2024/10/21/月
医療・ヘルスケア事業の現場から
【執筆】コンサルタント 加藤/【監修】代表取締役社長 大石佳能子
近年、弊社へのオンライン診療に関連した依頼が増加しています。
今回はその中から、2024年度の診療報酬改定でもオンライン診療の実施領域が広がった「児童精神科」での有用性について、弊社支援先での事例を交えてご報告します。
目次
社会医療診療行為別統計によると、2023年のオンライン診療実施回数(初再診料 情報通信機器を用いた場合の算定回数)は、約58,000回と報告されています。これは2022年の約1.6倍の数値となっており、オンライン診療が急速に広まっていることがわかります。背景にはコロナ禍においてオンライン診療の有用性が認識された影響があると考えられます。弊社支援事例での一例を挙げますと、新たな新興感染症が流行する前にオンライン診療の体制整備を推進したい行政、オンライン診療を活用した新しいビジネスモデルを開発したい企業、診療の効率化や患者負担の軽減にオンライン診療を活用したい医療機関など、幅広い内容のご依頼をいただいております。
オンライン診療に関わる環境変化は、診療報酬の改定による影響も受けています。2022年度、2024年度の改定では、オンライン診療で算定可能な医学管理料の点数が増加されることに加え、新たに算定できる管理料が新設され、オンライン診療が実施できる領域が拡大しました。先にも述べた通り、2024年度の診療報酬改定で注目された内容のひとつに、児童精神領域の患者を対象にした「小児特定疾患カウンセリング料」がオンライン診療おいても算定可能になったことがあります。これによって、診患者単価の低さが課題に挙がりやすい児童精神科の医療機関におけるオンライン診療の活用について検討が進んでいくと推察されます。
小学校または中学校には、軽度の障害やグレーゾーンの子どもが通常学級に在籍しながら、特性に応じた指導を受けられる「通級指導教室(通称「通級」)」があります。通級による指導を受けている児童生徒数は、文部科学省の発表によると年々増加しています。疾患の内訳を見てみると、注意欠陥多動性障害(ADHD)、自閉症を含む自閉スペクトラム症(ASD)、学習障害(LD)などの児童精神科の対象疾患が増加していることがわかります。
一方で児童精神科領域における治療を提供している認定医の人数は、2024年4月1日時点で560名と日本児童青年精神医学会から発表されています。認定医のみが診療を行うわけではないので、実際には560名以上の診療医師はいるのですが、それでも治療を提供するマンパワーが圧倒的に足りていないことが推察されます。
私が支援に関わった医療機関では、既存患児の診察継続のために初診の受け入れを制限せざるを得ない状況になってしまった、予約枠を空けるとものの数分で3か月後までの予約が埋まってしまうなど、医療が必要な方に適切なタイミングで医療を提供できていない状況を経験しています。また患児家族の中には近隣クリニックで予約が取れず、かなり遠方から来院されている方もおり、患児を連れての長い移動時間に大きな負担を感じられている方がいらっしゃいました。
このような診療提供体制に課題がある状況をいかに改善したかを、事例を通じて述べていきます。
本事例では、児童精神科領域において、乳幼児健診等の結果から医療機関の受診を希望される方々がなかなか診療を受けられないという課題に対して、適切な医療を提供できる体制を構築したいというクライアントの考えから、弊社の支援が始まりました。
まず課題として挙がったのは医師の確保でした。診療を行っている医師はそもそも現状の業務量で手一杯であり、新たに診療を行える状況ではありませんでした。そのため、今は診療を行っていない医師、例えばママさんドクターで勤務先への移動は難しいが、時間を確保できる方などを募集し、オンライン診療を活用しての在宅勤務制度を構築しました。この体制により、医師を確保し、予約枠増加を実現しました。
一方、児童精神科の診療ニーズには、治療を受けたいという方以外にも診断してほしいというニーズがあります。患児が様々なサービスを受けるためには療育手帳などが必要で、その申請には医師の診断が必須となるためです。現状のオンライン診療では、診断に必要となる検査への対応が困難なため、対面での検査実施が求められます。こちらの課題に対しては、現在民間の検査施設との連携を検討しており、検査実施までの待ち時間の短縮を図りたいと考えています。
