2024/03/29/金
医療・ヘルスケア事業の現場から
コンサルタント 川木元博
目次
2019年に働き方改革関連法が施行されてから、社会全体に労務管理の適正化が求められています。中でも「時間外労働の削減」や「年次有給休暇の取得」を推進する政府方針の中で従業員の勤怠管理が重要課題となりました。
業務環境改善には相当の期間が必要として5年間猶予された医療業界においても、2024年4月以降は他業種と同水準の適正管理が求められることになります。この5年間、多くの企業で取り入れられた勤怠管理方法はクリニックにマッチングするのか、クラウド勤怠管理システムを導入した他業種事例からその可能性を探っていきます。
働き方改革関連法と2020年以降のコロナ禍において、多くの企業で勤怠管理のデジタル化が加速しました。総務省「情報通信白書」によると2022年時点で「給与・財務会計・人事」分野でクラウドサービスを導入している企業は回答総数の46.6%を占め、働き方改革関連法施行前の2018年から15%程度の上昇となっています。またクラウドサービスを含めた何らかの勤怠管理システムを使用している企業は6割を超えるともいわれ、タイムカードやエクセルでの管理は少数派に転じています。
一方、医療業界においては2023年現在においてもタイムカードやエクセルによる勤怠管理が主流となっており、特に数名~10名規模のクリニックにおいてその割合が大きくなっています。そこには働き方改革が猶予されたこと、コロナ禍においても勤務体系が大きく変わらなかった(リモート勤務への代替が効かない業種である)ことで、コストを掛けてまで転換を必要としなかった背景があります。
・スマホでの打刻、ICカードでの打刻等事業所に合った管理が可能
・打刻や申請情報をどこでも確認することができる(外注先等)
・遡ってのデータの吐き出しが容易にできる
・自動集計機能により手作業が少なくなりミスが起こりにくい
・作成したシフトと打刻に相違がある場合アラートで認知できる
・打刻方法を選択できるため不正が起こりにくい
・法改正に即対応しているため常に法律に沿った勤怠管理が可能
・行政からの問い合わせ(調査)の際に精度の高い法定帳簿が抽出できる
実際に他業種でクラウド勤怠管理システムを導入した際の変化と、それがクリニックにおいてどのように活用され得るか考えていきます。
⇒他業種での事例
複数店舗における打刻が1アカウントで管理できるようになったため、移動する従業員のためにタイムカードを複数枚用意する必要がなくなり、収集、管理する手間が省けるように。また、従業員も自身のスマホにてワンタッチで打刻ができるため、双方の負担が減りました。
⇒クリニックの場合
リモート業務や在宅看護業務等において、職員の正確な勤怠を収集するためには遠隔による打刻が必要となります。また分院への移動が発生するクリニックについては、複数のタイムレコーダーを設置することなく一括管理が可能です。
打刻エリアをGPSで特定する(指定したエリア内でしか打刻できない)機能や打刻地点を記録する機能が備わっているシステムも多く、不正防止にも配慮されています。その他、共有PCでの打刻やICカードでの打刻等、それぞれの環境に合った打刻方法を選択できます。
⇒他業種での事例
従来、タイムカードの修正や各種休暇申請を紙ベースで提出してもらっていたが、システム内で申請承認ができるように。また年次有給休暇の残数管理機能も連動しているため、煩雑な書類のやりとりや管理簿の別途作成が必要なくなり、結果としてペーパーレス化も進みました。
⇒クリニックの場合
管理部門を置かないクリニックの多くは、院長自ら従業員の申請処理, 修正作業、法定帳簿の管理を行っているのが現状です。導入により書類管理の必要が減り、また年次有給休暇等の残数管理をシステムに任せることで、医療行為や院内環境改善に集中する時間が増えるでしょう。法律で保存期間が定められている法定帳簿(出勤簿、年次有給休暇管理簿等)の管理、抽出も可能です。
⇒他業種での事例
毎月タイムカードや従業員からの申請書を確認、承認し、控えをコピーの上給与計算の外注先へ郵送していたが、クラウドにより打刻や申請が外注先から確認できること、また双方いつでも確認が可能であることで、必要以上の連携がなくなりました。イレギュラーが無いときは院長が関わることなく給与明細が作成される時もあります。
⇒クリニックでの活用例
前述の通り、クリニックにおいては院長自らがあらゆる管理を行う必要があることから、一定のコストを支払い、給与計算を外部に依頼するケースが多くなっています。その中で連携作業に必要以上の時間をかけることは顧問料に対して非効率であると言えます。クラウド勤怠管理システムを導入することで打刻状況や申請状況が外注先に自動的に連携されるため、毎月発生する給与計算業務において、院長の負担軽減に繋がると言えます。
弊社支援先においても導入が進んでおり、書類管理や共有の手間がなくなったこと、休暇申請等が簡素化されたことで業務効率化、ペーパーレス化の面で特に効果が上がっています。一方で、導入期の設定や操作手順への慣れに時間がかかってしまう点や複雑な給与体系に対応しきれない部分もあり、課題は残っていると言えます。
労働関連法は今後も複数の改正が見込まれており、医師の働き方改革施行後数年は医療業界への行政の監視が厳しくなることと予想されます。上で述べたように、クラウド勤怠管理システムの導入は効率的かつ正確な管理を可能にし、クリニックにも多くのメリットをもたらします。この機会に管理体制を見直し、導入を検討するのも良いのではないでしょうか。