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2026/04/24/金

寄稿:白衣のバックパッカー放浪記

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白衣のバックパッカー放浪記 vol.54/ナザレ編

仕事が終わって、疲れ果ててしまった。歯も磨きたくないほどに、体を動かすこと自体が嫌になる。もう寝ること以外は選択肢にない。そう決心したのに、ベッドに潜り込んでYouTubeのショート動画を漁りだす。指をスワイプして動画を次々に切り替える。そして、ある動画で手が止まった。解説の字幕など読まなくても伝わってくる圧倒的な画力で、今にも閉じそうだった瞼が思わず開く。信じられないくらい高い波。どうやら20mはあるらしい。そして、その波に小粒のように人がいる。それはサーフィンの動画だった1)

調べてみると、そこはナザレというポルトガル中部の港町。ナザレキャニオンという海底渓谷が大量の海水を押し上げることで、信じられないくらい高い波を形成するらしい。サーフィンの波の高さ26mでギネス記録にもなっている。その波をいつか見ようと決めて、それから数年後に旅を始めて、ようやくあの時の波を見ることができるチャンスを掴んだ。

海が好きな私だが、今までに経験した荒々しい海といえば「夜の九十九里浜」くらいで、大学の部活で白子に行った時に、轟音で打ち寄せる波にビビったことが懐かしい。しかし、高さがあったかと言われれば、夜なのもあって見ることはできず、どちらかと言えば波音から荒々しさを感じるのみだった。あの高さの波を見たらどうなってしまうのだろうか。世界で一番高い波とはどんなものなのだろうか。

バルセロナから早朝便でリスボン空港に向かう。朝5時発の飛行機に乗るために、空港には1時くらいから搭乗ロビーで待つ人々が目を擦っていた。だから機内では、ほとんどの人が寝ていたと思う。着陸間際になって、珍しく窓際だったこともあって、日の光で目が覚めた時には綺麗なリスボンの川がキラキラと光っていた。

着陸したあとはリスボンで一泊して、翌日、長距離バスでナザレに向かった。ポルトガル語など一切知らないので、バスに乗るにも一苦労だったが、数字と優しい人の指差しによって無事に乗り込むことができた。リスボンからナザレまでは1時間50分。今となってはどんな景色だったか、あまり覚えていない。でもナザレに着いた時のことは鮮明に覚えている。降りた地点からは海が少しも見えない。その代わり、右手に「ものすごく高い岩の丘」があった。宿の位置を調べると、その丘のどこかを示していた。

「15kgの荷物を持ってあそこを上がるのか」と、着いて早々、マジかよという気持ちになる。でも、とにかく歩くよりほかないし、意外と行けてしまうのではないかという自信みたいなものがどこからともなく湧いてきた。ただ、どう考えても今いる辺りが街なんだから、あの上が栄えているとは考えづらいし、ご飯を食べるたびにあの丘を行ったり来たりすることになるのは大変そうだな、などと思いながら、丘にできた階段を一つひとつ登った。

登ると海岸線が徐々に広がってくる。でも見えてきたのは普通の海だ。それも日本でもよく見る穏やかなタイプの。求めている場所がどこなのかも分からないが、とりあえず登ってしまおうと、頂上まで汗だくになりながら到達した。すると、そこにはもうひとつ街が広がっていた。

奥の街からこの高台まで登る。あとで知ったがケーブルカーがあるらしい

ナザレでご飯

シティオ地区と呼ばれるそのエリアは、石灰岩でできた高台に位置していた。広場には教会がひとつと、おしゃれなレストランやカフェが並んでいた。「これならご飯を食べるために下に行かなくても良さそうだ」と、とりあえず一安心。そのまま宿に向かう。小道が入り組んでいて、行ったり来たりを繰り返しながら、ようやく宿に着く。どうやらサーフィン用具店と併設されているドミトリーみたいだ。部屋にはなんと自動販売機まで付いていて、しかも8人部屋に私1人以外に客がいないらしい。宿泊は3泊4日。いつでも高い波が見られるわけではないことを事前リサーチで知っていた。絶対に波を見たいから、他の国の滞在日数を抑えてでも、ここでの滞在時間を長めに取っていた。

早速、波の見えるスポットに行ってみる。宿から少し歩いたところにフェスで見るような簡易ゲートがあって、そこには「Welcome to the biggest waves in the world(ようこそ、世界最大の波へ)」と書かれていた。ついにベッドで見たあの波が見られるのだと、ワクワクが止まらない。波を見るためのスポットと言ってもいい、赤い灯台が有名なサン・ミゲル要塞へ向かう。入場料を支払って要塞の中に入り、要塞のベストスポットから大西洋を眺める。

しかし、大きな波はそこにはなかった。帰り道、たくさんのキャンピングカーが海岸近くに停車しているのに気づく。家族で来ているようで、子ども達が車の近くでおままごとをして遊んでいた。きっとサーファーの子どもなのだろう。デカい波を狙う親とともに、キャンピングカーで移動して暮らしている。日本では考えられない暮らしだ。なんというか、とてつもなく自由に感じる。こうやって幼少期を過ごした人は、どうなっていくのだろうか。

