現場レポート

2025/01/27/月

医療・ヘルスケア事業の現場から

病院と在宅医療のシナジーによる競争力を獲得するために

【執筆】コンサルタント 神山/【監修】取締役 小松大介

はじめに

日本では少子高齢化の進行に伴い、2040年には医療・介護需要急増と、担い手不足がピークを迎えると予測されています。このような中、在宅医療は地域で患者家族を支える重要な役割を担っています。

患者ニーズの変化や高い診療報酬の影響により、病院機能を持つ法人やグループ(以下 法人等)も在宅医療事業に参入して、病院と在宅医療のシナジー(相乗効果)の獲得を試みていますが、以下のような問題が顕在化しています。

・「職員不足で現場が回らない」
・「患者数が増えず、病院からの患者紹介も進んでいない」
・「各サービス間の連携が不十分」

病院と在宅医療のシナジーは、在宅医療の地盤があった上で発揮されるため、こうした問題を解決しなければシナジーが発揮されず、事業の停滞や競争力の低下を招く可能性があります。本編では、支援の中で実際にあった問題を例に、「在宅医療の地盤固め」の上で、「病院と在宅医療のシナジーによる競争力獲得」についてフェーズを分けて考察します。

病院と在宅医療のシナジーによる競争力獲得までのイメージ

フェーズ1_在宅医療の地盤固め

在宅医療の地盤が弱い医療機関では以下のような問題が散見されており、各対策の取り組みが必要です。

【問題1】マネジメント体制の未整備

マネジメント体制が不十分な場合、深刻な運営効率の低下を招く可能性があります。
例:事務長が不在の中、院長が統率力を発揮できず現場スタッフとの乖離が生じ、意思決定も滞り赤字経営が持続している。

対策

  1. 組織体制の整備
    組織図を作成し、各ポジションの役割と権限を明確化することが重要です。事務長の新規採用は慎重に検討すべきですが、現有スタッフの中から責任者を任命することで、院長のマネジメントの負担を軽減することができます。
  2. 意思決定フローの構築
    どのレベル(院長、事務長、看護主任、スタッフ)が何に取り組み、意思決定するのかのフロー図を作成します。例えば以下の検討が可能です。

    ・日常業務の問題→リーダー
    ・経営方針や人員配置→院長や事務長
    ・医療安全の問題→院長、事務長、看護主任
  3. 会議体の構築
     朝会や週次定例会議を導入し、各進捗や課題、ビジョン等の情報共有の徹底や意見の収集を図ることで、現場との合意形成が取り易くなります。こちらも責任者を定め各会議の進行を任せることで、現場意識の向上やチームビルディングの強化につながる可能性があります。
  4. KPI設定の例
    ・会議開催率、会議参加率、議題解決率
    ・経営状況(収益・費用の推移)等

【問題2】人材不足とオペレーションの非効率性

医師や事務、管理職の不足から、オペレーションに支障が生じることがあります。
例:患者から緊急の依頼が来ても迅速に対応できる医師がいない。
  業務が属人化し、オペレーション効率が悪いが、組織として改善行動に移せない。

対策

  1. 生産性の改善とオペレーションの整備
    人員配置を検討する際、まず生産性向上で対応可能か検討することが必要です。業務プロセスを見直し、タスクを細分化することで専門性の必要性等を判断し、適切な業務分担が可能になります。また、マニュアルの作成やタスクシェアの体制整備は業務の標準化や属人化対策、生産性向上に効果的です
  2. 採用
     採用時には、地域の市場に合わせた給与やペルソナの設定が重要ですが、余裕のない状況では給与コストの増加や、条件の良いスタッフが採用できないリスクがあります。採用を急がないために、短期的には以下のリスク軽減策が有効です。

    ・状態が不安定な患者への訪問看護や診療頻度の調整→連絡・往診回数の減少
    ・夜間に入院しうる患者への日中の入院調整→夜間負担の減少
    ・外部往診サポートも可
  3. KPI設定の例
    ・1枠(午前午後で2枠/日)あたりの訪問診療件数、残業時間
    ・採用応募者数
    ・マニュアル策定率、新人研修の期間短縮等

【問題3】市場調査に基づく、マーケティングと集患方法の検討が不十分

患者数の確保には、地域ニーズを的確に把握し、患者数や状態、地域特性を見通した営業計画が必要です。高齢者が多い地域では「自然に患者は増えるはず」と市場調査が不十分なまま運営しているケースも多いです。
例:高齢者の多い地域で訪問診療を開始したが患者数が増えない。近隣医療機関との差別化要因も分からず、営業も結果がでない。

対策

  1. 地域との密な関係形成
    関係性のあるケアマネジャーや行政、訪問看護師等とは定期的に連絡を取り、ニーズに変化が無いか、困りごとがないか交流の場を持つことが重要です。
  2. 差別化要因の把握
    高齢者統計やレセプトデータから見込患者数の把握や、競争優位性のある診療行為を検討することが可能です。更に地域との関係性から入手した情報を考慮することで、地域の中で本当にニーズがあるのか、診療行為とサービスで何が差別化要因となるのかが明確になり、当院の患者像の検討や、営業の手段・訪問先・内容の具体化が可能です。
  3. KPI設定の例
    ・営業の回数、問い合わせ件数
    ・月別の総患者数、新規・離脱患者数等

