現場レポート

2025/01/20/月

医療・ヘルスケア事業の現場から

病院における広報部門の強化~SNSを自前で運用しよう~ 

【執筆】コンサルタント 村上/【監修】取締役 小松大介

はじめに 

最近は多くの病院がSNSアカウントを作って運用しています。
例えば東京都立病院機構の全15病院中X(旧Twitter)のアカウントを持っている病院は、13病院にもなります

※地方独立行政法人東京都立病院機構 https://www.tmhp.jp/kikou/socialmedia.htmlより

SNSを効果的に活用することで、集患に繋がり、職員の採用にも効果が見込めます。
とは言え開設したものの、投稿が途絶えてしまっては、集患にも採用にも効果は出ず、却ってマイナスのイメージが付いてしまうため、始めるからには継続できる仕組みづくりが重要です。

ただ事務長や管理職が担当すると日々の煩雑な業務に追われて更新が滞ってしまうことが多々あります。そうならないためには現場スタッフが中心となって運用していけるように進めていくべきだと考えます。

私自身、いくつかの病院でSNSの立ち上げを支援してきましたが、最初から現場主導で進められるよう会議に入り、自立の段取りや仕組みづくりのサポートをしつつ見守っていました。その経験を基にいくつか大事なポイントお伝えします。 

インターネットによる情報発信のニーズ 

厚生労働省から出ている『令和5年受療行動調査(概数)の概況』によると、ふだん医療機関にかかる時の情報入手先として、「家族・友人・知人の口コミ」に次いで多いのが、「医療機関が発信するインターネットの情報」となっており、行政機関やそれ以外が発信する情報も含めると入院で40.1%、外来で50.8%もの方がインターネットで情報収集をしていることになります。 

厚生労働省 令和5(2023)年受療行動調査(概数)の概況より

また患者向きだけではなく、最近は求人応募の際に、直接応募に限らず紹介会社経由でも、応募者がその医療機関のWebサイトを見るのは当たり前になってきています。 
その点からもSNSをどんどん活用していくことが有効であると言えるでしょう。 

広報チーム立ち上げ時の課題 ―支援先での事例より―

支援先で新たに広報チーム、特にSNSに特化したチームを立ち上げた際にまず問題になったのは、誰が動画を撮るのか?そして誰が編集・アップロードするのか?ということでした。
SNSにおける投稿文作成や写真撮影と比較して難度が高いのが、動画作成です。

自ら「やりたい!」と言う職員がいる場合は、ルールを決めて、機材を用意した上で自主的に進められる環境を提供することで、比較的スムーズに立ち上げることができるでしょう。
ただ私の経験した中でも多いのが、やはり誰からも手が上がらないケースです。 この場合はチーム立ち上げが難航しますが、 諦めずに探し続けることが重要です。

実際に支援先でも、動画編集が得意な看護師さんが2名見つかりました。ともに一般職で会議にも出ないのでほぼ初対面の方でした。皆様の病院にも動画編集やイラスト作成、画像編集など得意な職員がいるかもしれません。 いないと決めつけずに探し続け、相応しい職員が見つかれば、協力してもらえるよう積極的に声掛けをしていきましょう。 

その他に問題になるのは会議に参加するメンバーの選出方法です。 
メンバーはキャリアに関係なく広く集めるべきと考え、支援先では 管理職の人数は最小限にし、比較的若い人や意欲のある人を中心に自薦・他薦で募集しました。
特に入職したばかりの人へは積極的に声を掛けをすることで、「当院を選んだ理由」や「入職して良かったこと」等、採用に繋がる動画のアイデアが期待できたり、前職で広報活動の経験がある人が見つかる可能性も考えました。また他部署との交流を深めることで離職防止に繋げたいの思いもありました。 

結果、支援先では時短の職員で普段どの会議にも出ない一般職の方が、イラストが得意だったため、病院のゆるキャラ(案)や院長の似顔絵などを描いてくださり、 SNS発信の内容に当院らしさを付加することができました。

