2026/01/29/木
医療・ヘルスケア事業の現場から
【執筆】コンサルタント小林/【監修】代表取締役社長 大石佳能子

年明け1週間程、弊社代表・大石の母校であるハーバード・ビジネススクールの学生が来日しました。実際の戦略的課題に取り組む体験型研修プログラムの一環として、メディヴァでは毎年受け入れをしています。
今年は、来日した約60名のうち、1グループ4名を受け入れました。今回のテーマは「ウェルネスツーリズムを目的に来日する海外富裕層をどのように増やすか」です。
学生たちは、事前のデスクトップ調査に加え、日本での視察やインタビューを行い、その結果をまとめてプレゼンテーションを行いました。
今回は、藤田医科大学羽田クリニック、イーク渋谷(人間ドック)、Medical Excellence Japanの渋谷理事長をはじめとする皆様にご協力いただきました。
ここでは、学生たちのレポートとメディヴァの見解をもとに、日本・海外のウェルネスツーリズムの現状と、海外富裕層のインバウンドを増やす糸口を書いていきます。
目次
旅行を通して心身の健康を図ることを意味します。治療を目的とする医療ツーリズムとは異なり、健康増進や予防を目的とする観光スタイルです。
特に健康意識の高い海外富裕層は、単なる観光ではなく、「心身の回復」、「自己変容」を目的としたウェルネスツーリズムを選ぶ傾向があります。
サービス内容は主に以下の3つに分類されます。
これらを踏まえた上で、世界各地域のウェルネスツーリズムの特色をみていきます。
広大な土地がある海外では、予防医療や体験型プログラムを宿泊施設内で完結できることがほとんどです。
血液検査や超音波などの健康診断や身体分析を元に、数ある選択肢の中から最適な滞在プログラムを選びます。ただし、健康診断の内容は、日本の標準的な人間ドックに該当する項目が多く、付加価値については疑問が残ります。
英語対応については、海外の高級ウェルネスリゾートだけあって通訳を介さずに可能であり、国際的な顧客受入れの体制が整っています。
ウェルネスツーリズムは急成長分野であり、2024年の世界市場規模は約140兆円、2028年には約210兆円と予想されています。
地域別では、北米が約32%と最大市場であり、次いで欧州が約28%、アジアが約23%、中東・アフリカが約11%と推定されます。
価格帯は、超高級路線の北米・欧州が100万円~/泊、アジアや中東・アフリカは富裕層向けでも比較的安価な30万円~/泊と、地域によって大きく異なります。
世界各地域の代表的な例は、以下をご覧ください。
【北米】
アメリカ: Canyon Ranch(キャニオン・ランチ)
https://www.canyonranch.com/
アメリカ内4つの州にある巨大なヘルス&ウェルネスリゾートであり、約50年の歴史をもちます。
200種類以上のバイオマーカー検査、トレッドミルを用いた身体分析、30種類以上のアクティビティ等、豊富なメニューが特徴です。
【欧州】
スイス: Clinique La Prairie(クリニック・ラ・プレリー)
http://www.cliniquelaprairie.jp/
細胞療法の先駆者として約95年の歴史がある、100万円以上/泊の超高級リゾートです。
メディカルセンターやスパ、5ツ星の宿泊施設が広大な敷地に完備されています。
健康寿命を延ばすことに効果的な細胞活性化療法が特徴です。その他検査メニューも豊富であり、血液検査、胸部X線・腹部超音波・心電図検査、運動機能検査、遺伝子検査、歯科検査があります。
【アジア】
タイ: RAKxa(ラクサ)
https://rakxawellness.com
東南アジア最大級の私立病院である、バムルンラード国際病院が手掛けています。料金は他国の高級リゾート地に比べると比較的安価な約30万/泊です。
伝統的なタイ・中国・アーユルヴェーダの医学を元にしたプログラムが特徴です。血液年齢・栄養素等のラボ診断や、身体の筋力・可動性をみるフィットネス評価等、専門家による測定を元にプログラムを作成します。
【中東】
カタール: Zulal Wellness Resort by Chiva-Som
https://zulal.com/en
世界的な中継地点、ドーハにある2022年に開設したカタール最大の高級リゾートです。カタール企業が開発主導、運営はタイの高級ウェルネスブランドであるChiva-Somが行っています。
アラブ・イスラム伝統医学(TAIM)に基づき、文化遺産と現代のウェルネスを融合させたサービスを提供しています。プログラムは大人向けと、子ども/家族向けに分かれており、年齢毎のアクティビティを楽しめます。また、タイ企業が運営しているため、タイ式マッサージ等も体験できます。
日本はまだ、ウェルネスツーリズムの主要拠点としては広く認識されていません。しかし、長寿国として有名な日本だからこそ、健康意識の向上だけでなく、病気の早期発見やリスク管理といった実用性・信頼性の高いサービス提供をすることが可能です。
今後、国際市場に発信できる日本の強みは、主に以下の3つが挙げられます。