フェーズ2_病院と在宅医療のシナジーによる競争力獲得

法人等内部の各サービスの相互活用により、業務効率化や幅広いサービス提供による包括的ケアの実現、更には新規サービスの可能性が期待されます。特に法人等の病院と在宅医療が連携することで、以下のようなシナジーが見込め、近隣医療機関との差別化を獲得できます。

病院側で得られるシナジー
・定期的な入院患者の紹介(在宅医療の状態悪化患者や、検査・予防的入院等)
・継続的な医療提供による再入院の削減
・入退院の円滑化による病床回転率の向上や地ケア病床の61日以上の入院数の削減

在宅医療部門で得られるシナジー
・定期的な在宅医療患者の紹介
・早期入院・重症化予防による在宅医療の離脱の削減
・高度な専門性の提供(透析・輸血等)
・在宅への院内リソースの提供 (訪問看護・リハビリ等)

このようなシナジーから安定した競争力の確保につながる可能性がありますが、現場では以下のような問題が見受けられ、解決に取り組む必要があります。

【問題1】各部門間の連携体制の未整備

病院と在宅医療部門がシナジーを生むためには円滑な連携が不可欠です。しかし現状では連携体制が未整備であるため、相互サービスへの理解が深まらず、患者像の視野が狭くなる、内部在宅医療につながらないといったケースが散見されます。
例:病院側が「入院中の患者のうち、在宅医療適応の患者は少ない」と考えている。
  入院中の在宅医療適応患者が、外部の在宅医療機関に紹介されている。

対策

  1. 患者像の視野の拡大
    医師や看護師を含む外来・病棟・退院支援担当者で、在宅が適応となる患者像の共通認識を持つことが重要です。そもそも在宅医療の適応患者とは通院が困難な状態の患者を指し、疾患の制限はありません。これを踏まえると、入院から在宅や施設に退院した高齢者、かつ近隣在住者が在宅医療適応の可能性のある母集団となり、潜在患者数は感覚値よりも大きい可能性があります。更に、長期入院患者や病院でご逝去している患者も潜在的な在宅医療適応の患者と検討できます。
  2. 各サービスの内容の共通理解
    提供可能なサービスの理解度を向上させるために、現場の見学や、症例発表を行うことも効果的です。
  3. 紹介経路(情報収集や判断、在宅医療の説明)の体制整備
    情報収集を行い、患者のデータを収集しておくことで、短期のみでなく、中長期での在宅医療適応患者の獲得につながります。判断する経路を明確にし、説明の際は患者に在宅医療のメリットが伝わるような媒体・内容を構築することにより、説明内容の標準化が可能です。また、部門を横断する会議体やチームを構築し、病院と在宅医療で必ず連携を行う時間帯を確保することも有効です。
  4. KPI設定の例
    ・情報収集率、病院からの在宅医療紹介患者数
    ・見学・症例発表の実施回数、参加率
    ・会議体の時間確保数等

【問題2】各部門間の統一的なビジョンやKPIの設定およびマネジメント体制の不足

病院内部の各サービスが連携し高いシナジーを生むためには、法人等で統一されたビジョンの策定と、それに基づく目標・KPIの設定が不可欠です。しかし現場では各部門が独立して個別目標を追求しているため、サービス間での連携が得られていないケースが見受けられます。
例:在宅医療部門と訪問リハビリ部門がそれぞれ「患者数の増加」を目標とし、連携できていない。部門間での連携方針やKPIもない。

対策

  1. 法人等全体でのビジョンの作成
    病院内サービスと在宅医療の連携によりどのような価値を患者に提供できるのかを明確にし、内部で共有を図る必要があります。
  2. 部門横断の目標、KPIの設定
    部門をまたいだ目標を設定し、KPIとして内部サービスを複数活用している患者数や単価等を設定することにより、各部門が個別目標だけでなく連携目標も追求できる仕組みを構築できます。
  3. 管理方法の分担
    現場と運営本部の役割を分担することで、統合的なマネジメントを実現できます。
    ・現場側→連携の担当者を定め、担当者が各サービス間で患者情報を共有しサービスを結びつける。
    ・運営本部側→KPIを統合的に収集・分析し、連携の成果の可視化。定期的な評価と情報共有を実施する。

おわりに

在宅医療を取り巻く環境は、今後さらに複雑化・多様化が進むと予測されます。その中で、「在宅医療の地盤の脆弱性」や「内部リソースの非連動」といった問題を放置すると法人等の競争力低下を招きかねません。しかし、基盤を整え、内部サービスと連携させることで、他医療機関との差別化となり、持続可能な競争力の獲得につながると考察します。

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監修者

小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他

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