現場レポート

2025/10/14/火

医療・ヘルスケア事業の現場から

地域包括医療病棟への転換検討事例と導入検討のポイント

【執筆】コンサルタント田中/【監修】取締役 小松大介

はじめに

2024年度の診療報酬改定にて、高齢者救急を中心とした急性期~亜急性期への患者対応を行う病棟として、地域包括医療病棟入院料が新設され、注目を集めています。
他方で、2025年8月時点で地域包括医療病棟入院料を算定しているのは187病院、9,474床であり(*1)、転換を検討している病院は多いものの、実際に導入まで進んでいるのはそのうちの一部にとどまっています。

導入のハードルとなっているのは、重症度や救急搬送患者割合、ADL低下割合といった施設基準の多さと、対象患者像から見た基準の高さであり、いずれかの基準が満たせず転換を見送った病院も多いものと推察します。
本稿においては、こうした現状を踏まえつつ、弊社の支援事例を基に、地域包括医療病棟の導入を検討する際の具体的なポイントについて考えてみます。

地域包括医療病棟の3つの転換パターン

地域包括医療病棟入院料への転換について、厚生労働省は2024年度診療報酬改定説明資料の中で、3つの転換パターンを示しています。

① 急性期1からの転換

急性期1からの転換については、救急実績が十分にある病院が、院内での機能分化を図ることを目的に、病棟の一部を転換するケースが想定されています。
実際の転換に際しては、重症度要件の改定によって基準が満たせなくなった病院や、DPC退出が見込まれる病院が、有力な転換先の一つとして検討することが多いように見受けられます。
また、重症度や人員配置の基準は急性期1の方が厳しいため、比較的施設基準は満たしやすいものの、地域包括医療病棟の在宅復帰参入先に地域包括ケア病棟は含まれず、在宅復帰率の基準達成が転換の課題となります。

② 急性期2~6からの転換

急性期2~6から転換する場合は、リハビリや栄養管理に強みを持つ病院が、強みを明確に打ち出したい場合や、増収効果を図って転換を検討するケースが想定されます。
人員配置や平均在院日数等の基準は急性期と同等であるものの、重症度(急性期4と同程度)を安定的に維持できるかや、急性期1と同じく在宅復帰率を達成できるかどうかが焦点となります。

③ 地域包括ケア病棟からの転換

すでに在宅復帰機能が十分にある病院が、救急搬送の受入を強化して収益向上を図るケースが考えられます。
他方で、人員体制や重症度の基準は地域包括ケア病棟よりも厳しくなるほか、内科系疾患が中心の場合、現行の地域包括医療病棟の重症度基準は満たしづらく、外科・整形外科系の患者が比較的多い病院において、病棟自体は地域包括医療病棟に転換したうえで、一部に管理料として地域包括ケア病床を残す形が現実的であると考えられます。

3.地域包括医療病棟への転換検討事例

ここからは、実際に弊社支援先で地域包括医療病棟への転換を検討した事例をご紹介します。

① A病院(急性期1からの転換)

A病院は、関東地方にある一般病院で、急性期1と地域包括ケア病棟を有する病院です。診療報酬改定のタイミングで、増収を図るため地域包括医療病棟への転換を検討していました。
まずは、簡易的に院内の全病棟をすべて地域包括医療病棟に転換する前提で試算を行ったところ、年間で90百万円程度の増収が見込まれる、という試算となりました。(表1)

(表1)A病院でのシミュレーション結果(単位:百万円)

他方で、実際の病棟運営を検討した場合、地域包括医療病棟では、病棟ごとに施設基準を満たす必要があるものの、A病院では診療科別の病棟構成となっており、各病棟で満遍なく重症度基準を達成できるような患者振分けを行うことが難しい運用となっていました。
また、地域包括ケア病棟の患者の半数は院内転棟患者であり、急性期1のみを地域医療包括病棟に転換した場合も地域包括ケア病棟の患者確保および地域包括医療病棟の在宅復帰率達成が難しく、現在の入院料および運用を維持するとの結論となりました。

