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2025/06/26/木
コラム
世の中に「ロジカルシンキング」という言葉はすっかり定着した印象です。
ロジカル(LOGICAL)もシンキング(THINKING)も、その組み合わせも一般的な単語だと思うのですが、「ロジカルシンキング」となると、コンサルティング会社の「手法」であったり、仕事で使う方法論という雰囲気が出てきます。さらに、ロジカルシンキングを実践することで打ち出の小槌のように正しい考えが出てくると思われている節もあります。
私はこのロジカルシンキングに対しての見方や雰囲気にずっと違和感を持ってきました。今回はその内容を説明させてください。
まず第一に、ビジネスや日常の世界でロジカルシンキングと言われるものはそれほどロジックとして厳密ではないことです。一番のポイントは、因果関係や、どうしてそうなるかという原理を用いて正しさが証明されているものは少なく、数字的な相関があるというようなレベルか、状況証拠を合わせるとそうかもしれないというレベルのものが非常に多いことです。
世の中を見れば、科学や工学の分野はそもそも全体がロジカルであり、原理、因果関係や根拠などによって正しさが証明されてきた世界です。自然はもともと物理的、化学的な原理に従ってロジカルに動いています。ですから、故障していない限り自動車は常に走るし、コンピューターは正しく動作する訳です。それに比べると、ビジネスの世界のロジカルはゆるいと言わざるを得ません。
次にアイディアや役に立つ考えを創出するためにロジカルシンキングが役に立つか?と考えてみるとどうでしょう。
実は、ロジカルに頭を働かせているだけではこれらは出てこない場合が多いと思っています。科学上の発見、技術的な発明などはある日突然に何の脈絡もなくひらめいたという例に溢れています。
このような場合には、ひらめいたものが本当に正しいのか、機能するのかを後からコツコツと確かめたり、なぜそうなるのかという原理を後から追究したり、説明したりすることになります。ここにはロジカルな思考が求められます。
もちろん、ロジックを追いかけていくことで、何かが発見されたり発明されたりする場合もあると思います。ただ、「理屈から言えばこうなる」という話は、既に分かっている理屈から言えば、ということが多いでしょうから、どちらかと言えばつまらないものが生まれる可能性のほうが高いように思います。
つまり、世に言うロジカルシンキングは、ロジカルという意味では広い範囲を厳密にカバーしている訳ではなく、それ自体が良い考えやアイディアを創出する特別に優れた方法でもない、と思います。その割には「万能である」かのように受け取られている場合が多く、これが私の違和感の内容です。
では、今世の中に言われている「ロジカルシンキング」には存在意義はないのか?というと、そんなことはまったくないです。むしろ非常に役に立つツールだと思います。私は「ロジカルシンキング」の受け取り方が違うと、その良さを生かせないばかりかマイナスに働くように思っていて、それではもったいないなあ、と思っています。
私自身、新卒でマッキンゼーに入ったときに、考え方を刷り込まれて、そのあとにずっとこのツールを活かして生きてきて多大な恩恵を受けてきたと思っています。ロジカルシンキングをどのように捉えて、どうやって活かしていけばよいのか、以下に私の考えをお伝えします。
なお、今回の内容はある程度、世の中で流布しているロジカルシンキングについて知っていて理解している方を対象に書いているつもりです。そうでなければ何のことを言っているのか分からない部分もあると思います。ただ、これから学ぼうと思っている方にとっても、大事だと思いますので、今はよくわからなくても、とりあえず頭に入れておいていただければ、あとから役に立つと思います。
まず、世の中のロジカルシンキングというのは、どう捉えたら良いのか、どの範囲をカバーしている何だと思えば良いか?ですが、
・多くの情報や考え方、起こっている現象、その原因かもしれない事を整理/分類するもの。
・整理・分類したもの同士の関係(因果関係、包含関係などを)や、まとめたときの意味について、ある程度の曖昧さを許容しつつ把握するもの。
・さらにもう一歩進んで、原因と結果の関係や、起こり得る確率についての推測を明示するもの。
だと考えます。因果関係や原理についてある程度意識したうえで、情報や考えを整理するためのツールだと捉えています。
そして、何の役に立つのかといえば、そういった整理をすることによって、
・重要なことが抜けていないか、特定のことだけに偏っていないかをチェックできる
・考えが自分にも他の人にも理解しやすくなり、間違いの発見や、議論がしやすくなる
・本当に頭を使って考えなければならない部分が明確に、そこに集中できるようになる
といったことだと思います。
人が考えたり情報収集したりする場合に、どうしてもその人なりの偏りというのが出てきますので、その偏りを正すことが可能となり、これまで考えたことで足りないなら、どのあたりが抜けているのかという「当たり」を付けることで、そこについて知恵を絞ったり、人の助けを借りることで物事が前に大きく進むこともあると思います。
そして、考えていることに理屈が通っているかというチェックができます。厳密ではないにせよ、「なぜそう言えるのか?」言葉の上で言えないことは正しくない可能性が高いと思います。
しかし、整理、分類、チェックだけでは本当に良い結果を得るには足りない場合が多いと思います。整理分類して因果関係の推測や意味合いについて考えるというレベルだと、言葉の上でどのようにでも出来る部分がありますし、大元の「考え方」「アイディア」というものがスカスカだと、それらを整理しただけで、何か大きな達成があるとは思えません。
私の中にあるイメージは、エンジンのない自動車のようなもので、そのなかでいくらブレーキやハンドルについて工夫をしても、そもそもその自動車は走らない、というようなことです。
さきほど書いた、受け取り方による「マイナス」というのは、ロジカルに考えること(だけ)で何かを創出できると思って、さらにそのことに頭脳のエネルギーを費やしすぎると、斬新なアイディアや突破力のあるような考えや取り組みへの勢いが削がれかねないということです。
大事なことは、何か目的を持って物事に取り組むことと、その成功や達成、あるいはトラブルの解決のために、まずは「どうするか?」と頭を使うということです。そこから色々なことを考えたり調べたりしたときに、それをうまく整理したり、多く人と共有し議論し、活動を方向付けることで、成功の確率が上がるのだと思います。
このように、ロジカルシンキングというのは、目的と思考や活動があって初めて生きてくるツールであって、単独で何かを生み出すということは少ないのではないかと思います。強い目的意識とそれを遂行するエネルギーに溢れていて、情報や考えも溢れてしまって整理しきれない、とか、偏りがあって方向付けを正しくする必要がある、といった人が活用すると大きな成果が出るように思います。
いずれにしても、正しく位置付けることによって、様々な場面で役に立つ考え方・ツールだと思うので、そのように捉えられて世の中に新しい成果、皆の役に立つ成果が多く出ることを願っています。(岩崎克治)
【過去ブログ発掘シリーズ】(初出 2018年4月)
筆者プロフィール
岩崎克治 Katsuji Iwasaki 株式会社メディヴァ取締役
大阪大学大学院 情報工学分野 修士課程修了。
マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントを経て、1997年に(株)インクス入社。ITによる高速金型事業の立上げ、クライアント企業の製品開発プロセス改革等に従事。2002年メディヴァに参画。
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