2024/03/25/月

大石佳能子の「ヘルスケアの明日を語る」

エジプトから医師らが来日!AIホスピタルでの研修

エジプトの方々を伴って、慶應義塾大学病院AIホスピタルの見学に行ってきました。「エジプト人医師 病院管理・保健システム研修」の一環で、病院長や医長、管理部門長など計10名を対象とした7週間の研修のうち、1週間をメディヴァが担当しました。
エジプトでは、教育・保健分野の人材育成が急務となっているために、2016年2月には日本、エジプト両政府の間で、「エジプト・日本教育パートナーシップ」(EJEP)が締結されました。技術協力と有償資金協力を通して、日本の教育システムをエジプトに応用し普及することを包括的に支援実施します。メディヴァへの期待は、医療分野における、先進的な取り組みと病院経営・運営に関する見学と講義です。その一環で慶應義塾大学病院を訪ねました。

慶應義塾大学病院AIホスピタルは国の公募事業として、2018年から取り組みが行われています。副病院長でAIホスピタル副研究責任者の陣崎雅弘教授と3人の先生から取り組みのご説明を受け、その後院内を見学させていただきました。
ご存じの方も多いと思いますが、病院の建物は改築し、とても明るくて気持ち良い環境になっています。電動車いすWHILLが病院の主要な場所間の移動を支援しています。座って操作ボタンを押すと発進し、人にぶつかりそうになったら危険を察知して自動で止まります。正面玄関にはデジタルサイネージが導入されています。以前は施設基準等の記載内容が変わるたびに、カッティングシートを作って、切って、上から貼って、を繰り返していたそうで、対応が格段に楽になったとのこと。

講義は個別の診療科での開発取り組みのご説明から始まりました。
まずは、川上途行准教授より、リハビリにおける情報プラットフォームとビッグデータの活用についてお話をいただきました。リハビリはセラピストの勘と経験に頼り、やもすれば個人芸になりがちです。大学でリハビリを受けた8000人のデータを用いて、最適なリハビリメニューを提案します。これによりリハビリの質の向上と効率化を図ります。
次は勝俣良紀専任講師による、着衣型3誘導心電図の開発について。忙しい中年の患者のためで、家に送って自分で測定できるホルター心電図です。3誘導のものは初めてで、診断にはAIを使っています。医療機器認証を取り、保険収載を目指していますが、AI技術を保険収載するのは難しいと悩みを仰っていました。
3番目は病理診断について上野彰久病理診断部長から。フィリップスの高精細デジタルスキャナーを用いることにより、高速、高スループットを実現しました。生検の場合は、使い勝手は同じですが、手術検体の場合はまだ顕微鏡の方がいいそうです。
最後にまとめとして、陣崎教授よりAIホスピタルについての全体雑像についてのお話がありました。医療ではまだAIの親和性が無い中、病院全体で前向きに取り組むために特に組織作りには力を入れたとのこと。小さな本部と全ての診療科に2~3人の担当医を置いたピラミッド型の組織にして、25個の広い研究課題を扱っているそうです。

病院としての取り組みとしては、①問診のデジタル化、②患者のスマホを使った健康管理、③非接触・遠隔での検査、④経営数字の可視化、⑤案内や薬のピッキング・搬送へのロボット活用、を行っています。
これらは単純な業務で、「AIは仕事の負担軽減を目指して単純な方が向いている。診断を伴う複雑なものはブラックボックス化するし、責任の所在が不明でAIでは扱いにくい」と仰っていたのが印象的でした。先ほどの勝俣先生が着衣型3誘導心電図の保険収載について「AIでは難しい」と言われたのも同じ理由です。AIは非定型の業務には向かないので、扱い易い部門は薬剤、検査で、扱いにくい分野は看護、連携とのこと。また生成AIの活用は、まだ検討中とのことでした。

講義の後、病院内を見学し、薬剤部の自動ピッキング装置、夜間の病棟への薬剤配送ロボット、連携室の壁一面に広がる病床の稼働率等の可視化ボード、などを見学させていただきました。現場業務における取り組みはAIというより、DX化(ICT、ロボット活用)がメインでしたが、病院でこれらが実際活用されているのを見ることは、非常に興味深いものがありました。
エジプトの方々からは、「もっとAIっぽいかと思った」というコメントもありましたが、病院の雰囲気を見ることができたのもあり、全般的に好評でした。全体で3時間程もの講義、見学でしたが、「もっと時間が欲しかった。もっと見学したかった」とのフィードバックをいただきました。個人的には内容もさることながら、陣崎先生はじめ先生方、事務の方々の熱心さとホスピタリティに感動した視察でした。
その後、陣崎先生からはメールをいただき、4月11~14日の日本放射線学総会で幾つかDX関係の講演、シンポジウムを開催されるそうです。ご案内をいただいたので、ここに共有します。ご都合の合う方は是非いらしてください。

●第83回日本委託放射線学会総会@パシフィコ横浜
https://site2.convention.co.jp/jrs83/program/

尚、メディヴァが担当した1週間の研修は大好評で、「メディヴァはエジプトの病院は支援しないのか?」と聞かれています。中東ではサウジの王族からのご依頼で少し仕事をしたことはありますが、エジプトは未だで「機会があれば是非!」とご返事しておきました。そのうちエジプトの病院やピラミッドのご報告もできるかもしれません!