2024/03/22/金

診療報酬改定

2024年度診療報酬改定(精神科編)

執筆・忠/監修・取締役 小松大介

概要  

精神科領域における地域包括ケアシステムの構築を進めるべく、精神科地域包括ケア病棟入院料が新設されたことに加え、退院後、外来や在宅などの地域の受け皿となる機能についても一部評価の見直しがなされました。また、児童・思春期等における虐待や不適切な養育への対応をはじめとした患者さんへの多職種による介入についても前回改定に続いて評価がなされています。 

ポイント  

:精神科地域包括ケア病棟入院料の新設 

精神疾患患者の地域移行・地域定着を推進する観点から新しい入院料として精神科地域包括ケア病棟入院料が新設されました。年間180日間を限度として算定することが可能となっており、精神科救急急性期医療入院料や精神科急性期治療病棟入院料等の退棟後の受け皿や、自宅等から直接患者さんを受け入れる病棟機能としての活用が期待されます。 

主な要件 
●当該病棟の入院患者のうち7割以上が入院日から起算して6月以内に退院し、自宅等へ移行すること 
●看護職員配置は15:1かつ看護職員、作業療法士、精神保健福祉士及び公認心理師の配置で13:1を満たす必要がある 
●精神科入退院支援加算(新設)の届出および一定の在宅医療実績を有すること 等 

Ⅱ:精神医療における外来、在宅診療に係る評価の見直し 

地域に貢献する精神科医・医療機関におけるかかりつけ精神科医機能を評価する形になっています。手厚い診療に重きが置かれていることに加えて、早期介入、トラウマ支援、児童思春期の患者に対する診療等、多職種介入による質の高い診療・支援も評価されています。 

1.通院・在宅精神療法の見直し 
60分以上の精神療法を行った場合について、更に評価がされている一方で30分未満の点数は見直しが入っており、手厚い診療が重視されています。 

2.通院精神療法【情報通信機器を用いた場合】が新設 
過去1年以内に対面診療を行った患者さんに対して算定が可能になります。地域の精神科医療提供体制への貢献や安全性を確保した向精神薬の処方が要件として求められています。 

3.児童思春期支援指導加算の新設 
児童思春期の精神疾患患者に対して、多職種が連携して行う外来診療についての評価がなされています。 

4.心理支援加算の新設 
心的外傷に起因する症状を有する患者に対して、公認心理師が行う心理支援について新たに評価がなされています。 

Ⅲ:その他重点分野における対応への評価 

2025年以降の生産年齢人口の減少を鑑み、前述の児童思春期の患者に対する診療に加え、気分障害に対する治療への評価の見直し、早期介入に対する診療が評価されるなど、これまでの高齢患者への対応や地域移行の促進に加え、若年層へのケア・早期介入に重点が置かれています。 

1.精神科入退院支援加算の新設 
入院早期からの退院支援に対して評価がなされています。 
原則7日以内に退院支援計画を作成することが義務づけられているなど、積極的な地域移行をさらに促進する内容となっています。 

2.早期診療体制充実加算の新設 
精神疾患の早期発見および症状の評価等の診療を行うにつき十分な体制を有している医療機関で精神療法を行った際の加算が新設されました。15点~最大50点が通院・在宅精神療法に加算されます。要件では、救急対応も求められた内容となっています。 

3.経頭蓋磁気刺激療法の見直し 
気分障害に対する、薬物・認知行動療法に次ぐ第3の治療とされていた当該治療に対する点数が、1,200点から2,000点に大きくアップします。(要件は現行と変更なし) 
当該治療は最大30回で完結する治療法であることから、やはり早期に地域移行を促す内容と考えられます。 

おわりに  

精神科領域は項目こそ少ないですが精神科地域包括ケアを手掛けるための専門病棟(精神科地域包括ケア病棟)が新設されたことが大きく、外来や在宅領域も含めて地域移行を後押しする形で評価が新設・見直しがなされました。地域移行を推し進めるこの方向性は今後も大きく変わらないことが想定されるため、シミュレーション等を丁寧に行いながら、病棟構成変更の検討や退院後患者へのアプローチの在り方、介護・障害福祉サービス施設との連携を積極的に検討・推進していくことが求められます。 


監修者

小松 大介
神奈川県出身。東京大学教養学部卒業/総合文化研究科広域科学専攻修了。 人工知能やカオスの分野を手がける。マッキンゼー・アンド・カンパニーのコンサルタントとしてデータベース・マーケティングとビジネス・プロセス・リデザインを専門とした後、(株)メディヴァを創業。取締役就任。 コンサルティング事業部長。200箇所以上のクリニック新規開業・経営支援、300箇以上の病院コンサルティング、50箇所以上の介護施設のコンサルティング経験を生かし、コンサルティング部門のリーダーをつとめる。近年は、病院の経営再生をテーマに、医療機関(大規模病院から中小規模病院、急性期・回復期・療養・精神各種)の再生実務にも取り組んでいる。
主な著書に、「診療所経営の教科書」「病院経営の教科書」「医業承継の教科書」(医事新報社)、「医業経営を“最適化“させる38メソッド」(医学通信社)他