2025/10/09/木
大石佳能子の「ヘルスケアの明日を語る」
10月に入り、漸く涼しくなってきました。
今年の夏を皆様はどう過ごされたでしょうか。
今月の半ばで万博も終わりますね。
万博は、元々全く期待していませんでしたが、6月に仕事で行って感動しました。
コモンズ面白いやん!夕方の大屋根リング気持ちいい。ドローンショー不思議で楽しい!
あんなに気味悪がっていたミャクミャクも、意外と可愛い!買い損ねましたが、今更ながらぬいぐるみ欲しい!!
再度訪問と思っていたら、夏の暑さにめげて行かず。気が付いたら予約が取れなくなっていました。(涙)
さて、本題に。
東京都が医療機関への電子カルテ導入率100%を目指しています。そのための、東京都医療DX推進協議会と部会の委員に任命されました。
7月に1回目の協議会があり、先月部会が開催されました。
私は初回協議会の直前にお話をいただきました。
協議会委員は「学識経験者」(大学の教授等)、「関係団体代表」(医師会、病院協会、看護協会等)、「患者」(認定NPO法人ささえあい医療人権センターCOMLの理事長 山口育子さん)、「公益機関」(保険者、社福)、「行政」、「都職員」です。
私は一応「学識経験者」に入れていただいています、、、笑。
東京都が目指している電子カルテ導入率100%は国に先駆けた偉業です。小池百合子知事の肝いりだそう。
協議会の主たる議題は、どうすると100%に到達できるか?のようです。
一方で、「電子カルテが入ったら、医療機関や患者にとって具体的なメリットはどこにあるのか?」が論点になるとのこと。
都民の税金を使って補助金を出すので、議会でも争点になるとのこと。特に先日の都議会選で、政局も不安定なので、「医療機関と患者へのメリット」について、明確に答えておきたい、と都は思っているのでしょう。
私達は、2000年の創業時に用賀アーバンクリニックを開設した際、当時漸く出始めていた「診療所向け電子カルテ」を導入しました。
電子カルテを入れると、院内のコミュニケーションは各段に良くなります。当院は、あえて院内薬局にしていたのですが、薬剤師は医師のカルテを読んで、それに沿った調剤をします。処方に疑義があれば、カルテまで戻って質問できるので、処方ミスも減ります。
加えて、当時同じく出始めだったインターネットを通して、セキュリティを確保したうえで、患者がいつでもどこでも自分のカルテが見られる、という「オープンカルテ」を仕組み化しました。
電子カルテなので、カルテを印刷して患者に渡すこともしていましたが、何かあった時にはその紙をもっていなくても、病歴を伝えることが出来ます。
その後も、電子カルテ上の各種情報の共有や活用については色々実験を重ねてきたので、その時の経験が求められたのだと思います。
さて、都職員は電子カルテの導入に際する補助金事業を行い、導入の相談窓口を設置し、各医師会を回って説明を実施し、、、。大変な労力を掛けて、普及に努めています。
令和7年の医療機能情報定期報告によると、導入率は東京都内の病院へは70.9%、一般診療所へは58.7%だそうです。
令和2年の段階では、病院が54.1%、一般診療所が55.3%だったので、病院は大きく伸びています。その時点で、全国はそれぞれ54.1%(都と同等)、49.9%(都より少ない)です。
すでに70.9%も入っているなら、残り約3割は楽勝ではないか、と一瞬思うのですが、実はそうではありません。
都内の未導入病院は184箇所。そのうちの8割が病床200床未満の中小病院です。
地域的には、中央区100%、品川区93.3%、江戸川区90.9%、台東区87.5%、世田谷区81.5%、練馬区81%と、23区内は比較的高いところから、大田区52%、北区52.6%と低いところまであります。傾向としては古い地域のほうがやはり電子カルテ化は進んでいないように見受けられます。
また精神科単科の病院は、都内に49箇所ありますが、半分以下の23箇所にしか電子カルテは入っていません。


未導入の病院は、中小規模、古い地域、精神科と難しいところが残っている感じです。
そういう病院での導入ハードルをどう越えるのか?また敢えて導入するメリットをどう打ち出すのか?
補助金をつけ、鐘や太鼓を鳴らしても各病院がその気にならないと導入されないので、具体的に病院が気にしていることに丁寧に対応し、解を見つけていくしかないと思っています。
多くの中小病院や精神科病院は経営が厳しく、導入時の初期投資だけではなく、ランニングのフィーが苦しく、どうやってコストを抑えるか、が課題です。
同時に、それを上回るメリットをどう出すか?を考えなくてはなりません。実は、大きな病院でも電子カルテを入れただけでは、収益向上や効率化に大きなメリットが出るわけではありません。
勿論、用賀アーバンクリニックで私たちが経験したような院内情報連携のメリットはありますが、病院の電子カルテは桁違いの投資が掛かるので、それだけではなかなか正当化しにくい現状があります。
導入メリットを確保するためにはDX化を進め、業務を効率化する必要があります。最近は医師が診療の片手間にAIやRPAを使って作ったツールなどが出ています。これらは現場のペインから生まれたものが多く、使い勝手が良いです。
しかし殆どの電子カルテは、インターネットに接続できず、連携できるシステムが限定的で柔軟性が低く、DX化へのステップに進みにくくなっています。
各電子カルテメーカーは、AI等を活用したDX化に寄与するシステムやアプリを開発中ですが、必ずしも現場運用に適しておらず、高価な場合も多く、いわゆるベンダーロックインが発生しています。
また、特に中小病院や精神科病院の場合、システムの専門家を雇用することは難しく、セキュリティの確保が課題となります。私たちもコンサルタントとして、ハッカーにやられた病院にSOSで呼ばれることはありますが、門も玄関の扉も金庫も開いているような「入ってください」といわんばかりのところも見かけます。
電子カルテ未導入病院にとってもメリットがあるように、上記の課題の通り、
①コストを抑える
②DX化を通した業務効率化ができる
③セキュリティが確保できる
④できれば収入増につながる
をどう確保するのか?に答える必要があります。
次回のメルマガでは、どのようなシステムを組み合わせて構築していくべきかの構想を、事例も交えながらご説明させてください。