現場レポート

2024/02/29/木

医療・ヘルスケア事業の現場から

看護部ローテーションによる組織力と看護力向上について

コンサルタント 星野宏仁

はじめに

病院における収益構造において「入院」は経営を支える大きな要素です。
今回は、弊社が支援した中小病院(許可病床数199床)で、入院患者の受入向上の取組みと、その過程で見受けられた課題へのアプローチとして、看護部の人事ローテーションが効果を奏した事例をご紹介します。

支援先での取組みと、その過程で見受けられた課題

支援先の病棟機能としては、急性期、回復期、慢性期まで一気通貫で対応できる病棟構成です。病床稼働の向上に向けて、主に取り組んだ内容は、下記3点です。今回のテーマとは異なるので、取り組み内容のポイントのみ記載します。

①予定外相談に対する受入意思決定の再整備
受入可否判断が、現場看護師ごとの判断にならないよう、意思決定者を看護部長に集約しました。

重要連携先からの紹介相談には、可能な限り1営業日以内で回答
急性期病院からの紹介は、同時に多数の後方支援病院に相談されている場合が多いです。他医療機関よりも早めに受入回答できるよう、受入病棟及び医師調整を連携室に集約しました。

③ベットコントロール強化による院内転棟の促進
一般病棟から回復期病棟及び慢性期病棟に院内転棟が促進できるよう、ベットコントロール会議を毎日開催しました。その際に、院内転棟の判断材料として、一般病棟のみ患者ごとの日当点も報告してもらい、日当点が落ち着いてきた患者は、他病棟への院内転棟を検討できるようにしました。

これら1つ1つの取組みによって、病床稼働は向上してきたのですが、病床稼働に連動するように、「組織的な課題」と「スキル的な課題」がある事が分かりました。

【組織的な課題】
病棟間を越えたコミュニケーションが取れておらず、業務の量や質の違い等のイメージから関係性が悪化する、という組織的な課題がありました。業務環境変化への対応力では、組織的に業務対応できていないという課題がありました。スタッフ1人1人の対応力不足はもちろんありますが、他病棟ではチームとしてマニュアル化して対応できている内容であっても、他の病棟では属人的対応で都度対応していたので、ミス、漏れが続き、スタッフの疲弊に繋がっていました。

【スキル的な課題】
当該病棟以外では勤務できない看護師が多く、組織として成長機会の提供が行えていないという課題がありました。その為、10年以上勤務しているベテラン看護師であっても所属病棟以外では新人レベルの業務内容にしか対応できないので、病床稼働に応じた応援体制が構築できない状況でした。

よくよく看護部人事についてお伺いしてみると定期的な人事異動は、ここ15年以上行っておらず、1つの病棟に15年勤務されている看護師も多数いました。

看護部ローテーションの企画

看護部全体の取組みとし、スタッフ層に落とし込む際にも「部」として実施すべき事案という位置けで伝達。また企画内容は、目的、目標、手段、達成状況の順番で、看護部長、事務長と意見交換しながら進めました。定期的な人事異動は十数年ぶりで、スタッフからの反発も予想されました。初回ローテーションでは、病棟師長から開始することで、看護部としての取組みの本気度を伝えながら、今後のスタッフ・ローテーションに向けた受入体制などの土台作りも行えるようにしました。

目的:最終的に実現したい組織状態
●看護部間の異動を活性化することで、看護部組織の一体化をさらに向上させる。
●どの病棟でも勤務できるプロフェッショナルなスタッフを増やし、患者対応力を高める。

目標:目的を成し遂げるために必要な施策
●看護部として、定期的な人事ローテーションが行えている。

手段:目標を成し遂げるために必要な具体的な手段、行動
●看護部全体に、ローテーションを目的と合わせて浸透させる。
●まずは、病棟師長ローテーションから開始し、段階的に進めていく。
●病棟師長ローテーションから開始し、受入先の受入体制を整える。
●ローテーションの透明性が保てるよう異動基準、異動時期等を明確にする。

達成状況:目的達成のために、目指すべき達成状況※3年後の達成状況
●組織力の安定化:看護部全体における退職率を全国平均水準にする。
●患者対応力の向上:2部署以上にまたがる看護スキルを身に付けた職員割合を約10%から約30%まで引き上げる。

看護部ローテーションの伝え方

スタッフ層に伝える際は、「なぜ、この看護部ローテーションが必要なのか。」という背景と目的が正確に伝わることを大切にしました。看護部長、事務長と私で、全スタッフに直接説明し、スタッフが感じた不安にも可能な限り解消できるよう各病棟で複数回の説明会の時間を設けました。

看護部目標から病棟目標、病棟目標からスタッフ目標への落とし込み

看護部ローテーションという看護部目標が、スタッフ1人1人の目標まで落とし込めるよう病棟師長にスタッフ目標を設定してもらいました。勤務年数が長くローテーション候補となるスタッフに対しては、他病棟への応援機会を増やし、他病棟の業務内容を事前に経験してもらう。中堅メンバーであれば病棟師長ローテーションに備えて、周辺業務のマニュアルの再整備を行ってもらうなどです。

今回の取組みを振り返って

病棟師長ローテーションを実施して約1年が経過しようとしています。病棟師長ローテーションで意識して取り組んだ事は、「師長同士の横の繋がり」と「師長と看護部長の縦の繋がり」を強くする事です。「師長同士の横の繋がり」では、毎日のベットコントロール会議後に、各病棟での取り組みや組織状況を共有し、病棟間で協力できる事は看護部長中心に病棟間連携を行ってきました。病棟間連携が実現する為に、月1回のペースで、師長と看護部長の面談を行いながら、看護部長が各師長を支えてきました。

その結果、病棟師長ローテーションによって、
●同じ業務内容でも病棟間で手順が異なっていたので、やりやすい方法に統一できた。
●他の病棟を経験し、視野が広がった。
●院内転棟先の状況が分かり、転棟先まで見据えた看護が意識できるようになった。
●ローテーションによって、新しい環境で働けた。

など、同じ病棟で勤務していては得られない気付きや経験を得ている様子が見受けられました。その1つ1つが、業務改善や看護スキルの向上に繋がり、スタッフたちも自分たちの職場が良い方向に向かっていると実感できたと思います。スタッフ1人1人の雰囲気が良くなると病棟単位の雰囲気も良くなり、結果として看護部全体の雰囲気が良くなり、最終的には患者受入れにも協力的になりました。

病床稼働の向上させる為には、実際に患者と接しながら病床稼働を支えている看護部組織も重要になります。弊社の実行支援では、コンサルタントが経営視点だけでなく現場視点も持ちながら現場スタッフと供にご支援させていただきます。

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