2024/04/08/月

医療・ヘルスケア事業の現場から

エジプトの医師や病院管理者向け研修プログラム

【執筆・監修】コンサルタント木内、小倉 /【監修・広報担当】シニアマネージャー林佑樹

はじめに

弊社では国内でのヘルスケア分野の幅広いコンサルティング経験に基づき、中国、インド、東南アジア、中東などで様々なプロジェクトを行っています。医療介護に関わる市場環境調査や、現地ネットワーク構築、医療・介護・ヘルスケアの事業開発・運営支援、また医療従事者や介護系の人材育成など、多面的な支援を提供することで、日本や現地企業の事業進出・拡大をサポートし、各国のヘルスケア分野における課題解決に貢献したいと考えています。

この度は、こうした海外事業の一つとして、2024年3月4日から3月8日の5日間、エジプトの医師らに1週間の研修プログラムを提供しました。これは「エジプト・日本教育パートナーシップ(EJEP)」(※)の人材育成事業の一環で、医師や病院管理者向けの「病院管理」研修プロジェクトになります。
弊社が担当したのは、主に病院管理や経営・運営。日本国内で先進的な取り組みを行う病院、医療サービス、製品開発などの現場見学や意見交換、病院経営・運営に関する講義に焦点を当てた研修プログラムを提供しました。参加者からのフィードバックはとても好評で、充実したプログラムとなりました。

今回は本研修プログラムのご紹介とそこでの気づきを、弊社インターン生の栗原瑞生さんがレポートします。

※「エジプト・日本教育パートナーシップ(EJEP)」とは
エジプトでは、長期開発戦略で教育・保健分野の人材育成が急務となっています。その流れで、2016年2月に日本とエジプト両政府の間で締結された協定がEJEPです。これは技術協力と有償資金協力を通して、日本の教育をエジプトの初等、基礎教育、専門、高等教育等すべてのレベルの教育システムに応用し普及することを包括的に支援実施することを目的としています。

🔳協力機関一覧
慶應義塾大学病院
成育医療研究センター
プラネット・アーバンクリニック(医療法人社団プラタナス)
富士フイルム株式会社
イーク(医療法人社団プラタナス)

インターン生レポート「エジプト人医師訪日研修プログラム」

本研修の参加者は、エジプトの主要な病院で病院長やゼネラルマネージャー、医長などの役職で、医療機関の経営や管理に関わる方々でした。研修プログラムを通じて、彼らが講義を受けながら質問したり互いに議論したりする様子を間近で見ることができ、エジプトの医療のどこに問題意識を抱いているのか、また彼らが日本の医療のどこに興味・関心があるのかを感じることができました。

今回メディヴァは、大きく3つのテーマ(「病院の経営と管理」「デジタルヘルス」「予防医療(健診)」)で構成されたプログラムを提供しました。ここではそれぞれのテーマについて、プログラム内容や研修の様子をご紹介します。

メディヴァ代表大石によるイントロダクション

テーマ1:病院の経営と管理

「病院の経営と管理」のテーマでは、2日間に渡って講義をしました。講義のトピックは「日本の患者動向と医療提供体制」「病院の経営管理」「医療安全」「病床管理」「業務改善」「人材採用・管理」の6つ。どの講義においても活発な質問や議論がありました。彼らの病院で抱えている課題をどのように解決すれば良いかや、もう少し大きな視点でエジプト全体の医療を良くするためにはどうすべきかなどの質問があり、参加者が切実に感じている課題の解決に向けて学ぶ姿勢の高さを感じました。中でも彼らの議論で印象に残ったのは「病院経営」「医療安全」「業務改善」についてでした。

病院経営については、実際に日本ではどのように経営されているのか、また、どのような組織構成なのか、そこでの課題は何かなどの具体的な質問が多数ありました。エジプトと日本では、医療体制をはじめとして、保険制度や予算配分、人口動態まで大きく異なります。例えば、エジプトでは国民皆保険制度の整備が進められているものの、まだ全ての地域で導入されるには至っていません。また、日本と比べて、国家予算に占める医療費の割合がかなり低く、国として医療への投資がまだ十分ではありません。さらに、高齢者の割合は日本では30%ですがエジプトでは5%程度であり、人口構成が大きく異なります。顕在化している社会課題や医療課題、問題意識の違いなど、背景は大きく異なりますが、異なるからこそ知識や経験の共有や意見交換は、互いにとって新たな視点からの気づきが生まれることを感じました。

医療安全については、日本のインシデントレポートの仕組みについての議論がありました。本来、インシデントレポートは、責任の追及のためにあるのではなく、同じ医療事故を繰り返さないためにあります。しかし、エジプトでは現状、法律で医師が十分に守られていません。そのため、医療過誤により刑事責任に問われてしまう場合も多く、インシデントレポートはあるものの、報告しないこともあるため、実状としてはうまく機能していないとのことでした。報告しないということは、程度の差はあるもののエジプトだけでなく、日本やその他の国々においても、大きな課題ではあります。1999年の米国医学研究所が発表した報告書では、世界的に最高水準とされている米国でも医療事故が起きている事実を明確にしたことで大きな衝撃を与えました。また医療事故の存在を隠すのではなく、必ず起こるという前提のもと、学び、備えていかなければいけないということを示しています。

