現場レポート

2025/06/13/金

寄稿:白衣のバックパッカー放浪記

白衣のバックパッカー放浪記 vol.33/ヘルシンキ編

初船旅

フィンランドへは船で移動した。タリン旧市街から歩いてフェリーターミナルまで向かう。タリンクという会社のフェリーに乗り、2時間で目的地まで到着する。予約したチケットでヘルシンキ港からバスでヘルシンキ中央駅まで行ってくれるらしい。

港に着くと大きなフェリーが出迎えてくれた。横浜の山下公園にある氷川丸より一回り大きい。人生で乗船したもので一番大きいだろうと思う。「こんなの乗ったことないけど、中に何があるんだろうか」空港のような搭乗ゲートで少しドキドキしながらその時を待った。

中に入ると大きく開かれたフリースペースが広がる。フードコートなども充実していた。その中で見たことのないエリアがあった。それは免税店が立ち並ぶエリアだ。どうやら嗜好品の高いフィンランドに行く前にここで買い込むらしい。船が出発するや否や客が店へと流れこみ、お酒やタバコを買いまくっている。中には買い物用のカートを持ち込んでビールを箱買いしている人もいた。

船の中の免税店

そう言えばタリンの宿のオーナーも普段はフィンランドに住んでいて、毎週船で通勤して働いていると言っていた。思っている以上にエストニアとフィンランドを行き来している人は多いのかもしれない。単にお隣さんということもあるが人々の暮らしの中に二つの国を往来する習慣みたいなものがあるように感じた。

ソンパサウナ

ヘルシンキ中央駅に着いて、乗るべき路面電車のホームに行こうとした。しかしなかなか辿り着けない。駅が入り組んでいて出口だと思う方に行っても出口がなかったり、2階だと思っても1.5階みたいなところに出たりだった。結局、駅を出て大通りらしきところから歩いて路面電車に乗ることになった。

路面電車から見た街並みは驚くほどの景色ではない。正直ヘルシンキに来ても観光する場所はほとんどないのではないかと思ったほどだ。確かに汚さは感じないけど、バルト3国のような旧市街などはなく、なんだかこじんまりしていた。

フィンランドでの目的は2つ。サウナとオーロラ。これらを確実に体験することを目的に旅程を組んだ。まず2泊ヘルシンキで滞在して、その後ロヴァニエミという街へ2泊した後、鉄道で移動してタンペレという街で1泊して再度ヘルシンキへ戻ってくる予定としていた。

「まずはサウナだ」と思い、宿に着くなりスタッフに「オススメのサウナを教えて?」と聞くと「それならソンパサウナだ。ヘルシンキで1番良いとこだ」と言う。行く前に何軒か調べていたのだが、聞いたことのない名前だった。とりあえず1番良いと言ってる人がいるのだから行ってみる価値があると思われる。水着を履いて最低限の荷物を持った。

フィンランドはご存知の方も多いだろうが、サウナがめっちゃくちゃある。人口560万人に対して、サウナが330万個という状況だ1)2)。日本のあるデータでは全国に1万程度のサウナ施設があるらしく、個人用のサウナもあるだろうから単純比較はできないだろうがフィンランドのその数はかなり多そうなことが分かる3)

サウナにあまり行かない人もいると思うので書いておくと、サウナには手順みたいなものがある。まずサウナで体を熱くした後、水風呂や川などに入り体を冷やして外気浴をする。この旅で初めて気がついたことだが、地図でフィンランドを見てみると無数に湖があることが分かる。つまり水風呂になるものが、ものすごく手に入りやすい環境なのだ。ソンパサウナもフィランド湾の横に位置していて、熱くなった体をすぐに冷やせそうな場所に位置しているようだった。

ソンパサウナがあるであろう場所に行くと、土の駐車場みたいな土地が広がっていた。「本当にこんな場所にあるのだろうか」と心配していると、奥からサウナ帰りらしい水着を着た人が歩いてきた。「とりあえずここで場所は良さそうだな」と思って歩いているとキリンのモニュメントが見えてきて「SOMPA SAUNA」とそこに書いてあるのが見えた。中に入っていくと多くの人々が湾に飛び込んだり、外気浴をしていた。

SOMPA SAUNAの入口

どうやら野外サウナみたいな場所のようだ。さらに見ていると奥では薪を切っている人がいる。チケットカウンターなどはない。ロッカーも南京錠で鍵をしている。調べてみるとSOMPA SAUNAは完全に無料で運営されている公園みたいなサウナだった。全てボランティアで運営されていて、薪は集められた廃材を誰かが割って使用していた。完全無料。

「これはすごい」と思い、写真を撮ろうとするとボランティアの中でも偉いっぽい人に「ここは撮影禁止だ、撮ったものを今消すんだ」とお叱りを受けた。「ごめんなさい、今消したから」と携帯のアルバムを見せて確認してもらった。確かに水着を必ずしも着ないといけない訳ではないらしい。叱られた後「お前は罰としてこのサウナに入れ!」と言われロッカーに荷物を入れて、南京錠を貸してもらい3つあるサウナのうちで1番温度の高いものに入ることになった。