PET-CT・立位CT・MRI等の高精度医療機器による健康診断を行うことで、医療的根拠に基づいた詳細なカウンセリングが可能です。
また、長い歴史に裏打ちされた坐禅や和食、温泉療法等の伝統文化、そして丁寧なおもてなしも魅力のひとつです。
日本ならではの坐禅や温泉、食文化などの伝統文化体験は、あくまでも観光や娯楽の一部として認識されることが多い現状です。そのため、ウェルネス拠点としての国際的なブランドイメージの形成が必要です。
海外事例の多くは、宿泊施設内でウェルネス体験が完結する一体型モデルです。一方、日本では、健康診断は医療機関、伝統文化体験・スパは別施設を利用することが一般的であり、医療と体験型プログラムの連携が十分とは言えない現状です。
ウェルネスツーリズムでは、健康状態・施術内容・リスク説明等、難易度の高い言語力が必要なため、ことばの壁が大きな課題として挙げられます。
学生の分析によると、スイスの超高級路線と、タイの高品質・低価格路線の中間に位置する上流中産階級を主なターゲットとすることで、「高精度な医療×伝統文化体験」として、大きな可能性を見いだせます。
今後のターゲットとなる地域は、以下の2つが挙げられます。
前述したように、日本では医療機関と体験型施設との関係性が遠い現状です。立地条件や人材確保といった要因に加え、ウェルネスとしてではなく、あくまで日本文化の一部として捉えてきた歴史的背景も影響しています。そのため、この構造的な課題を解決するには、まだまだ時間がかかりそうです。
現在は、海外の顧客-日本の医療機関/体験型施設をつなぐ旅行代理店が中心となり、複数の施設を組み合わせたウェルネスプランを提供しています。しかし、現在のウェルネスプランは十分とはいえず、施設・サービス間の連携不足や一貫性のないコンセプトなど、日本としてのブランディング形成に至っていない現状です。
日本独自のウェルネスツーリズムが形づくられていくことに、今後の期待が高まります。
今回、ハーバード・ビジネススクールの受け入れにご協力してくださった皆様、大変ありがとうございました。
【参考文献】
・岡本世里奈_ウェルネス・ツーリズム―国際的に注目される外国人旅行者を対象とした地域資源の新たな活用の形―_2021_https://www.jstage.jst.go.jp/article/serviceology/7/2/7_49/_html/-char/ja
・Global Wellness Institute_2025_https://globalwellnessinstitute.org/press-room/press-releases/the-global-wellness-economy-hits-a-record-6-8-trillion-and-is-forecast-to-reach-9-8-trillion-by-2029/
・Forbes_2025_https://www.forbes.com/sites/rogersands/2025/01/16/global-wellness-tourism-surges-toward-the-1-trillion-mark/
・森田浩司_ウエルネスツーリズムの定義とその細分類化─至近の海外の理論研究を題材に─_2017_https://www.jstage.jst.go.jp/article/nihonkanko/58/0/58_1/_pdf/-char/ja
・Deep Market Insights_Wellness Tourism Market
・Canyon Ranch_https://www.canyonranch.com/
・Clinique La Prairie_www.cliniquelaprairie.jp
・RAKxa_https://rakxawellness.com
・Zulal Wellness Resort by Chiva-Som_https://zulal.com/en/
・ALTRATA_World Ultra Wealth Report 2025
・World Bank Group_income level for 2024-2025
・JNTO(日本政府観光局)_訪日の高付加価値旅行市場は消費額・旅行者数ともに大幅増加_2023_https://www.jnto.go.jp/news/press/20250611.html
監修
大石 佳能子
大阪大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクールMBA、マッキンゼー・アンド・カンパニー(日本、米国)のパートナーを経て、メディヴァを設立。
医療法人社団プラタナス総事務長。江崎グリコ(株)、 (株)資生堂等の非常勤取締役。一般社団法人 Medical Excellence JAPAN副理事長。
規制改革推進会議委員(医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ座長)、厚生労働省「これからの医業経営の在り方に関する検討会」委員等の各委員を歴任。