2026/04/27/月
医療・ヘルスケア事業の現場から
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【執筆】コンサルタント山田/【監修】取締役 小松大介
目次
昨今の病院経営において、土日祝日を含めた休日リハビリテーション(以下、リハ)の提供は、もはや回復期リハ病棟だけのモデルではなく、急性期から包括期まで病院全体に広がる重要な課題となっています。
ご存じの通り、急性期を中心とした入院期間の過度な安静は、患者の日常生活動作(ADL)の低下を招くことが指摘されています。これを防ぐために、入院早期から休日も含めて切れ目のないリハを提供し、できる限り活動量と身体機能を落とさないことが重要とされており、実際、休日リハを提供することで平均在院日数の短縮や、機能予後が改善するという報告が散見されています(出典:Kinoshtia S. Arch Phys Med Rehabil 2017; 98: 701 6.、Hasebe K. Geriatr Gerontol Int 2018;18:1143 6.)。
診療報酬改定もこの方針を後押ししており、2024年の改定で新設された地域包括医療病棟では休日リハの提供体制が要件化されました。また、2026年改定でも回復期リハ病棟における365日リハ体制が入院料1~4を問わず完全要件化されたり、疾患別リハを休日に提供した際に取れる「休日リハビリテーション加算」が新設されたりと、休日リハ提供体制の有無が病院収益に影響する度合いはここ数年でますます高まっています。
一方で、これまで休日リハの提供を行っていなかった病院にとって、この体制変更は容易ではありません。長年「土日休み」という労働条件で勤務してきた職員に対し、休日出勤を強いることは、現場の強い反発や離職リスクを招きやすく、場合によっては院内における組織対立や大量離職によるリハビリ機能の停止を引き起こしかねません。
本稿では、休日リハ導入に伴って多くの病院が陥りやすい組織上の問題と、それを乗り越えるための具体的な解決プロセスについて、実際の支援事例に基づき整理してまいります。
急性期一般病棟における休日リハの提供状況を調査した報告(出典:令和4年度入院医療等における実態調査(施設票))では、土曜日に実施している病院は71.6%と高いですが、日曜日は32.1%、祝日は43.2%に留まります(平日よりも頻度を下げて実施している割合も含む)。また、昨今注目されている「リハ・口腔・栄養連携実施加算」の導入について調査したアンケート結果(出典:令和6年度入院・外来医療等における実態調査)では、当加算を取得しない理由について「土日祝日において平日の8割以上のリハの提供が困難」という回答が最も多く、休日リハの導入に課題を感じている病院が多いことがわかります。
休日リハ導入の課題は、「休日に出勤できるリハ職員の不足」が最たるものとして挙げられます。しかし、コンサルタントとして現場の議論に入り込むと、スタッフ確保を困難にしている真の理由は、単なる人員不足ではなく、「経営方針に対する現場職員の理解や協力の不足」にあり、これを紐解くと、経営陣による現場職員への配慮の不足や、それに伴う職員の経営方針に対する不満など、組織的な問題に起因することが多いと言えます。
休日リハの導入を巡り、経営層と現場が激しく対立する場面では、多くの場合で以下の4つの問題が発生しています。
経営陣が「医療的な休日リハの必要性」や「病院の存続」、「地域医療の役割」という大義名分を掲げても、実際に生活スタイルが変化するのは現場の職員です。子育てや介護、配偶者の就労状況により、休日出勤が物理的に困難なケースも少なくありません。こうした個々の生活への支障について、経営陣が配慮や想像力を欠いたまま対話に臨めば、現場の強い反発を招いてしまいます。
休日リハの導入は、現場職員にとって働き方が変わる重大な決定です。その当事者となるリハ部門に対して事前の相談や意見交換もなくトップダウンで方針が決定された場合、当然ですが、現場は経営陣に対して大きな不信感と反感を抱きます。「自分たちは単なる労働力として扱われている」という心理が、組織的な抵抗を強める結果となってしまいます。
これは多くの病院で見られる課題ですが、病院内における各部門の管理職は、現場スタッフの意見を集約して伝える「代弁者」としての役割意識は強いものの、法人の経営方針を理解し、それを現場に伝えて調整する「経営視点を持ったマネージャー」としての役割は十分に果たせていない場合があります。これは個人の能力というよりも、従来の働き方としてこうした期待役割や経営への参画機会が与えられてこなかったことが問題であることが多いです。結果として、管理職が経営と現場の板挟みになり、調整機能を失ってしまうことがあります。