サウナの中に入ると常連らしき軍帽を被ったおじいちゃんがサウナストーンに水をどんどんかけていく。水は石に触れるなり灼熱の水蒸気へと変わり体を打つ。そんな中おじいちゃんは手を緩めることなく水をサウナストーンへかけながらずっとスラングで話をしている。話に答えたいのは山々なのだが、声を出すと熱気で呼吸器官が耐えられそうにない。「もう限界だ」と言うところで外に出て、走って水の中に飛び込んだ。足は地面に届いていない。メガネも外しているからよく見えない。ただ水の中に浮かんで体を冷やし、外気浴をすると夕方のフィンランドの風が体に当たってなんとも言えない気持ち良さが体を包んだ。

あまりにソンパサウナが気持ちよかったので、味を締めた私は翌朝も行くことにしてみた。無料と言うこともあって足の進みは早い。朝行くと前日いたたくさんの人はどこかへ消えて利用者は3人とほぼ貸切状態であった。1人が常連のようで薪割りをしてくれていたので、私は薪を運んでストーブの中に入れて火起こしをした。ある程度サウナが暖かくなったところで水をサウナストーンにかけて熱くした。私も含めて3人とも全裸でサウナを楽しんだ。全裸で自然の中で外気浴をしてみるとなんだか自分がとても動物的な存在であるような感じがした。生まれたままの姿で木陰で休んでいる。日本だとできないこと。「フィンランドのサウナってこういうものなのだな」と確かにここには幸せを感じやすい環境があるように感じた。

何が幸せの由来か? 

2025年の世界幸福度ランキングが発表され8年連続でフィンランドが1位となった。日本は55位でパラグアイとボスニアヘルツェゴビナの間に挟まれている。ランキングは幸福に関する7個の指標(国内総生産、社会的支援、健康寿命、社会的自由、寛容さ、汚職の無さ・頻度、ディストピア+残余値)からなり、国内総生産と健康寿命以外の項目はフィンランドと日本の差が目立つ4)

放浪記のアンケートを見ていてもフィンランドに関係するコメントが多い。一体何が幸せの由来なのだろうか。フィンランドが1位になった要因としては自然とのアクセスがいいことが挙げられている。確かにサウナで感じたように自然との親和性は高いような気がする。ただ自分の中の幸せのイメージでは「ただ自然に近いこと」が幸せに結びついているとは思いきれなかった。

街中に繰り出してみると大きな図書館があった。Oodiと呼ばれるヘルシンキ中央図書館だ。独立100周年を祝う国家プロジェクトとして国から国民への贈り物として作られた場所らしい。どうやらフィンランドは緯度が高いため時期によっては夜が長くなり、家にいる時間が長くなった結果として読書をする人が多いようだ。

図書館に入ってみると「本の天国」というコンセプトの部屋に本がたくさん立ち並んでいた。もちろんフィンランド語で書かれているものばかりだ。本棚の周りには寝転びながら本を読むスペースが設けられていた。試しにそこに横になって周りを眺めているとだんだん眠くなってきて気づいたらその場で1時間昼寝をしてしまっていた。絶妙に寝やすい硬さの床と陽の光が気持ちいい。

図書館内部

自分の中で読書は登山に似ていると感じる。それぞれの読み方はあるものの、読み切るという分かりやすいゴールがあり、長編であればあるほど達成感が得られる。もちろん文字が頭の中で映像に変わったりすることも面白い感覚なのだが、達成感を得ることも幸せに結びついているような気がする。サウナと図書、体と自然を結びつけて生きている実感をありありと感じることが幸せに繋がっているのだろうか。残るオーロラをみた時にその感覚はまた変わるのだろうか。

次回は6月27日ロヴァニエミ編です。お楽しみに。

【注釈】
*ディストピア「架空の国」を意味しています。「各項目が最低値となると仮定されるディストピア(架空の国)」とどれほどの差があるか(Residual)を測る項目とされています5)

【参考文献】
1)人口: フィンランド 2025 – PopulationPyramid.net. (n.d.). Retrieved June 10, 2025, from https://www.populationpyramid.net/ja/%E3%83%95%E3%82%A3%E3%83%B3%E3%83%A9%E3%83%B3%E3%83%89/2025/#google_vignette
2)知られざるサウナ大国、エストニアの「サウナと共にある暮らし」とは | Forbes JAPAN 公式サイト(フォーブス ジャパン). (n.d.). Retrieved May 19, 2025, from https://forbesjapan.com/articles/detail/46094
3)サウナマーケット分析 – 株式会社アクトパス|温浴施設・温泉・サウナ事業の専門コンサルティング・プロデュース. (n.d.). Retrieved June 10, 2025, from https://aqutpas.co.jp/saunamarketbunseki/
4)Caring and sharing: Global analysis of happiness and kindness | The World Happiness Report. (n.d.). Retrieved June 6, 2025, from https://worldhappiness.report/ed/2025/caring-and-sharing-global-analysis-of-happiness-and-kindness/
5)ウェルビーイング(Well-being)とは?会社に導入するメリットと取り組み事例を紹介 | My Wells (マイナビ健康経営). (n.d.). Retrieved June 6, 2025, from https://kenkokeiei.mynavi.jp/step/20221223-1


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