上に出て橋を渡り、水の上を超えていく。ガムラスタン全体が1つの島の中にあるようだが、ベネチアと違って中に運河がある訳ではなく周辺の島々を多くの船(隅田川を移動するような船)が結んでいるようだ。到着してからはノーベル賞博物館や名物のミートボールを食べて一通りの観光を済ませた。確かに街並みは綺麗だが少しもの足りなさを感じる。もっと良い場所はないかと散歩して、最終的に流れ着いたのは薬局だった。

ガムラスタンのミートボール。ベリーソースで食べる

薬局は入り口から順路が敷かれていて、一方通行になっていた。みんなが同じように入り口から入り、レジに向かっていく。「特に買うものがないのにレジにこのまま向かって大丈夫なのだろうか、用がないのに店に来るなと言われたらどうしよう」という思いとともに順路を進んでいく。

順路がひとつということで良いなと思うことがあった。それは欲しいものがどこにあるか心配しなくてもいいということだ。歩いていればいずれあるだろうと探す手間が省けるのだ。探してもない場合もあるかもしれないけど、日本の薬局のように棚を探すことはない。もちろん野菜や酒も置いてない。日用品だけがそこには並んでいる。必要最低限、過不足ない商品を効率的な動線で購入していく。何も考えずに順路を歩いていたら、やっぱりレジのところで止められた。「ただ見てるだけなんです」と伝えると「OK」という表情を浮かべた店員に外に出してもらえた。

店から出ると思いつくように「そういえばスウェーデンといえばIKEAがあるんじゃないか」と頭に浮かんできた。それならばと地図で調べて向かうことにした。IKEAに着いて店をめぐるとやっぱり順路があった。日本でも確か順路に沿って店を歩く仕組みだったことを思い出す。ここで浮かぶ問いとして動線がきっちりしているということは一体どういうことかというものである。

動線がきっちりしていることは平等性を高めているように思う。なぜなら皆等しく同じ商品を見て取れるからだ。歩く速度はあれど基本的には入った人から順番に購入できるという点も平等性に繋がっていると思う。一方で欲しいものが決まっている人にとってはそれは不便でしかなく、自由度は低いと言えなくもない。この辺りがスウェーデンの同調圧力から来ているかは定かではないが、そう感じることはできる。もしかしたら順路は国民性を象徴しているものの一つなのかもしれない。


平等とLagomという価値観

宿でスウェーデンの平等を調べてみるとたくさんの記事が出てきた。確かにスウェーデンは平等を重んじているらしい。特に男女平等に関してはかなり目立つようで、男女が自立していて、依存しない関係という前提から刑事犯罪でない限りは慰謝料を請求できないようになっているそうだ2)

なんとなく男性が慰謝料を払うようなイメージを持っていたが、平等性を高めるとはこういうことらしい。もちろん女性の雇用率も高くて産後復職しやすい文化があってこそだとは思う。1人ひとりが自立している社会が何を指すかの定義は難しいが、確かに国や文化が性別に関係なく自立をサポートしているようだ。

さらに調べるとスウェーデンにはLagomという考え方があるそうだ。元々バイキングたちが自分に必要な分だけ食べるということからきている言葉で、直訳すると「適度」「適切」

で「ちょうどいいのがいいよね」という意味合いのようだ3)。だから頑張り過ぎたりストレスを過度に貯めない傾向にあるらしい。さらには物を買うのも欲しいものではなく、必要なものを買うとのこと。

ここで薬局やIKEAのことを思い出した。動線がきっちりしていたのは考え方が反映されているものだったことに気が付く。ものの作りもこういった過不足のなさが反映されているからシンプルでありながら機能的なものができていくのだろう。

少し物足りなさを感じたガムラスタンの街並みは生きるのに必要充分なものが何か問いかけているようだった。きっと国民全体のコモンセンスのような規律と平等がこの国にはあるのだろう。「これくらいがLagomだよね」とみんなが言っている声が聞こえてくる気がする。人によっては確かに同調圧力とも受け取れるかもしれないが、大半の人は幸せでいられることが幸福度に繋がっているのかもしれない。

宿の外に出てみると雨が上がって2本の虹がかかっていた。虹に気が付かず素通りする人々に指差して教えると喜んで写真をとっていた。Lagomの国の過剰な虹は一層輝いているように見えた。

次回は7月25日(金)です。内容はオスロ編となります。

【注釈】
*ディストピア「架空の国」を意味しています。「各項目が最低値となると仮定されるディストピア(架空の国)」とどれほどの差があるか(Residual)を測る項目とされています。

【参考文献】
1)Caring and sharing: Global analysis of happiness and kindness | The World Happiness Report. (n.d.). Retrieved June 6, 2025, from https://worldhappiness.report/ed/2025/caring-and-sharing-global-analysis-of-happiness-and-kindness/
2)スウェーデンの社会制度から日本が学ぶべきこと――超高齢社会の医療の在り方を見直す | 良質な慢性期医療が日本を強くする!慢性期.com. (n.d.). Retrieved July 7, 2025, from https://manseiki.com/news/%E3%82%B9%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%87%E3%83%B3%E3%81%AE%E7%A4%BE%E4%BC%9A%E5%88%B6%E5%BA%A6%E3%81%8B%E3%82%89%E6%97%A5%E6%9C%AC%E3%81%8C%E5%AD%A6%E3%81%B6%E3%81%B9%E3%81%8D%E3%81%93%E3%81%A8
3)スウェーデン人の考え方【ラーゴム】とは?ラーゴムで生活が豊かになりエコになる!? – Spaceship Earth(スペースシップ・アース)|SDGs・ESGの取り組み事例から私たちにできる情報をすべての人に提供するメディア. (n.d.). Retrieved July 7, 2025, from https://spaceshipearth.jp/lagom/#%E3%83%A9%E3%83%BC%E3%82%B4%E3%83%A0%E3%81%AF%E3%82%B9%E3%82%A6%E3%82%A7%E3%83%BC%E3%83%87%E3%83%B3%E4%BA%BA%E3%81%AE%E8%80%83%E3%81%88%E6%96%B9%E3%81%AE%E5%9F%BA%E6%9C%AC


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