もうひとつの事例は、市営のこども発達支援センターのオンライン診療体制構築の支援になります。該当地域には児童精神領域を担える施設が少ないことから遠方在住の患児が多く、また患児の年齢層が低いため、そもそもの移動が大変な状況もあり、オンライン診療を導入したいとの背景がありました。
オンライン診療体制構築後は、症状が落ち着いている再診患児を対象としたところ、多くの診療希望があり、患児家族からは、「オンライン診療で非常に楽になった」との声をいただけるなど、移動負担の削減に貢献することができました。 今後、オンライン診療の対象患児拡大を検討するにあたっては、受診が2回目以降の患児の処方変更等による医薬品の在庫有無が課題となり、その場合は薬局との連携が不可欠と考えています。例として、ADHDの薬剤の中には、薬局の薬剤師がWEB研修を受講したのちに登録申請を行わないと扱えない薬剤がありますが、その薬剤を処方した時に「どこの薬局が扱えるのか」、「その薬剤の在庫があるのか」をどのように誰が確認するのかなどの検討が必要になります。拡大フェーズに入りましたら、事務職員による薬局への在庫確認体制の構築を予定しています。
最後に予約がなかなか取れない患児家族へのオンラインサービスメニューを構築した事例について、述べていきます。先の「児童精神科の現状と課題」でも述べたように、該当医療機関でも医師の診察予約がなかなか取れない状況が続いてしまい、どうにかできないかと院長・スタッフが悩まれていました。
診療内容を整理してみると、患児だけでなく患児家族への医師によるヒアリングやアドバイス等にかなりの時間が割かれていることが分かりました。そうした状況の中でも患児家族からは「相談できる場所が少ない」などの話が出てくることが多く、ニーズがあることが現場経験からも判明していました。しかしながら支援先では、相談事業を実施できる物理的なスペースがない、医師の時間が確保できないなどの課題もあり、実現できていませんでした。
まずはスペースの問題を「相談をオンラインで実施する」として解消することにしました。診療科の特性上、待合室に大人が多く座っている状況は患児にとってストレスとなってしまうこと、また相談者が気軽に相談できる環境を整えなければならないことの2点が主な課題であったためでした。その後、相談内容について分析すると、相談の多くは医師以外でも対応が可能なものだとわかったため、相談を受ける職員を医師ではなく心理士・看護師とし、新たに相談の予約メニューを作成しました。しかしながら、家族相談の予約枠を多く確保するためには、診療フローや職員配置に大きな修正が必要であるため、現状では最低限の予約枠でのスモールスタートで実施しています。今後は、診察フローや職員配置の効率化が課題となっています。
上記は、元々はオンライン診療の体制構築を目的に始まりましたが、業務フローや診療サービスを見直し、患児家族のニーズに合わせるように形を変えていった事例になります。
児童精神科でのオンラインを活用したコンサルティング事例をご紹介しました。診療サービスの効率化については、まだまだ課題は多く残っており、これからも引き続き解決策を検討していきます。
また、血友病などの小児慢性疾患や強皮症などの指定難病に関する別の案件でも、様々な課題が散見されます。例えば、上述した児童精神領域と同様に「専門医が少なく、遠方への受診となりやすい」、その他にも「診察内容が問診・処方のみだが、そのために大学病院で1日を費やさなければならない」など、患者の通院負担に関わる課題があります。このような課題に対して、オンライン診療が解決策になると考えており、現在医師たちとオンライン診療の活用方法について広くディスカッションを行っています。
今後も弊社では小児科領域や難病領域の課題解決に邁進していきます。
執筆
M.Kato
慶應義塾大学経済学部卒業。内資系製薬企業にて医薬情報担当者(MR)として循環器領域、糖尿病領域、消化器領域、感染症領域、呼吸器領域、麻薬領域など幅広い領域を担当。その後MRのアウトソーシング業界にて複数のプロジェクトに従事し、ダイレクトに医療機関を取り巻く環境に関わりたいという気持ちから2018年にメディヴァに参画。
監修
大石 佳能子
大阪大学法学部卒、ハーバード・ビジネス・スクールMBA、マッキンゼー・アンド・カンパニー(日本、米国)のパートナーを経て、メディヴァを設立。
医療法人社団プラタナス総事務長。江崎グリコ(株)、 (株)資生堂等の非常勤取締役。一般社団法人 Medical Excellence JAPAN副理事長。
規制改革推進会議委員(医療・介護・感染症対策ワーキング・グループ座長)、厚生労働省「これからの医業経営の在り方に関する検討会」委員等の各委員を歴任。