現場レポート

2025/05/27/火

大石佳能子の「ヘルスケアの明日を語る」

「にっぽんの宝物」と医療インバウンド

もう3か月も前のことです。
2月27日に「にっぽんの宝物」JAPAN大会・グランドグランプリの審査員を務めました。最近、また広尾の割烹で「にっぽんの宝物」のグランプリ商品を幾つか頂きました。
その時の感動と医療との関係をお伝えします。


「にっぽんの宝物」の審査員には、パンツェッタ・ジローラモさん(ファッション雑誌『LEON』のちょい悪オヤジ)、十碧れいやさん(元タカラジェンヌ)、青木信明さん(MKタクシー会長)、堺井啓公さん(日本EXPO協会担当局長)、などなど。その中に何故か、旧知の安宅和人さん。そして、、謎に私。


「にっぽんの宝物」は、株式会社にっぽんの宝物が運営しています。日本には世界に誇れる素晴らしいものが数多くあります。
しかしながら、マーケティングが下手くそ過ぎる、、、。また、多くの場合、伝統はありますが、進化が無い、、、。せっかくの宝物が、磨かれず、見向きもされず、廃れていく。なんと悲しく、モッタイナイことか、、、。
これを救おうと立ち上がったのが、株式会社にっぽんの宝物の代表の羽根拓也さんです。


羽根さんは、アメリカからアクティブラーニングを日本に持ち込んだ方。
(余談ですが、うちの息子は中学受験塾でアクティブラーニング専門講師をしていました。まさか、そのバイトの起源が羽根さんだったとは、、。)


「にっぽんの宝物」では日本各地の隠れた魅力ある商品やサービスを発掘することと、それを世界レベルの商品に育て上げます。それを通して地方創生を目指します。
地場メーカーが自治体や商工会、地方企業と組んで、異業種コラボの中で、宝物の原石をアクティブラーニングで参加者が磨き上げます。


地方セミナー、地域大会と勝ち上がってきた宝物の卵たちが、JAPAN大会・グランドグランプリに登壇します。JAPAN大会で上位に入賞すると、世界大会に進出し、同じく勝ち上がってきた各国の宝物たちと競い合います。今年の世界大会は大阪・関西万博で6月23日に行われます。
非常に注目されているイベントなので、世界各地の有名シェフが買付けます。一気に世界的大ヒット商品になることも多いそうです。


食・工芸雑貨・観光の3部門がありますが、審査会に臨んだ個人的意見では食品のイメージが強烈です。美味しすぎます!作り手の人物も評価対象で、ピッチでは、伝統への思いや、商品への愛、お客様に届けたいメッセージを伝え、涙ものです。


今年のグランプリの優勝者は、宮城県のカフェレストランSEASAWの「浜野ののりだれ」、高級海苔で作った和風ジェノベーゼソースでした。震災で壊滅的打撃を受けた浜の復興を目指し、夫婦で開いたカフェで、その浜の海苔を使い、和にも洋にも合うソースを作りました。
後日伺ったところ、地方セミナー、地方グランプリの中で色々な人が貰うフィードバックを真摯に聞き、商品の改良に努めたそうです。優勝が決まった時、壇上で感極まり泣き崩れた二人の姿も感動的でした。


人物が凄かったのは八丈島のリゾートホテルの経営者です。行き詰ったリゾートホテルや牧場を順々に買い、再生を目指しています。それらの牧場や養鶏場の食材で作ったフレンチトーストを出品しました。ピッチを聞くと、特にその分野の専門家というのではなさそうで、本当に大丈夫か、と心配になりますが、応援したくなります。勿論、フレンチトーストは絶品でした。


昔、夏休みに八丈島で一週間滞在したことがあります。温泉に入り、島鯵の寿司を辛子で食べました。遠島遠流の島なので、鄙びた感じが良かったですが、特にすごい、という感じはしませんでした。最近は、島の診療所の医師が不在になったので、うちの院長が個人的に週末ごとに在宅医療をしに行っていました。医療業界では「あるある」の地域の一つ、という認識でした。


ところが、羽根さんの手に掛かると、この島が「宝物」として輝きます。
八丈島は11月下旬から4月上旬にかけてザトウクジラが子育てのために訪れます。足湯や露天風呂につかりながらクジラを見ることができます。夕日とともにクジラが見られる絶景スポットもあるそうです。
にっぽんの宝物が作ったプロモーションビデオでは、パンツェッタ・ジローラモさんが、温泉に浸かりながらクジラを観ています。「同じ体験をしたい!」と思わせ、世界から観光客を呼ぶ。これぞ、マーケティングです!

優勝したご夫婦を表彰する安宅和人さん

さて、最後に何故私が宝物グランプリで美味しいものを食し、感動体験をするという僥倖に巡り合えたのか、というご説明です。


ご紹介は経済産業省からでした。
にっぽんの埋もれた宝物の一つに「にっぽんの医療」があります。日本の医療機関は非常にまじめに、質の高い医療を提供しています。ただ、世界的には質が高いことは漠然とは知られていますが、具体的か、というと、残念ながらそうではありません。
治療目的で来日する患者はまだまだ少数で、医療インバウンドでは、タイ、マレーシア、韓国などの国々がはるかに先を行っています。日本の医療はまさしく、隠れた「にっぽんの宝物」です。


日本のお家芸である健診、予防でインバウンドを呼ぼうとすると日本の食や観光資源とのコラボが重要になってきます。
インバウンド健診に取り組んでいる地方が組む宿泊施設が、団体客用の温泉旅館というケースは結構あります。これではトータルに満足する体験は提供できないですし、SNSでの拡散も望めないでしょう。
経産省から「にっぽんの宝物」をご紹介されたのも、医療と日本の素晴らしい観光資源や食などの宝物同士のコラボができないか、という発想でした。


例えば、大学や高度医療機関が集まる京都で健診を受け、MKの観光専用タクシーに乗って琵琶湖湖畔に行き(京都と琵琶湖はすぐ目と鼻の先です)、「にっぽんの宝物」グランプリで3位に輝いたすっぽん出汁のヘルシーで美味しいラーメンを頂き、古民家のお宿に泊まる。こういう素敵な体験がコラボすることによって生まれ得ます。


医療機関は広告規制のせいもあり、マーケティング力は弱いです。特に海外向け発信は、英語のHPを見て気絶しそうになったこともあるくらい下手くそです。


株式会社にっぽんの宝物が、日本の埋もれた資源を発掘し、磨いたように、日本の医療機関や医療サービスを発掘し、磨き、観光や食とコラボし、世界に打って出る。これが、保険財政が厳しい中、日本の医療を守る方策の一つだと信じています。