実際に運用する段階になると、広報チームメンバーからは「手当は出るのか?」と言う不安の声も上がってくるかと思います。私が関わったケースではどこも勤務時間に作業をしてもらう前提で、手当の支給は行いませんでした。ただ病院に余力があれば手当の支給も検討しても良いかと思います。

軌道に乗せるために 

次に一番重要な継続性についても触れたいと思います。SNSを立ち上げたものの投稿せずに放置していては却ってマイナスなイメージが付いてしまいます。継続するために必要なことは下記の3点です。 

  1. できるだけ参加メンバーから出た意見は尊重すること
    特に経営層から否定的な意見が出てしまう と委縮して良いアイデアは出て来ません。 
    炎上のリスク回避はしつつも、ある程度自由に発信できるようにした方が現場も盛り上がります。 
  2. 目標を定めること 
    目標は、 YouTubeの場合には 動画のアップ回数、再生数、チャンネル登録数、X やFacebook・Instagramなどの場合は投稿数、いいねの数などがあると思いますが、どれも目標数値を立てたほうがメンバーのやる気にも繋がります。 
    また目標数値が浸透してくると会議や立ち話の中でも話がしやすくなり、職員間でのコミュニケーションが良く取れるようになります。 

    実際に支援先で決めた目標数値は、 YouTubeは 再生数1000回・動画アップ回数(月2本)、X及びInstagramは投稿数週1本でした。
  3. 現場を巻き込むこと 
    広報委員メンバーだけが盛り上がっても長続きしません。 積極的に院内の職員が関われるような企画を作ることをお勧めします。 

    例えば周年記念行事や社内イベントにも絡めることも大事です。
    その他にも動画公開時に社内イントラに載せたり、休憩室のテレビに動画を流したりすることで多くの職員に興味を持ってもらうことが必要で、メンバーのモチベーションの向上にも大きく寄与します。 

    病院広報アワードなど、外部主催で優秀な広報を表彰する 企画もあるので、エントリーを目標にすることも良いと思います。

良くあるトラブルとその解決方法 

最後に起こり得るトラブルとその解決方法について記載いたします。

  1. 写真や動画に登場した職員が退職した場合 
    基本的に撮影時に同意を取ることが大事です。 退職後も使ってよいかを確認し、承諾を得られなかった場合には、退職後に忘れず削除するようにしましょう。 
  2. 個人情報が映ってしまう可能性 
    院内で良く確認して、電子カルテ画面やホワイトボードの記載が見えないように撮影時に配慮するか、もしくは撮影後に モザイク処理をするといった対応が必要です。対応漏れがないように、 複数でチェックすることも重要です。 
  3. 不適切な投稿に対する責任の所在 
    院内でガイドラインを作成し、その上でルールに則って投稿している場合には個人に責任は行かないこと示す必要があります。 

    個人の端末で、個人のアカウントと間違えて投稿してしまうリスクを回避するためには専用の端末を用意すると良いでしょう。
  4. 広報活動は業務に入るか否か
    広報活動の時間は業務であることを病院として理解する必要があります。 

支援先での成果

約4年前にYouTubeチャンネルを開設した支援先病院では、2025年1月現在でチャンネル登録者数2,310人、総視聴回数約568,000回となっており、多くの方に見ていただけています。
また新卒採用のセラピストへのアンケート結果では、全員SNSを見ていて、応募のきっかけになったとの回答をいただけました。

SNSの運用は軌道に乗るまで時間がかかるかもしれませんが、コツコツと続けることで採用にも集患にも良い影響が出ることが期待できます。

まとめ 

今や病院でもSNSを使った情報発信は必須です。 
進めるにあたっては事務長や管理職だけが運営するのではなく、現場の職員を巻き込み、新入職者も巻き込んで進めていくことが大事です。
また継続するためには目標設定や勤務時間中に作業できるような環境提供と病院としての理解も忘れないようしましょう。

SNSでの情報発信を積極的に行うことで院内の職員間の人間関係も円滑になりますし、話題も増え、結果として離職防止にも役立つと考えています。 
これまで躊躇していた医療機関様も、是非この機会に始めることをお勧めします。 

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監修者

小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他

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