現場レポート

2025/02/13/木

医療・ヘルスケア事業の現場から

外来データ提出加算の導入に向けて

【執筆】コンサルタント富川/【監修】シニアマネージャー林佑樹

1.はじめに

外来データ提出加算は、生活習慣病管理料に加算できる項目として令和4年度の診療報酬改定で設定されました。これは令和6年度の診療報酬改定による生活習慣病患者の単価減少を補い、収益を確保する一つの手段となります。
しかし、2024年12月時点で算定を開始している医療機関は、例えば内科標榜クリニックの数に対して2%未満(参照元は後述)と、普及が進んでいないのが現状です。今回は、弊社が複数の医療機関で外来データ提出加算の導入支援を行ってきた実績を基に、その原因および解決策について解説し、最後に弊社が実施する算定導入支援についても紹介します。

2.外来データ提出加算の概要と算定実態

外来データ提出加算は、令和4年度の診療報酬改定に新設された算定項目です。厚生労働省に生活習慣病患者の診療データを毎月提出する医療機関に対して、診療報酬が加算される仕組みとなっています。この加算の目的は、生活習慣病の医療データを集約し、医療政策の立案や医療の質向上に活用することにあります。
また、令和6年度の診療報酬改定により、特定疾患療養管理料から高血圧症、脂質異常症、糖尿病が除外されました。これにより、これら3疾患については生活習慣病管理料での算定が一般的となり、特定疾患療養管理料に紐づいた加算を算定できなくなりました。結果として、生活習慣病患者の単価が減少し、収益確保の必要性が高まっています。そのため、外来データ提出加算を算定することが、医療機関の収益面での重要な対策の一つとなります。

外来データ提出加算を算定した場合の点数増減



具体的なインパクトですが、外来データ提出加算は生活習慣病管理料(Ⅰ)または生活習慣病(Ⅱ)に紐づけて50点を加算できるため、生活習慣病患者数に比例して収益を上げることができます。例えば、生活習慣病管理料を毎月500件算定している医療機関の場合、50点×500件×12ヶ月=年間3,000,000円の増収が期待されます。

しかし、先述の通り厚生労働省・医療機関の双方に明確なメリットがあるにもかかわらず、令和6年12月19日現在、外来データ提出加算の算定が認められている医療機関は、全国で1,063件*1のみとなっています。この件数は、例えば内科標榜クリニックが全国に64,747件*2(令和5年時点)であることを考慮すると、全体の2%にも満たない数です。

3.算定件数が少ない背景

厚労省からは、46ページにも及ぶ「令和6年度外来データ提出加算等に係る説明資料」が、マニュアルとして提示されています。
https://kouseikyoku.mhlw.go.jp/tokaihokuriku/000345284.pdf

しかし、例えば上記資料のP.6では「外来データ提出加算等算定開始までの流れ」と題して、手続きの大まかな説明がされていますが、情報過多で手順が複雑な印象を受けます。

外来データ提出加算等算定開始までの流れ(厚労省)

また、P.16以降では具体的なデータの作成方法が説明されていますが、外来様式1や、外来EFファイルなど、理解が難しい用語が並んでいます。

外来データ提出加算 データ作成の概要(厚労省)

以上のように、初めて手続きを行う医療機関にとっては、外来データ提出加算を算定するために、具体的に何をしたらよいのかが非常に分かりづらいのではないでしょうか。結果として、医療機関側の導入意欲が低下し、外来データ提出加算の導入が進んでいないと考えられます。

4.外来データ提出加算の算定に向けて

3.では外来データ提出加算を算定するために、具体的に何をしたらよいのかが非常に分かりづらいことを示しましたが、以下では、複数の医療機関で外来データ提出加算の導入支援を行ってきた実績を基に、その手続きや運用を分かりやすく解説し、実際にどのように進めていけばよいのかを平易かつ具体的にご紹介します。

4-1.算定開始までの手順について

3.で示した外来データ提出加算の算定開始までの手順を簡易的にした図を、以下に示します。

外来データ提出加算の算定開始までの手順

図示した通り、外来データ提出加算では、厚労省が求める基準のデータを作成して提出できるかのテストを通過し、認定を受ける必要があります。また、それぞれの届出やデータを管理している機関が異なるため、提出先にも注意が必要です。

①の届出様式7の10は「外来データ提出加算の算定に向けて、テストを受ける意向を表明するための届出」という位置づけになります。提出期限は3ヶ月ごとに設定されており、期限を過ぎると算定開始が3ヶ月以上先送りになる点には注意が必要です。提出先は施設基準の届出と同様、地方厚生(支)局です。提出方法は郵送または窓口となります。

②の工程では、認定を受けるためのテストデータを2ヶ月分作成し、期限内に提出します。このときに作成すべきデータは「試行データ」と呼ばれます。提出先は外来医療等調査事務局(厚労省の下でデータ分析を行う機関)である点に注意が必要です。提出方法は原則としてオンラインと指定されています。提出期限は、届出様式7の10の提出時期によって指定されています。厚労省からの認定を受け次第、③の届出様式7の11を提出することができます。

③の届出様式7の11は「(厚労省の認定を受けて)月々の外来データの提出および算定開始の意向を表明するための届出」という位置づけになります。提出日に応じて算定を開始できる月が決まるため、②で認定を受けたことを確認次第、速やかに提出する必要があります。提出先は各都道府県の厚生労働省事務局提出方法は郵送のみと指定されており、様式7の10と異なる点にも注意が必要です。

3.でも軽く触れた通り、②のテストデータ作成の工程では、適当なツールを用いて4点のファイルを個別に作成し、エラーチェックのもと統合する必要があります。作成手順が非常に複雑な工程であるため、次項ではそれぞれのファイルの作成方法について平易に詳しく解説します。

