2026/02/26/木
診療報酬改定
— 改定率+3.09%の内訳、賊上げ要件の厳格化、物価高対策を読み解く —
【執筆】シニアマネージャー草野 康弘
目次
令和8年度診療報酬改定の答申が公表されました。本コラムシリーズの第1弾では、今回の改定の全体像を把握する上で最も重要な3つのテーマ――改定率の変遷、ベースアップ評価料の拡大、物価高騰対策――について解説します。
今回の改定率はプラス3.09%と、近年では稀に見る大幅な引き上げとなりました。ただし、その内容を読み解くと、単純な収益改善ではなく、「賊上げ」「物価対応」「経営悪化への補填」という明確な使途が指定された内容となっています。
前回の令和6年度改定では、本体プラス0.88%(うち賊上げ特例分0.61%)という限定的な引き上げにとどまりました。
今回は、プラス3.09%(令和8・9年度の2年度平均)という極めて大きな改定幅となりました。
▶ 改定率の内訳
| 項目 | 改定率 |
| 賊上げ目標分 | +1.70% |
| 物価対応分 | +0.76% |
| 経営悪化への対応分 | +0.44% |
| その他を含む合計 | +3.09% |
内訳からわかるとおり、今回の増収分はその使途が明確に指定されています。実質的には、内部留保を増やすための原資ではなく、コスト増を相殺するための補填的性格が強い内容と言えます。
| ポイント +3.09%という数字だけを見れば大幅なプラス改定ですが、賊上げ・物価対応・経営補填と使途が指定されており、「医療の質を高める取り組みに点数がつく」という本質は変わっていません。 |
令和6年度に新設されたベースアップ評価料は、令和8年度改定でさらに踏み込んだ設計となりました。
▶ 高水準なベースアップ目標
令和8・9年度のベースアップ目標は、各年度プラス3.2%、看護補助者や事務職員についてはプラス5.7%という高水準が設定されています。
なお、目標値と実際に報酬として反映される率は異なる可能性があるため、自院の状況に応じた具体的な影響額の試算が必要です。また、評価料の使途が緩和され、夜勤手当の増額への充当も可能となりました。
▶ 「減算規定」の新設――賊上げ未実施に対する厳しい措置
今回特に注目すべきは、「減算規定」の新設です。令和8年3月末時点でベースアップ評価料を届け出ていないなど、賊上げを実施していない医療機関に対し、入院基本料等から一定点数を差し引く措置が導入されます。
例えば、急性期一般入院料1を算定している場合、1日あたり121点のマイナスとなります。これは経営への影響が非常に大きく、前回届出を見送った医療機関にとっては、早急な対応が求められます。
| ポイント ベースアップ評価料の届出が「任意」から「実質的に必須」へ。未届出の場合の減算影響を試算し、早期に対応方針を決定することが重要です。 |
▶ 「物価対応料」の新設
コストプッシュ型のインフレに対応する形で、従来の枚組みとは別に算定できる「物価対応料」が、外来・入院・歯科・調剤・訪問看護の各区分で新設されました。
▶ 入院基本料の引き上げ
入院基本料等の底上げも図られています。例えば急性期一般入院料1では、1,688点から1,874点へと引き上げられました。急性期は材料費や医薬品など経費がかさむため、相対的に手厚く設定されていますが、他の入院料も基本的にはプラスとなっています。自院の入院料区分ごとの影響額を試算しておくことをお勧めします。
▶ 患者負担の見直し:食費・光熱水費
患者側の負担では、入院時の食費基準額が730円となり、新たに光熱水費の基準額と1日60円が加算されることになりました。これに伴い、院内の掲示物や患者への説明資料の更新が必要となりますので、早めに準備を進めておきましょう。
| ポイント 物価対応料の新設と入院基本料の引き上げは、物価高に耐えてきた病院にとっては息を吹き返す機会です。ただし、賊上げを実施できない病院は減算の対象となり、地域で存続していく上での厳しいメッセージも含まれています。 |
| テーマ | 令和6年度改定 | 令和8年度改定(今回) |
| 改定率 | 本体+0.88%(賊上げ特例0.61%含む) | +3.09%(賊上げ1.70%、物価0.76%、経営補填0.44%) |
| ベースアップ評価料 | 新設(届出任意) | 目標+3.2%/+5.7%、未届出に減算規定新設 |
| 物価対応 | — | 「物価対応料」新設(全区分) |
| 入院基本料 | — | 引き上げ(例:急性期一般1 1,688→1,874点) |
| 患者負担 | — | 食費730円、光熱水費60円/日新設 |
今回の令和8年度改定は、+3.09%という近年稀に見る大幅なプラス改定となりました。しかしその内容は、賊上げ・物価対応・経営補填という明確な使途が指定された、いわば「条件付きのプラス」です。
特にベースアップ評価料の減算規定は、「賊上げを実施できない病院は地域に存続し続けることが難しい」という強いメッセージを含んでいます。物価高に対して持ち出しで耐えてきた病院にとっては息を吹き返す機会である一方、経営改善と処遇改善の両立が求められる局面でもあります。
メディヴァでは、今回の改定に基づく収益シミュレーションなど経営改善のご支援を行っております。自院への影響分析やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。
執筆者
草野 康弘
東京都出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業。在学時は医療者と一般市民が相互理解を得るためのヘルスコミュニケーションについてフィールドワークを中心に研究を行う。 大学卒業後、外資系医療機器メーカーでの新規市場開拓営業に従事した後、2014年1月よりメディヴァに参画。病院の経営企画職等の現場実務を経て、医療機関の事業再生を専門としてプロジェクトマネジメントに従事。現在は患者視点の医療を実現すべく、全国の中小病院をコミュニティ・ホスピタルに変革することをミッションとして取り組んでいる。