② B病院(急性期3からの転換)

B病院は急性期3と地域包括ケア病棟からなる病院です。もともとは急性期1を算定していましたが、高齢者の内科系疾患を中心に受け入れて取り、先般の診療報酬改定で重症度要件を満たせなくなったため、急性期3への類下げを行いました。
また、月当たりのデータ数が90件未満のため、先々にはDPCの退出も見込まれており、収益確保策の一つとして、転換を検討していました。

地域医療包括病棟への転換試算実施にあたっては、重症度の関係から急性期のみを地域包括医療病棟へ転換する前提としました。
また、急性期病棟の患者をそのまま地域包括医療病棟へ入院させる前提とした場合、施設基準をすべて達成することが難しいため、患者についても適切な振り分けを改めて検討することとしました。
その結果、①「A2点以上かつB3点以上」、「A3点以上」、「C1点以上」のうち、いずれかを満たす日がある(ありそうな)患者、または②「入院初日のB得点が3点以上」の患者を地域包括医療病棟に振り分けたところ、概ね施設基準を満たせそうであることが分かりました。(表2)

(表2)B病院での施設基準シミュレーション結果

(*1)
重症度①:「A2点以上かつB3点以上」、「A3点以上」、「C1点以上」のいずれかに該当する患者割合(必要度Ⅱ)
重症度②:入棟初日にB3点以上の患者割合

唯一基準値を超えそうなADL低下患者割合についても、B病院では看護師が測定しており、個人個人で判断基準がまちまちになっていたため、改めてセラピストが測定したところ、基準を達成できそうな見込みであることが分かりました。

また、病棟転換の効果として、転換後の患者単価見込みは46,000円程度となり、このまま急性期3(出来高)となった場合と比較して、月次収益で7.5百万円程度ほど高い収益となる試算となりました。

他方で、急性期病棟を地域包括医療病棟へ転換した場合、これまでのような急性期→地域包括ケア病棟への転棟がほとんどできなくなってしまうため、地域包括医療病棟で平均在院日数を満たしつつ、在宅復帰を行う体制を整える必要があるほか、地域包括ケア病棟でも、直接入棟の患者さんをこれまでよりも積極的に受入れていく必要があります。
また、重症度基準や救急搬送患者割合についても、基準は達成しているもののギリギリであることが見込まれ、シビアなベッドコントロールが求められることが予期されます。
そのため、B病院では営業活動の強化を図りつつ、ベッドコントロール方法の見直しや下り搬送の連携強化を含め、取組みを行いつつ検討を続けています。

③ C病院(急性期+地域包括ケア病棟からの転換)

C病院は、東北地方にある、急性期4と地域包括ケア病棟からなる中小病院です。患者層が内科系中心であったこともあり、先般の診療報酬改定で重症度が低下することが予期されたほか、急性期病棟の減収も見込まれたため、急性期+地域包括ケア病床→地域包括医療病棟+地域包括ケア病床への転換を検討しました。
また、シミュレーションにあたっては、C病院では地域包括ケア病棟に60日超えの患者が多いという事情もあったため、そうした患者の取り扱いも含めて検討を行いました。(表3)

(表3)C病院の収益シミュレーション結果(単位:百万円)

(*2)
パターン①:入棟初日に必要度基準を満たす患者を地域包括医療病棟に入棟させた場合
パターン②:入棟初日に必要度基準を満たす患者および地ケアで60日を超えた患者を地域医療包括病棟に入棟させた場合
パターン③:パターン②からさらに、地ケアは60日超えの患者を退院させ、同数の患者を下り搬送患者で埋めた場合

