2024/08/26/月
医療・ヘルスケア事業の現場から
【執筆】コンサルタント 松葉/【監修】取締役 小松大介
目次
全国で上部内視鏡検査を実施している病院は4,557施設(全体の63.5%)、診療所は14,617施設(全体の14.2%)あります。また、下部内視鏡検査を実施している病院は3,819施設(全体の53.2%)、診療所は6,458施設(全体の6.3%)あります(*1)。
検査件数でみると、全国の内視鏡検査実施件数(保険診療のみ)は上部、下部ともに年々微減傾向にあります(新型コロナ流行の2020年に大きな減少が見られました)(*2)。
ただ、近年は、健康に対する意識が高まっており、病気の早期発見や予防のため、定期的な健診や人間ドックを受ける方も増えています。そのため弊社の支援先等でも、健診、人間ドックといった自費での検査にも注力している医療機関が増えてきています。
*1: 令和2(2020)年 医療施設(静態・動態)調査(確定数)・病院報告の概況
*2: NDBオープンデータ
内視鏡検査は実施規模によって、毎日実施、週数日の午前中のみ実施、外来診療の開始前・後・合間、など運用方法が様々です。また、他の検査(MRIやCT、胸部X線検査など)と違い、内視鏡検査に関わるスタッフ数は多いため、運用の効率化は非常に重要となります。
運用において欠かせないKPIとしては、件数と単価があります。件数については「保険か自費か」、また「設定している枠の上限と稼働率」といった指標があげられます。
【内視鏡検査に関するKPI】
🔳件数
・保険か自費
・最大枠数と稼働率
🔳単価
特に最大枠数の設定に関しては内視鏡検査を開始した当初に決めたままで以後全く変更していないといった医療機関も多く、対応可能件数にも影響するので定期的な見直しが必要です。
保険診療での内視鏡検査が多い病院や診療所では1枠当たり30分、自費が中心である健診センターなどでは午前、午後単位で枠設定しているところも多く、半日で10~12枠としている支援先が多いです。
最大枠数だけでなく、売上を伸ばすという観点も含め、内視鏡検査の運用を効率化していくには、大きく3点ポイントがあります。
最大枠数を増やすには1枠当たりの時間を短くすることが必要となります。
最も効率が良い枠の時間設定としては、医師の検査時間と同じにすることです。スタッフが対応する前後の処置等は他患者様の検査中に行うことで、枠数を増やすことが可能です。
医師の検査時間についても、1患者あたり10~15分の検査、その後のカルテ記載を含めて1枠当たり20分が目安になります。切除等処置があればさらに長く、健診等で所見がない方の場合はさらに短くなることもありますので、保険診療メイン、自費メインなど患者層によって違いはあります。
内視鏡検査では検査前の説明・処置、機器管理(スコープ等の洗浄・消毒)、検査・治療の介助、検査後の経過観察等多くの業務があります。そのため関与するスタッフも多く、効率化の余地は十分にあります。
実際に行った効率化の例を下記に挙げます。
●検査前説明事項を書面化して、事前に案内を送付する
検査前の説明を毎回スタッフが行い手間となっていたので、事前または、当日の検査前の待機中に確認できるような案内文書を作成して渡すよう徹底
●スコープの本数の追加
スコープの洗浄・消毒に時間を要し、医師の手は空いていても機器がなく検査ができない状況があったため本数を追加。枠の設定を医師の検査時間と合わせることができ、1枠当たりの時間を10分短縮して設定が可能に
●「検査前の処置→検査→検査後の待機」での患者動線の効率化
実際の検査場所と、前後の待機場所が異なる場合、都度患者様の移動が発生するので、スムーズに移動できるよう動線を確保。また、患者様の移動時に介助が必要な場合などは、ストレッチャーのような器具に変更することで移動をスムーズに
●セデーション(鎮静剤)を使用している場合、セデーション数を制限する・セデーション対応可能時間を固定する
セデーションは身体的負担の軽減から患者様要望が多いものの、検査後1時間程度の安静が必要となるため、待機スペースの確保や観察が必要に。連続でセデーションの患者様が続くと待機場所が確保できず、離れた場所での待機となるため、観察の手間が増えるといったこともあり、1時間に1人のみセデーション対応可といった形に変更し、連続にならないようルールを設定
基本的に、保険診療であれば単価は決まっており(ポリープ切除等処置によって加算はありえます)、大きく増加させることは現実的ではありません。
一方で、健診等自費の場合、価格は自院にて設定できるため近隣競合との兼ね合いも必要ではあるものの、保険診療単価よりも高く設定できます。より単価の高い自費での件数を増やしていくことで、平均単価を上げていくことは可能です。ただ、先述したように、健診・人間ドックの需要は今後さらに伸びていくことが予想されており、さらに多くの医療機関が今後注力していくと思われます。そのため価格設定は慎重に行う必要があります。
医療機関では往々にして、「以前からそうだった」といった理由で、業務の見直しが行われないことがあります。内視鏡検査においても、検査導入当初から運用が見直されていないといったケースはよくあります。設定している枠に対して稼働が100%であっても回せているため、運用の効率化の必要性を感じられないことが一つの要因のようです。ただそういった場合、前提として最大枠数の設定に問題があり、効率的でない=機会損失していることが考えられます。まずは、適正な枠の設定を行い、その枠設定で回すためにはどう運用を効率化していくべきかという流れで考えてみることが大事になります。
監修者
小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他