現場レポート

2025/07/22/火

医療・ヘルスケア事業の現場から

病院在宅医療部門のマネジメント成功の秘訣

【執筆】コンサルタント長島/【監修】取締役 小松大介

はじめに

近年、85歳以上人口の増加とともに在宅医療ニーズは増大し、在宅療養支援病院の数も増加傾向にあります。在宅医療部門は、入院や外来とは異なり病院外での勤務時間が圧倒的に多く、その業務内容が他の部門から見えにくいという特性を持っています。このため、多くの病院が在宅医療部門のマネジメントにおいて特有の課題を抱えがちです。例えば、訪問診療患者数が伸び悩んでいるといった問題は、一見営業活動に問題があるように見えても、その背景には内部のマネジメント課題が潜んでいることが少なくありません。

本記事では、病院の在宅医療部門でよく見られるマネジメント課題を5つのカテゴリーに分類し、それぞれの生じやすい問題点と具体的な対策について解説します。

戦略・計画マネジメント:部門の方向性と目標設定

課題: 在宅医療部門を立ち上げる際、「何のために訪問診療を開始するのか」という目的が曖昧な病院は意外と多いです。経営陣の掲げる開始理由が漠然としている場合、現場スタッフの業務へのエンゲージメントが高まらず、具体的なオペレーション設計が進まないといった問題に波及しがちです。部門単体で高収益を目指すのか、あるいは在宅療養患者のバックベッドとして病床稼働率を上げ、入院収益を向上させるのか、どの程度の収益改善を目指すのかなど、可能な限り具体的にイメージすることが重要です。

対策: まず、訪問診療の目的を明確化することが不可欠です。その上で、地域の需給状況を詳細に分析し、自院がどのような立ち位置で訪問診療を実施していくか、対象エリアや対象患者像を具体的に定めます。これらの方向性が明確になってから、人員配置や業務設計の検討に取り掛かることが効率的な業務設計を行う上で望ましいです。

組織・人材マネジメント:医師の協力と負担軽減

課題: 既存の勤務医の中から訪問診療の担当医を選定する際、医師が消極的で訪問診療枠数を増やせない、自院で対応可能な新規患者の紹介があっても知らぬ間に断っているといった問題は珍しくありません。医師が非協力的な背景には、診療の意義を感じられないといった理由の他に、入院・外来との兼務による負担感や、夜間・休日の往診待機と病院の当直に対する負担感が大きいことが挙げられます。

対策: 病院として在宅医療を重要視しているというメッセージを患者視点と経営視点の両面から医師に伝えることが重要です。また、医師の負担軽減策として、夜間・休日対応については、自院の訪問診療患者像や往診発生頻度の実績を鑑み、看取り以外は救急外来利用を基本とするなど、往診負担を軽減することも有効です。病院によっては、担当する訪問診療患者数や往診の出動件数に応じて、医師に対してインセンティブを付与するケースもあります。

業務・プロセス:院内他部門との情報共有

課題: 入院・外来部門のスタッフが在宅医療部門の業務内容や対象となる患者像について十分に理解していないケースは多くの病院で見受けられます。あるいは、病棟スタッフが自院の訪問診療を信頼できておらず、自院ではなく他院に紹介しているといったケースも存在します。このような他部門の理解不足により、本来は退院後に訪問診療の介入が望ましい患者や、外来通院が困難な患者に訪問診療を紹介できず、サービス提供の機会を失っている、もしくは外部の医療機関に患者が流出しているケースは珍しくありません。

対策: 病院全体で在宅医療の役割や介入のメリットの周知を図る必要があります。具体的には、入院・外来部門との定例カンファレンスを開催し、部門間の情報共有を促進します。患者情報や在宅医療部門の取組共有に加えて、部門スタッフの熱意が病院内に拡がることで、他部門のスタッフも患者に対して自信をもって自院の訪問診療を紹介できるようになるとともに、自院の訪問診療患者が急変した際の入院受入を病棟が積極的に行うようになるといった効果にも波及します。また、病棟や外来看護師等の教育・研修に訪問診療の同行研修を設けることも有効です。このように入院・外来部門のスタッフが在宅医療を理解することは、患者への生活視点での医療・ケアの提供にも繋がり、診療の質向上にも寄与します。

品質・安全マネジメント:診療の質向上

課題: 訪問診療は病棟や外来と比較して少人数で治療を担当することから、専門職目線でのフィードバックを受ける機会が少ないという特性があります。治療やケア、接遇について人から指摘されない状況が続くことで、スタッフによっては治療やケアのスキルが不足したままだったり、患者・家族へ横柄な態度をとっていたりと、場合によっては患者からのクレームに繋がることもあります。

対策: 診療体制を医師と看護師など複数名体制にすることは、医療サービスの標準化を図る上で非常に有効です。人員が少ないうちは難しいこともありますが、診療同行のペアを定期的に変更したり、曜日によって変えたりすることで、限られた人員体制の中でも可能な限り多くの人の目で、スタッフのスキルや接遇をチェックし高め合う工夫が必要です。また、地域のケアマネージャーや訪問看護ステーション、訪問薬局等との合同勉強会を開催・参加することも有効な手段です。長らく入院・外来のみの業務を担ってきたスタッフにとって、在宅医療で求められる医療・ケアとのギャップは大きく、地域や在宅でのニーズを正しく把握するためにこのような地域交流は役立ちます。また、訪問看護師やケアマネージャーなどから普段同一の患者を担当している医師に対して直接言えない苦言なども、このような交流の場では聞き取ることができるため、外部からの指摘を受けるという意味でも有効です。

財務マネジメント:在宅医療部門の生産性向上

課題: 在宅医療部門はその業務が外部から見えにくいため、実際には余裕があるにもかかわらず「忙しくてこれ以上の受け入れは無理」と、現場が患者の紹介を断っているケースがあります。経営陣からは、現場から忙しいと言われてしまうと、それ以上踏み込んで増患指示できずに困っているという声も聞かれます。このような構造により、部門の生産性向上を図れず、財務上の課題を抱えることがあります。

対策: 前述の「戦略・計画マネジメント」で設定した目的に沿った妥当な部門目標を設定し、KPI(重要業績評価指標)管理を徹底することが基本です。さらに、紹介患者の断りが発生した場合は、その依頼内容と断り理由をリスト化し、経営会議など他部門も揃う中で、対策検討を行うことが望ましいです 。これにより、部門の業務状況を可視化し、適切な経営判断に繋げることができます。

おわりに

在宅医療部門は、その業務の特性上、他の部門とは異なる特有のマネジメント課題を抱えやすい傾向にあります。しかし、これらの課題に対し、多角的な視点から適切な対策を講じることで、部門の持続的な成長と成功を実現することが可能です。
在宅医療のマネジメントにお悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。

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監修者

小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他

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