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2026/02/26/木

診療報酬改定

令和8年度(2026年度)診療報酬改定③|在宅医療・訪問看護の「質と効率性」が問われる時代へ

— ホスピスモデル規制から重症患者シフトまで、5つの重要論点を読み解く —

【執筆】シニアマネージャー草野 康弘

はじめに

令和8年度の診療報酬改定の答申が公表されました。今回の改定では、在宅医療と訪問看護の領域において、単なる「訪問回数」ではなく「質と効率性」を重視する方向性が一層鮮明になっています。
特に注目すべきは、患者の重症度に応じた医療資源の適正配分、薬剤の適正使用、そして施設形態に見合った評価体系の整備です。かねてより業界内で予想されていた、いわゆるホスピスモデルへの規制強化もついに現実のものとなりました。
本コラムでは、令和6年度改定からの流れを踏まえつつ、今回の改定における5つの重要論点を解説します。

今改定のキーワード:

  • 重症患者への資源集中
  • ポリファーマシー対策
  • 同一建物評価の精緻化
  • 包括型の新設
  • 精神科訪問看護の強化

01  地域における「積極的な役割」の評価強化

令和6年度改定では、ICTを活用した多職種間の情報共有(在宅医療情報連携加算など)や、急変時の往診体制整備が推進されました。

今回の令和8年度改定では、その方向性をさらに発展させ、地域で重症患者への対応や看取りを積極的に担う医療機関を、より高く評価する仕組みが導入されました。

主な変更点
従来の「在宅緩和ケア充実診療所・病院加算」が改編され、新たに「在宅医療充実体制加算」が新設されました。単一建物患者1人の場合で800点と、地域で積極的な役割を果たす医療機関への評価が大きく引き上げられています。

ポイント
地域での看取り・重症対応を積極的に担う医療機関ほど、高い評価を受ける構造へ。自院のポジショニングの見直しが求められます。



02  訪問診療の「適正化」と重症患者へのシフト

令和6年度改定では、特定患者に対する月5回以上の頻回訪問に対する評価の適正化が行われました。今回の令和8年度改定では、さらに踏み込んだ内容となっています。

注目すべき新要件
「在宅時医学総合管理料」等の月2回以上訪問の区分において、「訪問患者のうち重症患者の割合が20%以上」であることが算定要件に追加されました。
これは、要介護度の低い患者への一律的な頻回訪問を見直し、より医療的ニーズの高い重症患者へ医療資源を振り向ける狙いがあります。

ポイント
現時点で20%という基準は比較的達成しやすい水準ですが、今後の改定で段階的に引き上げられる可能性があります。重症患者の受入体制を今から強化しておくことが重要です。


03  ポリファーマシー・残薬対策 ― 医師と薬剤師の「同時訪問」

高齢者の多剤服用(ポリファーマシー)や残薬の問題は、在宅医療において長年の課題でした。令和8年度改定では、この問題に正面から取り組む新たな評価が設けられました。

新設された評価
訪問診療を行う医師と薬局の薬剤師が同時に患家を訪問し、服薬指導を行った場合を評価する「訪問診療薬剤師同時指導料(300点)」が新設されました。
医師と薬剤師が同時に訪問することで、処方意図の共有や残薬の確認がリアルタイムで行えるようになり、より効果的な服薬管理が期待されます。今後は、服薬支援ロボットなどのテクノロジー活用と組み合わせた取り組みも注目されるでしょう。

04  訪問看護における「同一建物」評価の見直しと包括型の新設

令和6年度改定では、訪問看護ステーションの24時間対応体制の持続可能性や、緊急時の訪問評価が見直されました。令和8年度改定では、高齢者施設等への訪問看護の評価体系が大幅に変更されています。

人数と日数による評価の細分化
同一建物に居住する利用者への訪問看護について、利用者の人数や月あたりの訪問日数に応じた、よりきめ細やかな評価体系に見直されました。また、同一敷地内の建物も「同一建物」とみなす規定が新たに設けられています。

包括型訪問看護療養費の新設
高齢者向け住まい等に併設・隣接する訪問看護ステーションが、頻回な訪問を必要とする利用者に24時間体制で対応する場合、1日あたりで包括的に評価する新しい枠組みが創設されました(例:訪問看護時間90分以上で14,010円)。

ポイント
施設併設型の訪問看護ステーションにとっては、評価体系の大きな転換点です。自施設の運営モデルへの影響を早急に精査する必要があります。


05  精神科訪問看護への新たな評価

令和8年度改定では、精神障害にも対応した地域包括ケアシステム(通称「にも包括」)の構築を推進する観点から、精神科訪問看護の分野にも新たな評価が設けられました。

機能強化型の新区分
支援ニーズの高い精神科訪問看護の利用者を受け入れ、24時間対応体制や関係機関との連携体制を整備しているステーションを対象に、「機能強化型訪問看護管理療養費4(9,030円)」が新設されました。精神科領域における地域包括ケアの充実が、今後さらに加速していくことが見込まれます。

令和6年度 vs 令和8年度 改定比較

テーマ令和6年度改定令和8年度改定(今回)
地域での役割ICT活用・情報共有の推進、急変時往診体制の整備「在宅医療充実体制加算」新設(800点)、看取り・重症対応の積極評価
訪問診療の適正化月5回以上の頻回訪問の評価適正化重症患者割合20%以上を算定要件に追加
薬剤管理「訪問診療薬剤師同時指導料」新設(300点)
同一建物評価24時間対応体制・緊急時訪問の見直し人数・日数による細分化、包括型訪問看護療養費の新設
精神科訪問看護「機能強化型訪問看護管理療養費4」新設(9,030円)

まとめ ― 今後に向けて

今回の令和8年度診療報酬改定は、在宅医療・訪問看護の領域において「量から質へ」の転換を更に明確に打ち出すものとなりました。
重症患者への対応力強化、多職種連携によるポリファーマシー対策、施設形態に応じた適正評価など、いずれも「地域で本当に必要とされる医療を、適切なコストで提供できているか」が問われる内容です。
特に、重症患者割合の算定要件化は今回20%という水準ですが、今後段階的に引き上げられる可能性を視野に入れ、早い段階から体制を整備していくことが求められます。

メディヴァでは、今回の改定内容を踏まえた経営シミュレーションや体制整備のご支援を行っております。自院への影響分析やご相談がございましたら、お気軽にお問い合わせください。

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執筆者

草野 康弘
東京都出身。慶應義塾大学総合政策学部卒業。在学時は医療者と一般市民が相互理解を得るためのヘルスコミュニケーションについてフィールドワークを中心に研究を行う。 大学卒業後、外資系医療機器メーカーでの新規市場開拓営業に従事した後、2014年1月よりメディヴァに参画。病院の経営企画職等の現場実務を経て、医療機関の事業再生を専門としてプロジェクトマネジメントに従事。現在は患者視点の医療を実現すべく、全国の中小病院をコミュニティ・ホスピタルに変革することをミッションとして取り組んでいる。