休日リハの導入に伴い、具体的な出勤回数や勤務内容などのイメージが持てない場合、職員は「休みが減る」「患者のリスク管理が出来ない」といった漠然とした不安を抱き、反対姿勢を強めてしまいます。また、具体的な情報が不足しているために、何が問題かが把握できないため、建設的な意見も生まれにくく、結果として導入の議論が硬直してしまいます。
これらの問題を打破するために、私たちは実際の支援事例を通じて、以下3つの解決プロセスが必要と考えます。
まずは経営陣から「なぜ今、当院に休日リハが必要なのか」という情報を現場へ発信することから始めます。近隣病院の動向、診療報酬改定による収益への影響、そして何より「患者のADLを守る」という臨床的意義を、数字と理念の両面から繰り返し伝えます。重要なのは、一度の説明で終わらせるのではなく、複数回に渡って繰り返し発信することです。経営トップによる方針の提示は「現場に100回伝えて1伝わる」と言われます。実際、多くの支援事例でも、全体会議など一度の説明では不十分なケースが多く、リハ部門を中心に反対意見が出て、議論が紛糾する場面も少なくありません。このような場面において、経営層と関連する部門管理職が集まる導入プロジェクトを立ち上げ、週1回など定期的に会議を行って方針をすり合わせていくとともに、リハ部門の全職員と経営層とが直接話し合う機会を設けることで、ようやく導入について職員と対話ができる土壌が出来ました。このように当該部門との意見交換を複数回重ねることで、休日リハの導入を「単なる増収策」から「病院の生き残りを懸けた重大な施策」という共通の目的へと昇華させることが重要です。
休日リハ導入について大まかな方針が固まれば、次に手当の有無や出勤日などの勤務条件について検討を進めます。この時重要なのは、経営側が一方的に条件を提示するのではなく、リハ部門の管理職を巻き込んで一緒に策定することです。これにより管理職に「どうすれば現場の職員が理解・協力してくれるか」という視点で議論を促すことができ、それまでの現場意見の代弁者から、現場を調整してくれる仲介役への役割変容を促します。実際の支援事例でも、このプロセスを介することで、経営層とリハ部門が対立する構図から、管理職が現場の調整に回る構図へと変化する大きな転換点となりました。このことは、期待役割を口頭で依頼するだけでは十分ではなく、実際に「経営に参画している」という自覚を持ってもらうことがより効果的であることを示唆します。
勤務条件と同時に検討すべきは、実際のシフト作成方法や、対象患者の選定方法、緊急時の対応フローなどの具体的な運用案です。細部のオペレーションについては現場職員に委ねつつも、重要な骨組みを予め策定しておくことで、現場職員の勤務に関する漠然とした不安を取り除き、現実的な議論をするための土台作りが可能になります。特に重要なのは「シフトイメージ」を共有することです。実際の支援でも、月別の勤務シミュレーションを提示したことで、一人当たりの休日出勤回数や、出勤日の希望聴取の有無、年末年始など大型連休の働き方などが明確になり、具体的に自分たちの私生活との両立が可能かどうか検討していただける契機となりました。最終的に、職員が「これなら両立が可能だ」という実感を持てることが、合意形成において重要なポイントとなります 。
以上が、休日リハ導入に伴い陥りがちな組織上の問題と解決プロセスです。一連の問題はいずれも「経営陣と現場のコミュニケーション不足」という単純な課題に帰結すると言えます。日頃から経営方針や現場の運用について、双方向でコミュニケーションができる機会や組織上の風土があれば、このような問題はそもそも生じないかもしれません。
また、逆説的な意見として「組織の決定に従うことが従業員としての責務だ」という意見もあります。この考えは尤もではありますが、一方で、「医療を提供するのは『人』である」という事実もまた重要な真理です。現場の職員が経営の方針に納得し、前向きに休日リハを提供できる環境を整えるためには、従来の病院組織にありがちな一方通行の「トップダウン型」から、双方向の「対話型組織」へと転換していくことが最も重要な変革であるといえるでしょう。
監修者
小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他