2024/10/15/火
医療・ヘルスケア事業の現場から
【執筆】コンサルタント 鮑
目次
前回は海外からのインバウンド受け入れにおける現状と課題について述べました。
>前回の記事はこちらより
課題が多く感じられるかもしれませんが、視点を変えれば、それらはチャンスでもあります。今回は、インバウンドを増やすためのヒントとなるいくつかのポイントをご紹介します。
前回提示した課題は、以下の3点です:
海外からの受診者を増やす目的において特に重要なのは上記「1」です。もちろん、その他の2点も重要ですが、まずは顧客がどういった層で、何を求めているのかを捉えたうえで、適切なアプローチや自院の体制整備を進めていく必要があります。
そこで今回は、医療インバウンドのターゲットとなる顧客ニーズに焦点をあてて解説していきます。
ニーズを捉えるために、まずは顧客層を整理しましょう。海外からの人間ドックの受診者は大きく以下の2種類に分けられます。
潜在顧客はさらに2つに分類されます。1つは日本の人間ドックに興味を持っているが、何らかの理由でまだ来日できていない人々。彼らに対しては、障壁を取り除くことで来日促進が期待できます。
もう1つは、日本の人間ドックについて知らない、またはその魅力を理解していない人々。彼らには、日本の人間ドックの良さを伝える工夫が必要です。
理想としては「興味を持つ→来日する→満足してリピートする」というサイクルの成立。既存顧客と潜在顧客へのプロモーションのアプローチが異なりますが、満足のあるサービスを提供するのに、顧客が求めるものを見極める必要があります。
顧客が求めるものは何か、どのようなサービスを提供すれば満足し、リピートにつながるのか。弊社が実際に行った訪日受診者へのヒアリングから得た洞察を以下にまとめました。これには「医療そのもの」、「医療サービス」、そして「関連サービス」の3つの視点が含まれます。
まず、正確な検査は必須であり、誤診や見逃しのない医療が求められます。その上で、検査内容には、現地の疾病やニーズを考慮することが重要です。
例えば、中国からのAさんは、毎年自国で健康診断を受けているものの、1日に大量の件数をこなす医療システムに不信感を抱いており、日本の精度と質を信頼して数年に一度訪日して検査を受けています。彼女は、忙しい日常の中で、がんや重大な疾患だけでなく、未病にも強い懸念を持っています。頸椎や腰椎に違和感があるため、整形外科の検査も一度に受けたいと考えており、普段気になっていることを「ワンストップ」で解決できることを望んでいます。
日本の健康診断は、がんや生活習慣病の検査に重点が置かれていますが、Aさんのような場合は、未病や日常的に気になる症状の検査も同時に受けられるなら、訪日の頻度を上げたいと考えていることが想定されます。
このように、顧客が自身の健康に対してどのような懸念を抱いているかを理解することで、利便性を高めるだけでなく、人間ドックの本来の目的である「その人の健康を守る」ことが可能になります。
医療サービスは、医療の質や正確性ではなく、受診者の体験価値を高めることです。訪日受診者の体験として重要視されることとしては以下の3点が上がりました。
①きちんと検査してもらえたという実感
②自身の国の特性を踏まえた説明と接遇
③待たされない(予約時から検査時、結果が出るまで)
特に、②が大事な要素となります。それぞれの国の文化や習慣の中で、居心地良い・気持ちの良い接遇の感覚が多少異なることがあります。
例えば、前回の記事で言及しているVIP顧客のBさんは「禁止事項やルールの説明が多い」ことに対して屈辱的な感情を持ってしまい、翌年に健診機関を変えてみたようです。その健診機関では、外国人専用の空間があり、他の受診者と顔を合わせない動線ができており、個別事項説明を受ける代わりに、案内チェック表を渡され、その内容にチェックするだけで了承することとしていたため、比較すると、満足度がかなり違ったといいます。
弊社ヒアリングの中では、健康診断のために来日している外国人は、健診と同時に、観光や出張など、複数の目的を持っていることがわかりました。
ベトナム人の日本での人間ドックをアレンジメントしたFさんによると、「ベトナム人の日本への人間ドック受診のピークは桜や紅葉の季節」とのこと。訪日外国人を受け入れている東京近郊の医療機関は、病院の近くの旅館や観光施設(水族館、ゴルフー)と連携し、旅行業者を通してパッケージとして打ち出す事例もあります。
医療のインバウンドは、医療そのものにフォーカスしがちですが、上記の何れかの要素について濃淡をつけるのではなく、実は一連のサービスを1つのパッケージ体験として考える必要があります。
例えばディズニーランドでは、アトラクションやショーの質のみではなく、接客しているクルー、環境、そして入園前の電車や駐車場の利便性なども含めて、全体で体験価値を高めることで、リピートに繋がっています。何れか1つの要素だけでは、他国に追いつかれることがあると思いますが、一連の体験価値を向上することは、優位性を立たせるための1つの重要要素だと思います。
以上のように、医療機関がインバウンドの受診者を受け入れる際には、自院ができることを提供するのではなく、まずはマインドチェンジが必要になります。顧客が求めることを知り、その実現に向けての体制整備がないままの受入れでは、満足のいく結果にならないことが多いと思われます。
実は、中国、ベトナム、タイ、韓国、それぞれの国にも健診センターはられています。日本に一番多く来ている中国を例とすると、人間ドックの受診率は38.5%となり、習慣化している人も多くいらっしゃいます。人間ドックを提供する医療機関は、トップレベルの病院もあり、健診のみ実施している高度な健診センターもあります。そうすると、なぜ、自国で受診せず、わざわざ来日しているかというと、日本への信頼と期待が高いためと思われます。そうした人々の健康と信頼を守り続けることは、今後のインバウンドにおいて重要だと思います。
メディヴァでは、患者視点に立つ医療の提供を長年取り組み続けています。医療のインバウンドにおいても、自院のキャパシティー内で取り組むのではなく、まずは患者への理解を深めた上で、それに合わせて新たに体制を整備していくことが重要だとわたしたちは考えています。患者視点に立った医療インバウンドにご興味がある医療機関や健診施設の方は、ぜひお問い合わせください。
執筆者
K.Hou
中国出身。華東理工大学でソーシャルワーク学科を卒業後、来日。日本女子大学で社会福祉を専攻し、修士課程を修了。その後、経営学修士課程(MBA)修了。「高齢であっても、障害があっても、どんな状態でも自宅で安心して自分らしい暮らしができる」ことの実現を目指し、メディヴァに新卒で入社。現在は、日本の医療・介護の海外展開や在宅介護の仕組み、新規サービスの構築に取り組んでいる。