2025/02/10/月
医療・ヘルスケア事業の現場から
【執筆】コンサルタント 水野/【監修】代表取締役 大石佳能子
目次
オンライン診療は、多忙な就労世代患者の医療へのアクセス改善だけでなく、ADLの低下などによって外来受診が困難になった高齢患者が適切な医療を受け続けるための有効な選択肢となります。また同時に、医療機関にとっては受診が困難になった患者の流出防止も期待でき、より長期間かかりつけ患者を診療できるだけでなく、経営の安定や改善にもつながる選択肢の一つです。
今回は、実際の支援事例とともに、患者と医療機関の双方にメリットのあるオンライン診療について紹介します。
様々な事情によって外来受診の継続が困難になった高齢患者は、在宅診療で医療サービスを受けることができますが、こうしたシフトに対して医療機関側が対応しきれていないことが統計からもうかがえます。
患者・医療機関の現状を見ると、高齢者人口の増加に対して、外来受診者数は減少傾向で推移しています。この原因には、「交通手段が限られるから」、「家族の付き添いが必要だから」※1といった理由や地域の背景が挙げられます。
このような状況に対して、スムーズに自宅や施設での診療に切り替えられれば問題ありませんが、必要な診療につながれず、医療が中断してしまうケースが発生していることが考えられます。
高齢の外来患者数の減少に対して、医療機関側は自ら看家に赴く訪問診療という選択肢はあるものの、24時間対応のハードルなどから、訪問診療を開始できていない医療機関も多いです。統計でも在宅療養支援診療所の届出は横ばいで推移しており、変化に対応しきれていないことが読み取れます。
こうした現状への一つの選択肢になるのがオンライン診療です。外来受診が困難になった患者にオンライン診療で対応することで、医療の中断を防止することができます。一方で、オンライン診療は地域や医療機関の特性、診療科、患者の疾患等によって相性もあるため、導入する際は総合的な検討が必要です。メリットとデメリットについて比較し、医療機関に合ったシステムを検討するためのポイントにすることをおすすめします。
メリット | デメリット | |
患者 | ・通院負担(時間、付き添いの家族、交通)の軽減 ・かかりつけ医への継続的な受診 ・慣れた環境(自宅)での受診 ・感染症リスクの軽減 | ・診療の質の低下 ・不慣れなデバイス操作への対応 |
医療機関 | ・かかりつけ患者の継続的な受診 ・混雑緩和(患者の分散化) ・診療効率の向上(診察時間の短縮) ・感染症リスクの軽減 | ・システムの導入コスト ・オンライン診療用の業務負担 ・スタッフ教育負担 ・患者からの問い合わせ負担 |
支援先の自治体において同様の課題を持つ病院へオンライン診療を導入した事例を紹介します。
支援先病院では遠方から外来受診する患者が多く、公共交通機関が限られることや冬季の積雪による交通の便の悪さなどから通院負担に関する課題がありました。また、高齢の患者が6割以上を占めることからも、今後さらにADL低下により通院が困難になる患者が増えることが予想される状況です。
最初に、オンライン診療の目的、診療科、コスト、フローと人員配置等の情報整理から着手し、導入から自走までの間に目的がぶれることがないようにすり合わせを行いました。また、各項目の優先度を重み付けすることで、「どのようにオンライン診療を活用したいか」を明確にします。これにより、「◯◯機能が必要であればA社またはB社」という形でベンダー各社が提供しているオンライン診療サービスの絞り込みを行います。例えば、、、〇〇ならA社、xxならB社。▶例えば、クレジットカード決済が難しい患者が多い場合はA社、B社はNG、専用アプリをダウンロードするよりもLINEを活用して患者への利用ハードルを下げたい場合はC社、D社を推奨…など、切り口は様々です。
次に、行政手続きも含めたタスクの洗い出しを行い、「誰が/いつ/何を実行するか」を可視化します。予約方法の決定などの『業務フロー』、マニュアルなどの『フォーマット作成』、『行政手続き』、院内フローの決定を含む『オペレーション』といった各段階のタスクをガントチャート化しました。
次に、対象患者の選定と集患対策を検討しました。支援先では、オンライン診療を小規模に開始する意向があったため、どのような条件で対象患者を絞り込むか検討しました。ADLの状態、デジタルのリテラシー、付き添い家族有無等の条件に該当する患者に直接紹介し、オンライン診療の操作手順が分かるチラシを配布しました。
対象患者を限定する必要がなく、積極的に集患対策を行う場合はチラシに加え、ホームページやSNSでの情報発信やポスター掲示、事務スタッフからの声掛けも有効です。
また、診療後の服薬指導について、地域によっては調剤薬局が門前1局のみというケースもあります。この場合はオンライン診療によって患者の利便性が低下することなくスムーズに服薬指導と配薬が受けられることが望ましいです。支援先においても、門前薬局との相互性を考慮し、病院と薬局の三者で導入するサービスの比較検討を行いました。オンライン診療/対面診療とオンライン服薬指導/対面服薬指導の4パターンを想定し、いずれのフローでも対応できるか検証も必要です。
オンライン診療を導入する際、ネックとなる課題の一つが「高齢患者のデジタルリテラシー」です。必要に応じて、対象患者に対してオンライン診療(ビデオ通話やアプリのダウンロード~使用)が可能な環境か、デバイスを所持しているかなどを確認する必要があります。
支援先の病院では、患者や付き添い家族の状況に合わせ、操作手順が分かるチラシの配布と事務スタッフからの説明から着手しました。オンライン診療のニーズや認知拡大を図るため、院内での操作講習を企画したケースもあります。
デバイスの有無 | リテラシー | 病院からの対応 | |
患者がスマホやPCを所持している | 十分に取り扱える | ・チラシの配布 ・事務スタッフからの説明 | |
十分に取り使えない | ・チラシの配布 ・事務スタッフからの説明 ・病院内での講習 | ||
患者がスマホやPCを所持していない | 家族がスマホやPCを所持している | 十分に取り扱える | ・チラシの配布 ・事務スタッフからの説明 |
十分に取り使えない | ・チラシの配布 ・病院内での講習 ・事務スタッフからの説明 | ||
家族がスマホやPCを所持していない | ― | ・紹介に留める |
今回は外来受診が困難な高齢患者×継続受診を図る医療機関の観点でオンライン診療を紹介しました。オンライン診療は本ケース以外の様々な課題に対しても患者・医療機関の双方に有用です。地域やクリニックの特性、患者の疾患やニーズに合わせた対面⇔オンラインのハイブリッド型診療など、柔軟な診療形態も可能になります。弊社ではこのように、新たな選択肢を増やすことでWin-Winになる医療提供の拡大を目指しています。
監修
大石 佳能子
大阪大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクールMBA、マッキンゼー・アンド・カンパニー(日本、米国)のパートナーを経て、メディヴァを設立。
医療法人社団プラタナス総事務長。江崎グリコ(株)、 (株)資生堂等の非常勤取締役。一般社団法人 Medical Excellence JAPAN副理事長。
規制改革推進会議委員(医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ座長)、厚生労働省「これからの医業経営の在り方に関する検討会」委員等の各委員を歴任。