シミュレーションでは、地域包括医療病棟への入棟基準を設定し、それぞれのパターンにおける地域包括医療病棟入院料を算定する病床がどの程度必要になるか、またその場合の収益がどの程度となるのかを試算しました。
結果として、単に入棟初日に重症度基準を満たす患者を受入れるだけでは、4床/日程度の患者しか確保できず、収益的なメリットも少ないことが分かりました。
また、パターン②やパターン③のように、地域包括医療病棟での受入患者を増やすことができれば、収益的には増益が見込まれるものの、60日超え患者を受入れると重症度基準の達成が難しくなってしまい、そもそも転換ができないことが想定されます。
そのため、C病院では最終的には地域医療包括病棟への転換は一旦断念し、重症度基準を安定して達成できるように急性期の病床数を減らしつつ、地域包括ケア病床を増床したうえで、長期入院にならないように治療やICの改善を図っていくこととなりました。

地域医療包括病棟への転換にかかる検討のポイント

以上の事例も含め、地域医療包括病棟に転換する際のポイントは、どこにあるでしょうか。

① 患者層の設定と緻密なベッドコントロール

地域包括医療病棟においては、繰り返し述べている通り、施設基準が厳しく、急性期4並みの重症度に加え、救急搬送患者割合やADL低下患者割合などの基準も満たす必要があります。
他方で、高齢者救急に多い内科系疾患(誤嚥性肺炎、尿路感染症、心不全等)は重症度基準を満たしづらく、単に高齢者救急に注力するだけでは施設基準を達成することがやや難しいと考えられます。

そのため、外科系患者や整形外科系患者も含め、疾患や状態を見つつ、受入患者層を適切に設定する必要があります。特に転換後の病棟構成が急性期+地域包括医療病棟や、地域包括医療病棟+地域包括ケア病棟となる場合は、各病棟種別に達成すべき施設基準が異なるほか、在宅復帰率の関係もあるため、どの患者をどの病棟で受け入れるのかを事前に検討し、詳細に設定しておくことが大切です。

また、地域包括医療病棟においては、達成すべき施設基準の項目も多いため、受入患者層を設定するだけではなく、毎日施設基準の達成度合いをモニタリングしつつ、細かくベッドコントロールを行うことも重要となります。

② 多職種間での連携

地域包括医療病棟においては、施設基準の充足に向け、全職員が病棟の機能を理解し、多職種で連携しつつ取り組んでいくことが重要です。

例えば、地域包括医療病棟においては、在宅復帰先に地域包括ケア病棟は含まれませんが、反面で平均在院日数の基準は21日と比較的短く、急性期から回復期(包括期)の治療までを密度高く行い、早めの在宅復帰を支援していく必要があります。
こうした中では、早期からソーシャルワーカーが退院支援に関与し、在宅復帰をサポートしていくことが重要となります。

また、リハビリについては土日祝日におけるリハビリ提供体制を確保する必要があるほか、セラピストも早期から介入を開始し、機能回復を図っていく必要があります。
その他、ADL低下割合についても、看護師だけでは正確なADLを測定できないケースもあり(BIに必要な「できるADL」ではなく、「しているADL」を測定してしまうなど)、専従のセラピストが評価を行う運用に切り替える病院もあります。

さらに、栄養管理や口腔評価についても、これまでより密な介入が必要となり、専任の栄養管理士とも強く連携していくことが求められます。

こうした各職種が自身の役割を理解したうえで、一丸となって取り組むためには、地域包括医療病棟の機能を病院全体に周知を図るとともに、病院長や各部門長がイニシアチブを取りながら進めていくことが重要となるでしょう。

おわりに

地域包括医療病棟への転換に際しては、これまで見てきた施設基準のような定量的な側面と、運用面での定性的な側面の両方が重要となります。
また、次回の診療報酬改定に向け、施設基準の内容や回復期(包括期)の在り方についても議論が進んでおり、政策動向も注視しながら、転換の検討を進めることが大切です。

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監修者

小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他

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