業務改善については、病院のバリューチェーンで整理することで、どこにボトルネックが生じるかが見えてくるという考え方のフレームワークの基本から、これまでの事例を踏まえて、日本の病院ではどの点で業務改善を実現できたかの説明がありました。特に質問が多かったのは、業務改善による時間短縮や医療ケアの質の向上、効果的な施策、評価方法などでした。国や制度が異なっても、基本的なフレームワークやロジックの組み立て方は応用できることはもちろんですが、具体的な手法の中にも有効で参考になるものがありそうでした。

メディヴァによる講義の様子

テーマ2:デジタルヘルス

「デジタルヘルス」のテーマでは、慶應義塾大学病院、成育医療研究センター、プラネット・アーバンクリニックを訪問し、それぞれの取り組みを紹介していただきました。慶應義塾大学病院では、AIホスピタル事業に関しての説明と施設見学を実施。リハビリテーション医療におけるDXや着衣型ホルター心電図について講義していただき、参加した医師の方々は、技術そのものだけでなく、導入や普及の方法についても関心を持っていました。また、「全身用立位・座位CT」を用いた検査の非接触・遠隔化、エレベーターの乗降も可能なお薬配送ロボット「Relay」、車イス型自動運転サービス「WHILL」、お薬ピッキングロボット、効率的な病床管理のためのコマンドセンターなどが実際にどのように活用されているかの案内もあり、医療分野におけるデジタル化やAIの活用を学ぶことができました。

慶應義塾大学病院にて

成育医療研究センターでは、エジプトで生体肝移植の指導経験もある笠原院長の講義や病院の紹介がありました。講義では、参加医師から、「日本の環境は整っているように見えるのに女性が子供を産みにくいのはなぜか」という質問もありました。また、成育医療研究センターで取り組んでいるAIホスピタル事業を含めた見学では、様々な質問が飛び交い、関心の高さがうかがえました。

成育医療研究センターにて

プラネット・アーバンクリニックでは、オンライン診療の事例紹介と実際の診療のデモが行われました。「仕組みづくりが優れている」や「エジプトでの導入も手伝って欲しい」などのコメントがありました。日本とエジプトにおけるオンライン診療の規制レベルの違いについての議論もありました。

テーマ3:予防医療(健診)

「予防医療(健診)」のテーマでは、富士フイルム株式会社とイーク(女性のための人間ドック・婦人科検診クリニック)を訪問しました。
富士フイルム株式会社では、軽量・小型な携帯型X線撮影装置「Xair」と、がん検診を中心にインドなどの新興国での健康診断サービス事業を展開する「NURA(ニューラ)」の説明がありました。

富士フイルム株式会社にて

「イーク」では、経営戦略や人材戦略などの講義のあと、施設見学を行いました。充実した設備や清潔感ある施設の見学を通して、「イークの利用者満足度の高さ」について納得されている様子でした。

イーク有楽町にて

最終日:ラップアップセッション

最終日のラップアップセッションでは、「日本の医療のシステムの優れた点を導入する方法」や、「病院やクリニックの質向上のためのモニタリングや評価方法」、「日本の診療報酬制度」などについて議論がされました。講義や病院見学を通して、「日本の病院施設や医療現場を肌で感じ、関心があった“制度・基準・質”について詳しく学ぶことができた」とのコメントと同時に、多くの学びや気づきがあった充実した5日間の研修プログラムに対して感謝の言葉がありました。

ラップアップセッションの様子

さいごに(コンサルタントより)

今回のように弊社では、これまでも海外からの視察団に対する研修プログラムの支援を行なっています。これは、弊社がこれまで多くの医療機関の支援を通して得た「医療現場での様々な知見」や「新しい取組みを実践する場」を持っていること、また医療・ヘルスケア分野における「国内外の幅広い人脈ネットワーク」を構築していることという強みを活かした支援になります。弊社はこのような研修プログラムはゴールではなくスタート地点であると捉えています。研修プログラムの主催者や参加者が、このような機会を通じて意図したこと、学んだこと、触発されたことを、次のステップに繋げることが重要です。弊社は、主催者や参加者と今後の展開をともに考えていくパートナーという視点で、研修プログラムの企画、調整、同行に関わっております。


監修・広報担当

林 佑樹
上智大学経済学部卒業。新卒で大手企業向け基幹システム開発企業に勤務。従業員規模1万人以上の企業向けにITシステムの提案営業からプロジェクト規模数十名程度のプロジェクト管理を行う。地域医療に興味を持ち、2013年よりメディヴァに参画。人生100年時代における医療介護モデルづくりを担当。地域医療を担う医療機関のコンサルティングを行いながら、国内外の医療介護のITサービス開発を行う。ウェラブル端末やIoT機器等を活用した医療者と患者の新しい関わり方や次世代に即した医療モデル開発を担当。

海外事業開発に強いメディヴァのコンサルティングについて