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人事ブログ

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2023/09/25/月

寄稿:メディヴァの歴史

無人島に街をつくれ ー 先駆者列伝10:理念、クレドを掲げた強い組織づくり

幸い表参道院も16年3月には単年での黒字化を達成した。多少の時間はかかっても経営が安定したのは何よりだが、健保組合の間でイークの評判がいいことから、さらに分院を増やす検討作業に入るのは時間の問題だった。

一つひとつを手作りで積み上げるのでなく、しっかりと作り込んだものを全体で共有することで、以前の過ちを繰り返さないことが欠かせない。そこで始まったのが、ビジョン、クレドづくりである。

17年2月、丸の内院の野口由紀子院長、表参道院の藤本真千子院長(当時)や白根さん、メディヴァから出稿している運営メンバー、さらに瀬谷恵子マネージャー(現丸の内院事務長)が集まり基本方針検討会議が開かれた。手探り状態でスタートしたイークは開業10年という節目の年を迎えた。これからの10年も受診者に選ばれ、社員がやりがいをもって働いていけるクリニックにするためには何をするべきかを考える場である。

多くの荒波を乗り越えられたのは職場の一体感であり、中心となって束ねているスタッフそれぞれの貢献によるものが大きいことを改めて実感した。そこで、一体感を文字に落とし込み、ビジョンとクレドを作るとともに、組織風土を創り出す管理職の支援と育成に力を入れる方向が確認された。画に描いた餅にしないためには具体的なアクションプランも欠かせない。

近年、「パーパス経営」が叫ばれるようになり、大企業を中心にビジョンやマテリアリティ、ミッション、ストラテジー、バリューといった様々な段階での目標や理念をまとめるのが大流行だ。ただ、実際にそれを受け止める社員に腹落ち感がなければ、誰も顧みない旧来の社是、社訓と変わらない。高い金をかけて専門家を雇い、社内会議などに多くの時間を割くのは無駄な自己満足でしかない。

そこで考えたのは、シンプルな2階建て。10年後を見据えて法人が目指す「ビジョン」とそれを実現するための実務指針「クレド」である。経営陣が中心となって19年に策定した新ビジョンは

「『最善の予防医療』を提供することで、『かけがえのない人生』を支えたい 

~あなたとあなたの大切な人のために」

女性に向けた呼びかけのニュアンスは残しながらも、女性という言葉を使わないことで、男性にも伝わる内容となった。これを踏まえた施設の理想像(コンセプト)は経営陣が考えるが、論議には施設の運営に携わる管理職も加わった。

組織風土の土台を支えるクレドは一線のスタッフが練り上げることで納得感のある内容になった。「患者視点」「コミュニケーション」「プロフェショナル」「Change Challenge」「総合力」の五つである。

今までを振り返った時に、数々のよかったこと、悪かったことがあり、そこでの学び、気づきがあった。それぞれの整理に加え、次の10年に起きる環境変化で欠かせないこと、そして自分たちの価値観として譲れないものという3要素をまとめたものといえる。

たとえば、「患者視点」はプラタナスの理念であり、ミッション、つまり、生まれてきた理由そのもの、基本中の基本といえる。「change challenge」については、プラタナスのルーツの一つである亀田総合病院の基本姿勢を受け継いでいきたい、という想いが込められている。組織が大きくなるほど連携が欠かせない。そして一人ひとりが自分を磨かなければ組織の発展はない。そんな思いが込められたクレドは、個々のスタッフの個人目標にまで落とし込まれる。

その後、19年に有楽町院、20年には紀尾井町院が開業した。まずは丸の内、表参道両院の経験を踏まえて、新たに加わるスタッフにはビジョン、クレドをしっかりと理解してもらい、すでにあったイークから集められた人々は「新分院立ち上げプレジェクトチーム」として、開業や運営を支えた。「オールイーク」の実践である。

有楽町院は丸の内の徒歩圏に設け、これまでの受診者が移ってきやすい環境を整えた。Yahoo社員のための健診施設だった紀尾井町院は、前の運営者が失敗したのを引き継ぐ形での「居抜き開業」で、初めて男性も受け入れる施設となった。19年ビジョンが女性に限定していなかったのは、こうした展開の布石でもあった。

当初の紀尾井町院はYahoo社員の利用が中心だったが、それでも多くの健保との間で積み上げた実績から受診者の3割ほどはそれ以外の会社の健保加入者になった。特定の契約先に頼らないバランスのいい運営となったのは幸いだった。。

受診日を分けて男性も受け入れるようになったが、随所に女性への配慮が見られる。待合室にケープやひざ掛け、レッグウォーマーが常備されていのは、これまでと変わらないし、マンモ検査室では、受診者が気分が悪くなった時に備えて壁にクッションが貼られ、ソファーも置いてある。さらに検査室と隣の診察室の間の壁が抜かれ、廊下に出ないで移動できるよう配慮されている。

一方で人間ドックなど早く済ませたい男性も少なくないことから、検査結果の説明は当日の夕刻にオンラインで対応することも始めた。一年に一度の大事な日という女性の視点とは真逆の男性利用者のニーズは新たな発見であり、今後のためにイーク全体で共有している。

コロナ禍のなかで開業を決め、保健所に開設届を出した際には「本当にいいんですか」と真顔で念を押された紀尾井町院も、丸の内院との姉妹施設としてスタートした有楽町院も開業から1年で黒字になった。

政府がまとめた女性活躍・男女共同参画の重要方針2023には「事業主健診の充実等による女性の就業継続等の支援」という項目が盛り込まれ、「女性の健康支援に取り組む企業が社会において評価される仕組みづくりをより一層進める」という方針が掲げられた。政府の重要政策の一つに位置付けられたことになる。岸田首相は新しい資本主義を掲げ、人的資本を重んじている。ここでは健康経営の推進が重要な政策テーマになっている。

古代マヤ語で「風」を意味するihcを掲げたイークには、いま心地よい追い風が吹いている。丸の内院の開業から16年、何度も躓きながらも前に進んできた成果は大きな街となろうとしている。ただ、これまでも順調に運びだすと新たな壁に突き当たる繰り返しだった。ビジョンやクレドに込めた覚悟を忘れてはならない。