サン・ミゲル要塞の灯台、高い波があるときはここでみることができる

宿に帰って「いつなら高い波が見られるだろうか」と店主に尋ねると、「きっと明後日がいいと思う」とのことだった。私自身はサーフィンなんてしたことがないし、見るからに波に詳しそうなこの人が言っているのだから、きっとそうなんだろうと思い、日暮れを待って夜ご飯を食べに行った。

夜になって雨が降ってきた。びちゃびちゃになりながら店を探し、良さそうなレストランに腰を掛けさせてもらうことにした。この辺りは観光地ということもあってか、値段が高い。一番安い飲み物であるコーラを注文し、よく分からないが、ほぼ唯一級で知っている単語であるArroz(米)と書いてあるものを併せて頼んだ。

テーブルに来た食べ物を見て驚く。想像以上にデカい。多分3人前はあるだろう。出てきたのは海鮮がたっぷり入った鍋に、米が少し混ぜてある料理。マルセイユで食べたブイヤベースに近い気がする。いや、なんならこっちの方が、もともと想像していたブイヤベースの色に近い気がする。食べてみると、出汁を感じるなんとも言えない優しい味だ。結局この量を1人で食べ、翌日も同じものを注文した。

ポルトガルではイワシを食べたり、お米を食べたりと、日本と少し似た食事文化があるような気がする。歴史上も関係がある国だから、もしかしたら日本文化が少し入り混じっているのかもしれない。でも、そもそもこんな遠くから江戸時代に長崎まで来ていたのかと思うと、ゾッとするくらい遠い気がする。この海を越えて、昔の人はどんな気持ちで日本に来ていたのだろうか。

サーフィンの医療事情

結局、4日間で求めていた波を見ることはできなかった。自然のことだから仕方がない。なんだかオーロラを見に行った時と、感覚的には似ているなと感じる。ビッグウェーブでなくとも、日本で見ていた波よりはどの波も高かったから、少しも満足できていないわけではなかったが、それでも目的を果たせなかったことは少し悲しい。

どうやらアプリで、その日に高い波が見られるかどうか予測してくれるものがあるらしいことを後から聞いて知った。でも、滞在期間中にその予測される日が来なければ、なんの役にも立たないのではないかと思う。冬にかなり腰を据えて訪れなければ、見ることはできないのかもしれない。

ところで、あんなにも高い波でサーフィンをしていたら、かなり危険なのではないかと思う。調べてみると、驚くことに人が亡くなったのは2023年が史上初の出来事だったらしい。死亡率はサーファー100万人あたり6.3人2)。インフルエンザだと、インフルエンザ罹患者100万人あたり推定約21.4〜181.8人だから、かなり少ないことが肌感覚としてある3)

波乗りに失敗して水中に転落することをワイプアウトというみたいで、これによって脳震盪や骨折をすることがあるらしい。脳震盪で意識を失ったら、そのまま死んでしまうのではないかと思うが、ナザレではジェットスキーによる救助隊が待機していて、波から回収し、迅速に陸上の医療チームへ引き継ぐプロトコルがあるらしい。

調べてみると、波の間隔は7〜18秒ほど。その間に非言語、言語コミュニケーションのどちらも使ってやりとりをするという、ジェットスキーの練習も含めた救助カリキュラムがあるらしい。陸上チームはゾーニングされたエリアをカバーして、救急専門医がいるチームが形成されていることもあるようだ4)5)。surfing medicineなる未知の領域もあるようで、意外にも奥深い。おそらくかなり緻密にチーム作りがされているからこそ、この死亡者数なのだろう。そしてきっと、自然を愛する人たちで形成されているのではないだろうか。でなければ、こんなにも波に乗ることに対して真剣になれないだろう。

あまりにもデカい波を目の前にして、人は何を思うのだろうか。まだ見ぬそれを見た時、私自身も何を思うのだろう。なんとなく、感動よりも得体の知れぬデカさに恐怖を感じてしまいそうだ。でも思えば、旅を始める前は地球の大きさにびっくりして、「こんなに回れるのだろうか」と思っていた。経験すれば案外すんなり受け入れられるのかもしれない。いつだって知らないことが怖さを生むのなら、実際に見て回ることが恐怖に打ち勝つ手段なのかもしれない。イベリア半島の西海岸から、そんなことを感じた。

次回は5月8日、リスボン編です。

【参考文献】
1)https://youtube.com/shorts/ydLwCQLHDzY?si=0FvYT49ZQ_CUE7GO
2)Lawes, J. C., Koon, W., Berg, I., van de Schoot, D., & Peden, A. E. (2023). The epidemiology, risk factors and impact of exposure on unintentional surfer and bodyboarder deaths. PLOS ONE18(5), e0285928. https://doi.org/10.1371/JOURNAL.PONE.0285928
3)新型インフルエンザに関するQ&A|厚生労働省. (n.d.). Retrieved April 19, 2026, from https://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/02.html?utm_source=chatgpt.com
4)7 Seconds to Make the Save | YETI Stories. (n.d.). Retrieved April 18, 2026, from https://www.yeti.com/stories/7-seconds-to-make-the-save.html
5)Big Wave Risk Assessment Group. (n.d.). Retrieved April 18, 2026, from https://www.bwrag.com/


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