4-2.提出に必要な4ファイルについて

以下に、作成が必要なファイルの種類、各ファイルの内容、作成のために必要なツールを図示します。

外来データ提出加算の必要ファイル

大まかな流れとしては、「内容が異なる4種類のファイルを別々に作成→最終的に1つの提出用ファイルに統合」となっています。現時点で導入が必要なツールは、様式1作成ツールレセコン外来データ提出支援ツール3つです。以下では、それぞれのファイルの作成方法、および各ツールの導入手順や用途を説明します。

①レセコン

外来データ提出加算のレセコン

レセコンでは、EFファイル・Kファイルを作成できます。レセコンについては、既存のものが使える場合がほとんどであり、新たにツールを導入する必要はほぼ無いと想定されます。具体的な作成方法については、各レセコンベンダーにお問い合わせください。

弊社が支援した限りでは、EFファイル・Kファイルともに電子カルテ・レセコン上で特別な操作や処理をせずに直接出力でき、容易に作成できました。

②外来データ提出支援ツール

外来データ提出加算の支援ツール

外来データ提出支援ツールは、調査事務局が提供するツールです。FF3ファイルの作成のみならず、その後のエラーチェックや提出用ファイル統合にも対応しており、新たに導入する必要があります。また、導入費用は無料です。詳しい導入方法は、下記URLをご覧ください。
https://www.gairai.jp/2024/soft.html

FF3ファイルの作成については、施設基準の届出状況などの医療機関情報を入力するだけであり、かつ前月の情報をそのまま反映できるため、EFファイル・Kファイルと同様に容易に作成できます。

③様式1作成ツール

外来データ提出加算 様式1作成ツール

様式1作成ツールについてですが、FF1ファイルの内容がレセコンデータのみで完結しないことから、カルテ情報を参照しながら別途作成する必要があります。現時点でこれらのデータ作成に対応した電子カルテはほとんど存在しないため、専用のツールを新たに導入する必要があります。

特に、FF1ファイルの作成に必要な項目は全部で70項目あり、かつ患者ごとに個別に入力する必要があることから、この工程がテストデータ作成の中でも最も時間を要する作業です。さらに、別途入力する箇所が多いことからエラーチェック時に最もエラーが出やすいファイルでもあるため、作成時にどれほどヒューマンエラーの要素を減らせるかがエラー修正の工数にも大きく影響します。したがって、効率的なデータ入力と精度を確保するためには、専用ツールの選定が重要なポイントとなります。

次項では、このような事務工数を考慮した、様式1作成ツールの選定方法について解説します。

4-3.ファイル作成の支援ツールについて

弊社支援先では、外来データ提出加算向けのFF1ファイルを作成するツールとして、以下の3つが使用されています。

①調査事務局「外来様式1入力支援ソフト」:無料版
https://www.gairai.jp/2024/soft.html

②PRRISM社「外来データクリエーター」:有償版
https://www.prrism.com/solution/system/gairaidatacreator/

③長崎県保険医協会(Cypher社)「SELF」:有償版
https://rcv-self.com/

有償版については、初期導入費用が0〜100,000円程度、月額費用が6,000〜10,000円程度が相場のようですが、インポートファイルから自動変換する機能により、下図の通り入力項目の70項目16項目まで省略することができます(下図はSELFを導入した場合を想定)。
特に、「入院の状況」欄にあるICD10コード〜修飾語コードの変換が自動化されることで、入力の工数を大幅に削減できます。なお、無料版である①外来様式1入力支援ソフトを用いた場合は、この70項目の全てを入力する必要があります。

外来データ提出加算の入力項目


例えば、時給1,500円の事務職員がデータ入力に従事し、患者1人分のデータ入力の所要時間が15分(無料版)から3分(有償版)に削減されたと仮定します。入力対象(生活習慣病)の患者が月500人いた場合には、(15分-3分)×時給1,500円×500人=150,000円の人件費を毎月削減できることになります。

このような試算によりデータ入力に従事する事務員の人件費の削減効果を考慮すると、生活習慣病の患者数が数百人以上の医療機関では、有償版が非常にコストパフォーマンスの高いツールだといえます。

5.外来データ提出加算の算定に向けた取り組みおよび支援について

先述の通り弊社では、支援先の複数の医療機関で外来データ提出加算の導入支援を行ってきました。関係書類の届出から環境構築・データ作成をハンズオンで並走して支援し、支援した全ての医療機関で厚生局からの認定を受けた実績があります。

外来データ提出加算の導入のみならず、検査会社や各種測定機器メーカーと連携することで、半自動的に迅速かつ正確なデータ入力ができる体制の構築も進めております。

また今後の展望として、作成したファイルを厚生局に提出するのみならず、自院患者の疾患管理のDX化にも応用するツールの作成・開発も検討しています。

6.導入支援サービスについて

メディヴァでは、外来データ提出加算の届出から算定開始までの導入を支援するサービスを提供しています。届出上の注意点、各種必要ツールの選定・導入および環境構築、データ入力方法からエラー対策・修正方法まで支援させていただきます。

 問い合わせ先:contact@mediva.co.jp
 担当:富川、浅野


監修

林 佑樹
上智大学経済学部卒業。新卒で大手企業向け基幹システム開発企業に勤務。従業員規模1万人以上の企業向けにITシステムの提案営業からプロジェクト規模数十名程度のプロジェクト管理を行う。地域医療に興味を持ち、2013年よりメディヴァに参画。人生100年時代における医療介護モデルづくりを担当。地域医療を担う医療機関のコンサルティングを行いながら、国内外の医療介護のITサービス開発を行う。ウェラブル端末やIoT機器等を活用した医療者と患者の新しい関わり方や次世代に即した医療モデル開発を担当。

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